砂漠を歩く ⑩
神様ならば、俺程度にこんな風にならないと思うんだけど。少なくとも本体だったら。
前に遭遇した火の神とか、水の神も依り代だったし。となると徹底的に痛めつけても問題なしか?
そうなっても本体が消滅をするわけではないだろうし。
この場を一先ず撃退出来れば、後はどうにでも出来るか……。などと、俺はそんなことを考えていた。
「くっ、私にこんなことをしていいと思っているのか!! そもそも人如きが私にたてついてどうするつもりだ!!」
「別に、煩いし、気持ち悪いから対処してるだけ」
「なっ、気持ち悪いだと!?」
「うん、かなり気持ち悪い。だからその身体、消しちゃおうかなって」
「は!?」
「どうせ、その身体、依り代かなんかだろ? 本体がこんなに弱いわけないし」
「ちょ、まっ」
何だろう、やっぱり気持ち悪いなぁ。あとなんかかなり情けない感じ。
なんだかなぁと思う。俺の想像する一番の神様が母さんだからかも。神と呼ばれる存在はもっとかっこよくあってほしいなんて思う。
情けなかったりする一面があったりしても、完璧ではなかったとしても……人から信仰されるだけの何かはあるといいなとそう思う。それはきっと俺が母さんという存在を何だかんだ大切に思っているからに他ならない。
だって母さんと同じ神様だというのならば――それ相応の態度はしてほしいとそう思ってしまうのだ。
それにしても依り代とはいえ、かなり弱くない?
俺がそれだけこの世界にきてから、神に近づいているのかもしれないけれど。
俺は自分の身体がどうなっているかは知らない。元々母さんは俺のことを”人間としての枠組みにかろうじて入っている”などと言っていた。だから俺の知らない間に俺が変化している可能性はある。
……もしくは母さんが勝手にいじっているか。うん、どっちもありそう。
やっているのは、力で押し込むこと。押さえつけて、徹底的に倒すこと。ただそれだけ。
神様側からしてみれば、俺にこんなことをされるなんて思ってもいなかっただろうから完全に不意打ちだろう。だからこそこれだけ俺が優勢なんだけれど。
「ぐぁあああああああああ」
「どうせ、それ依り代って奴なんだろう? 本体じゃないならそんなに痛がる理由ないだろう」
「いや、ちが……」
「何が違うんだよ。というか、散々人に迷惑かけておいて自分がやられると大げさに喚いて本当情けなさ過ぎ」
うん、こんなので神様なんて名乗らないでほしい。母さんみたいに人前にあまり出てこない神様と、目の前にいるような人にちょっかいをかけまくる神様が同じように扱われるのもなんだか気に食わない。
そのまま依り代を消滅させてしまおうとしている俺。そんな俺の耳に驚くべき事実が入ってくる。
「咲人ー、それ依り代じゃなくて多分本体だよ」
それは楽し気なクラの声である。
「え? だってこんなに弱いのに?」
「神様っていうのはピンからキリまでいるんだって乃愛が言っていたよ? それこそ人から少しだけ離脱しただけの存在とか乃愛みたいな神様はとても強くて、僕と咲人で力を合わせてもおそらく勝てないけれどね!」
「そうなのか……。いや、でもこんなに弱いのにあんなにいきってたの?」
「一般的な人族からしてみると、こんなのでも恐ろしい存在らしいよ。実際に下位の神でも人族とはかなりの差があるはずだから」
「へぇ……ってことはこれ消滅させたら、死ぬ?」
「うん。だからやめたら? 咲人は神様を消滅させる気はないでしょ?」
クラはそう言いながら軽い調子である。神様を消滅させる――なんて字面だけ見れば大事である。しかしクラにとっては神様を消滅させること自体にはどうも思っていないらしい。
ただ俺が意図しないことをやろうとしてしまっているのを止めようとしているだけのようだ。
クラらしい。
あと俺、下位の神様がこんなに弱いと思ってなかった。寧ろ神を名乗るような存在はない気がする。ただ神様を名乗っているってことは、神界とかにいる他の神様が認めたってことなのだろうか?
「はぁ、はぁ……ひぃ……な、なぜ、神である私がこ、こんな目に……し、神界ににげ……。そうすれば、こ、このような化け物も……」
俺とクラが会話をしている隙に神様は逃げようとしていた。しかもぼそぼそと口にしている言葉を聞くに、神界に逃げればどうにでもなると思っているらしかった。
確かに俺は神界に行く術は今持ち合わせていない。自力で行こうとしているから招かれる気もない。
……でも神界には伯母さんや姉さん達が居るのだ。向こう側で捕まえておくことも出来そうだけど、一先ず逃がさないようにしておく。なるべく迷惑はかけたくないしな。
「逃がさないよ?」
俺がそう言って神界へと逃げようとする神様の退路を断つと、神様は固まった。まさか神界に行くのを阻止されるとは思ってなかったらしい。