砂漠を歩く ⑮
「えーと、じゃあ一先ずお試し期間って感じでいいか」
俺は少し考えた末にそう告げた。
なんというか、色々考えることはあるけれどこうして熱意がある母さんの信者を無下にしたいわけでもない。
「これから先、どんどん同行者が増えても面倒だから……もしかしたら途中で一緒には行けないっていうかも」
「そ、そうか。その時はその時だ!! ノースティア様のご子息と一緒に行けるならば良い経験になる」
とりあえずずっと一緒かは分からないと言ってもしばらく共に来るのは了承しておいた。
第一、出会って一緒に旅をすることになったとしても、何かの拍子に生きる道が変わることなんて当たり前のことだしな。
ずっと一緒にいるのなんて、家族になったりした時ぐらいだろうか。そうじゃなければ友人だって道が別れれば長い間、あわないなんてこともあるだろうし。
親子関係だと、子供が自立すれば一緒に暮らすことも無くなるわけだしな。そう考えるとこうして母さんの息子である俺と、その信者達が揃うのって奇跡的なことなのか?
まぁ、クラだって今は俺について回っているけれど何か気が変わって母さんや父さん、それに姉さん達の元へ行きたくなることもあるだろうし。そうなった時のことも改めて考えておかないとなんて思った。
「それにしてもサクトと一緒に行くということはノースティア様とお会いすることが出来るかもしれないということか……! 興奮しすぎてその瞬間、倒れてしまいそうだ」
「……あー、うん、まぁ、そのうち母さんにも会うかも。でも母さんは父さんと二人っきりの生活をそれはもう楽しんでいるからしばらくは俺の前にも来ないと思う。元の世界に居た時は、ずっと俺や姉さん達が居て二人になれなかったから、思う存分楽しむらしいから」
俺がそう口にすると、ノスタは相変わらず興奮しているようだ。鼻息が荒すぎる。母さんのことをその息子である俺から聞くだけで楽しいんだろうな。
とはいえ、クラに注意されたから一生懸命抑えているみたいだけど。
「それはいつ頃になるんだ?」
「さぁ? 母さんの神としての感覚を考えると、普通に人間の平均寿命より長かったりするかもだから、俺にはよく分からない。ノスタが生きている間には会えないかもな」
正直確証は持てないし、会えると期待させておいて会えないのはがっかりされれそうなのでそんな予防線を張っておく。後から文句を言われても面倒だし。
「そうか。それは少し残念だが、それでも僕の生涯でノースティア様に間接的でも関われるのならばそれは幸福なことだろう。僕はこの先何が起こったとしても、この生涯に悔いはない」
「そっか」
うん、重い!!
信仰心の深い存在って皆、こうなんだろうなと思いながら頷いておく。
「俺はもう少し砂漠を見て回って遊ぶ予定だけれど、大丈夫か?」
「何が?」
「だってノスタはこの砂漠で散々嫌な思いをしていただろう。あの神様のせいで、ずっとここから出られなかったわけだし、トラウマになっているんじゃないかと思って」
俺だったら砂漠なんてもう二度と視界に入れたくないと思ってしまう気がした。
だって普通にトラウマだし、死活問題だし。神様って存在のことを嫌になっても仕方ないのに、母さんへの信仰を失わないところも改めて凄いなと思った。なんていうか、精神力が。
ノスタは俺の問いかけにも平然としていた。
「別に? 確かにあの神は面倒だったけれど、それよりもノースティア様の息子であるサクトと神獣についていくことの方が大事だから。それにこの位でトラウマを負っているようだったら、とっくにあの神のものになっている」
「あー、それもそうか」
心が弱くて、折れてしまっていたらあの神様に靡いてしまっていたのだろう。無理やりだけれども、そうではないと自分を何とか納得させて、思い込んで。
でもそこで心を折ることなく、逃げ惑っていたからこそノスタと出会えたんだよな。
とりあえずノスタに問題がないなら、良しとしてこのまま砂漠の中を見て回ろう。
現れた魔物へはさっと対応して、魔法を使って悠々自適に過ごしていたらノスタには大分呆れられた。
この砂漠で、こんな風にのんびり過ごす存在ってなかなかいないらしい。ノスタには俺のことも、クラのことも既に知られているから特に隠すこともしなかった。
なぜかフォンセーラが「サクトとクラは凄いのよ」と自慢げにしていた。ノスタはそれに対して悔しそうにして、俺とクラに何かしてほしいことはないかと聞いてきたし。何を張り合っているんだかとよく分からなかった。
母さんの息子である俺の役にどちらが立てるかみたいなことで勝負みたいになっているのかもしれない。それに勝ったところで何がどうなるか全く分からないけれど。
時々クラも「僕の方が役に立ってるからね。君達は僕の下だから」なんて言って混ざっていた。まぁ、楽しそうだから放っておいたけれど。
それから砂漠を思う存分楽しんだ後、俺達は別の場所へと移動するのであった。