砂漠を抜けた後のこと ①
「クラ、どうかそのお御業をを僕に向けてくれ!!」
目の前で、クラに向かってキラキラした目で懇願しているノスタの姿がある。
……クラはそれに対して、冷たい視線を向けている。
ちなみに口調などは、クラから「丁寧過ぎるのも気持ち悪い」と言われてこうなっている。
「なんで僕がそんなことをしなきゃいけないの。しかも向けて欲しいって、マゾなの」
「ノースティア様の正式な神獣であるクラが僕に向けてくれるものだったらなんだって受け入れる」
発言が危ない。
……信仰心って本当に厄介な感情だよな。クラが変な要求をするような存在じゃないからまだいいだろうけれど。
「咲人、この人、気持ち悪い」
クラがそう言いながら、俺の肩へと乗る。ノスタは羨ましそうな目を向けているが、特に文句はないらしい。
というか母さんの息子である俺と神獣であるクラが仲良くしているのは信者からすると見ていて嬉しいものらしかった。
「そんなこと本心でも言われたらノスタが傷つくからね?」
「でも気持ち悪いしなぁ。乃愛の信者って大体こんなのばっかだなぁ……」
クラが遠い目をしている。
砂漠を抜けた後、俺達は街道を歩いている。しばらく砂漠で過ごしていたから、こうして木々などの緑を視界に留めると少し新鮮な気持ちになった。
ちなみにノスタが一番、感激していた。
長い間、砂漠に閉じ込められていた反動だろう。川などを見ても目をキラキラさせていて、本当にあの神様は酷いことをしていたんだなと改めて思った。望んでいないのに砂漠に閉じ込められるって最悪すぎる。
「ノスタ、クラに迷惑をかけてはいけないわ。ノースティア様はクラのことをとても可愛がっているらしいの。クラに嫌われてしまったら、ノースティア様にも嫌われてしまうことになるの。それは嫌でしょう?」
「……ぐぅ、それはそうだ。しかしノースティア様から向けられる感情ならどんなものでもいいが」
「それはそうだけど、そんなことばかり言っているとノースティア様に嫌がられるわ」
フォンセーラに咎められて、ノスタはそんなことを言っていた。
確かに母さんは面倒なことばかりされると、気持ち悪いと冷たい目は向けそう。クラと似ている部分もあるしな。
「ねぇ、咲人はこの後、何処に向かうの?」
「んー。特に決めてない。行き当たりばったりでも問題ないし。それにしても母さんや父さんに久しぶりに会いたくなるけれど、まだ母さんは満足してないかな?」
姉さん達にはこの前会ったけれど、両親とは会えていない。家族全員でゆっくり食事をしたりとか正直言ってしたい。独り立ちしたら家族全員で過ごすことも中々出来なくなるのが自然かもだけど、俺はなるべく家族と過ごす時間は作りたいな。
ただそれには母さんがどのくらいで満足するかによる。母さんがいつまでも父さんと二人がいいと言えばそれこそ何十年も何百年も会えないかも。
……その可能性十分にあるんだよな。
俺は人としての枠組みを外れかけているとは言われているけれど、いつ頃そうなるか分からないしなぁ。
「幾らでも乃愛は博人と一緒に居たがる気がする」
「うん。それはそう。父さんが俺達に会いたいって言いださないとだよなぁ……。ただ父さんも何だかんだ母さんに甘いし」
「博人は乃愛のこと大切にしているもんね」
父さんの決定が絶対だ。だけれども、母さんの望みに関しては父さんは言うことを割と聞く方だ。母さんはこの世界に戻ってきて、はしゃいでいるっぽいし……。
どうなんだろうなぁ。次の家族会議の時にでも、父さんと母さんに会いたいっていっておくか? しかし家族での食事などをするとなると、フォンセーラ達は連れていけるんだろうか。
うーん、そもそも自分の手で神界に行けるようになってからか?
神に纏わる物に関しては、少しずつ集めたりはしているけれど……。今の所、自力で神界に行く方法はちゃんと確立していないし。ちゃんと調べれてない。
自分の手で調べようとしているんだから、もっと報告的に色々探るか。
……というか、神様って食事とかももしかしたら要らなかったりする? どうなんだろうなぁ。
というか異世界だと家族で出かけるとかなかなかしないものか? 俺としては別に色んなところにも家族でなら出かけたいけど。
しかし命の危険な部分が地球よりもずっと多い。それもあってテーマパークのようなものはなかなかなかったりしそうだし……。
そういうもの作ったら、お金稼ぎには出来るか? でも縛られるのは面倒だしな。
……人相手より神様相手にした方が平和かも。俺が母さんの息子だって知ったら変な真似はきっとしないだろうし。
まだまだ自分の未来のことは決めていないから、旅したあとはどうするかも考えたい。まだ、先かもだけど。
「旅は少なくとも俺が満足するまで続けるけれど、その間にも家族で会う機会は何回か作りたいな」
「僕も博人と乃愛に会いたいから、賛成!!」
俺の言葉にクラはそう言って頷いた。




