砂漠を抜けた後のこと ②
クラと話しながら歩いているうちに、一つの村へとたどり着いた。
旅慣れをしているフォンセーラとノスタがさっさと村への滞在許可を取ってくれた。
こういうところ、手際が良い。
俺もこの世界にきてから大分、そういった交渉術が身に付いてきたつもりだけれどもまだまだ足りない部分も多いのだ。
「まさかこんな村に三人も旅人の方が訪れるとは」
村長はそんなことを言っていた。
どうやらこの場所は大分田舎に位置するらしい。あんまり地図とか確認してこなかった。
海沿いで、他国のどことも接しておらず中々ここまでくる人っていないんだとか。あとは砂漠を抜けるルートが一番早くこの村にはたどり着けるからというのもあるかもしれない。俺達は簡単に砂漠を抜けることが出来たけれど、普通の人はそうもいかなかったりする。
俺は母さんの息子だし、クラだって傍にいるから何も問題はなかったけれど……他の人にとっては砂漠を突っ切るなんて死活問題だろう。
遠回りをしてわざわざこの村に滞在しようとする人って中々いないっぽい。
滞在費を多めに渡したら余計に喜ばれた。こういう村だと商人ぐらいなら来るけれど、それ以外は来ないそうだ。
空いている家をそのまま一軒かしてもらうことになった。元々此処に住んでいた一家が都会へと移住したんだとか。
この村にはそれなりの数の子供がいる。俺は地球育ちだから中々ぴんとは来ないけれど、子供もこの世界では十分な労働力だ。
子供を産まなかったらそれこそ女性側がかなり非難されるらしい。……普通に男性原因の不妊もあるけれど知らない人は知らないだろうしなぁ。
早速貸してもらった一軒家の中に入る。田舎だというのもあり、戸締りとかも割と適当だ。一応鍵はついているけれど、簡単に突破できそうな感じ。
こんな場所で暮らすのって大変だよなぁ。一応魔物が襲い掛かってこないように対処はされているようだけど、人災にはどうしようもないし。
盗賊とかそう言う系の人達が迫ってきたらそれはもう大変なことになるだろうな。この世界だと一つの村が知らない間に滅んでしまうということも当然あるのだ。
そういうことが起こると思うとこの世界って本当に物騒だ。
だから俺はこうして村に滞在させてもらう間もちゃんと周りに気を配っておかないと。これでしょうもないことで俺の命の危機とかあったら、母さんや父さんが悲しんでしまうし。
大体母さんの息子だって立場の俺が簡単にやられたら母さんのことを侮るような存在も出てきそうだ。正直言ってそれは嫌だ。母さんはこの世界で特別な神様だし、その尊厳とかが損なわれるようなことは絶対にしたくない。うん、俺は母さんが弱いとかそんな風に思われるのだけは嫌だ。
「サクトはこれからどうするんだ?」
ノスタからそんなことを聞かれる。
ちなみにこの家は、ベッドなどはないので布団を敷く形である。元々空き家なのもあって、家具などはあまりない。
ただ残されているものはあるから、最近まで人はすんでいたんだろうなというのがよく分かる。
「俺はちょっと魔法の練習とか、何か作れないかとか試してみる。フォンセーラとノスタは自由にしてていいよ」
フォンセーラとノスタは俺の動向次第でどんなふうに動くか決める予定だったみたいだ。別にもっと自由気ままにしてもらっていいのだけど。
ノスタに関しては母さんの息子である俺の意向をちゃんと聞きたいとかそんな風に思っているらしい。まだ俺と一緒に旅をするようになって間もないのでどんなふうに俺と接していくかなどを決めかねているのかと思う。
……俺は母さんのように気に食わない相手をすぐに殺したりするつもりは一切ない。とはいえ、ノスタからしてみると俺はあくまで母さんの息子という認識でしかなく、戸惑いもあるのかもしれない。もっと自然体になってもらった方が楽なんだけどなぁ。
フォンセーラとノスタは一旦家から出て行った。俺を一人にしようとそんな風に思ってそうだ。
「ノスタは咲人に対して緊張して仕方ないみたいだね」
「そうだな。別に俺はノスタの信仰対象ではないし、もっと楽にしてほしいけれど」
「無理じゃない? フォンセーラも咲人が乃愛の息子だからって色々思う所満載な態度だし、ノスタだってそのままな気がするけれど」
「……まぁ、それもそうかも。結局俺が母さんの息子であることは変えようがない事実だしな」
「うん。……咲人は、それが寂しかったりするの?」
クラはそう言いながら、俺の膝の上にのったままこちらをじっと見つめている。どうやら心配をかけてしまっているようだった。
「まぁ、ちょっと変な感じはするよ。だって俺はただの高校生のつもりだったから。そもそも神の血を引いていようが、俺は俺だし。出来れば一緒に旅するフォンセーラやノスタにはもっと普通にはしてほしいけど……まぁ、それはそのうち時間が解決するだろうな」
俺と一緒に旅をすれば、俺が母さんのようにすさまじい存在ではないことぐらいは分かるだろうしな。
そう思って告げた言葉には、呆れた目を向けられてしまった。なんでだろうか。




