砂漠を歩く ⑭
「な、なにをするって……いうか、猫が喋って……!?」
「僕は乃愛の神獣だからね! それにしても乃愛の信者だっていうのならば、咲人に迷惑かけたらだめでしょ」
「乃愛??」
「君がノースティアと呼んでいる存在の別名だよ。乃愛は自分にとって面倒なことを起こす存在も嫌いだし、息子に変なことを言う存在も嫌いだよ?」
「の、ノースティア様の別名!? そんなものがあるのですか。というか、ノースティアの神獣様と出会うことが出来るなんてっ」
「ふんっ、近づこうとしないでよ。僕は君に撫でさせる権利はあげてないんだから!!」
「分かりました!! いつか触れさせていただけるぐらいに信頼を手にすることが出来れば幸いです!! それにしてもノースティア様が別名を持ち、それでいて、僕の知らない神獣が居るなんてっ」
「……僕は飼い猫だったから、神獣になったのは最近だもん」
「え、どういうことですか!! 元々ノースティア様のペットだったということですか? それはそれで凄まじい!! ノースティア様にペットがいたなどという記憶は知らない!! 信者達の間に電撃がはしりますよ!! ノースティア様のご子息だけではなくペットまで知ることが出来るなんて!!」
なんかクラとノスタのテンションの差が激しすぎる。
呆れた様子で、なんだこいつとでもいうようなクラと大興奮のノスタ。母さんの信者達って本当になんというか、信仰心が重いよなぁ……。
「それとノースティア様のご子息だということはお相手がいるということですよね!! ノースティア様が子をなしてもいいと判断した相手だなんて……!!」
「ノスタ、ノースティア様の旦那様とは私もお会いしたことはないけれど、あのノースティア様が恋焦がれてやまない相手だとは聞いているから子をなしてもいいというより、なんとしてでも子供を作ろうとした方が正しいと思うわ」
「なんだと……!? 神話に描かれるノースティア様はどのような美しく、強い神様に恋焦がれられても、求められても、興味本位で受け入れることはあってもすぐに捨てたと聞くのに」
「そうね、ノースティア様はそんな方だわ。ああ、一瞬だったとしてもノースティア様の関心を抱かれた神がとても羨ましい限りだわ」
……フォンセーラもなんで乗ってるんだろうか。フォンセーラは淡々としているようには見えるけれど、自分の方が母さんや父さんのことを知っていることをノスタに自慢している風である。
うーん、なんだろう? 信者的にはそういうマウントでも取りたくなるものなのか?
まぁ、フォンセーラは母さんの声を聞いたこともあるし、姉さん達とも会ったことあるし、俺と一緒に旅をしているわけだから母さんにも認識されているしなぁ。
こういうノスタ達の会話を聞いていると父さんに出会う前の母さんって本当に……って呆れた気持ちにはなるけれど。
なんというか誰にも関心一つ持たずに、好き勝手生きていたんだろうなと想像が出来る。所謂ストッパーのない状態で暴走していた母さんってことだしなぁ……。
うん、考えただけで恐ろしい。本当に母さんが父さんに出会ってくれてよかった。
「ノスタ。とりあえず……神様の問題は解決したわけだし、このままどうする? 俺達は砂漠をしばらくぶらつくけれど。このまま多分砂漠の外には出れるようになったはずだが……」
俺は一先ず、このままでは埒が明かないと思ったのでそう言って声をかけた。
うん、だっていつまでも話を続けそうだ。やっぱり母さんの信者だと、その信仰対象のことは幾らでも話せるんだろうな。
「サクトはどういう目的で旅をしているんだ? 僕はノースティア様の信者としてそのご子息の力にはなりたい! それにあの神の問題を片付けてくれたわけだし……。そのお礼もかねて!! 僕がついていきたいだけもあるけれど……だ、駄目か?」
あ、やっぱりついていきたいとそう言われてしまった。
母さんの信者の立場だと、俺についていきたくなるのだろうか。
「あー、うーん。俺は別にこれといった目的はない。諸事情で住んでいた世界からこちらにやってきて、自立した生活をするかとかそういうことしか考えてないし。神界にはそのうち行こうとは思っているけれど、神の血を継いでいようとも俺は特に何か考えてはいない」
「住んでいた世界?」
「あー、説明が面倒なんだけれど、母さんってしばらく異世界に居て、そこで父さんと夫婦になって俺達が産まれたから。俺は普通の人間のつもりだったから、母さんが神様だとかこっちきて知ったし。だからなんか別にノスタがついてきたところで何か面白いこととかはないよ。特別なことはないし。……まぁ、今回みたいに神に纏わることはあったりするし、母さんからの接触はあるけれどそのくらい」
崇高な目的とかはない。だからどうなんだろうってそう思う。
何か俺が成し遂げそうだからついて来ようとするのだったら期待外れだし。
「それでも行きたい! だってノースティア様の信者として、その息子であるサクトについていきたい。それにノースティア様の力になれることがあるのならば、とても嬉しいと思うんだ」
「あー……うーん」
どうしようかなと、少し悩んでしまう。
いや、だってさ。こうしてどんどん母さんの信者と知り合って、いつまでもついてきたいとか言われ続けてもきりがないし。
いや、まぁ、まだ起こってもないことを考え込んでも仕方がないんだけど。