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砂漠を歩く ④



「倒れていたのを見つけただけだ。特に何かする気もないから、そんな風に警戒しないでほしいんだけど」


 そう言いながら、なるべく笑いかけるようにする。

 ただしそれでもやっぱりその瞳は警戒心で満ちている。髪色と同じく、綺麗なアメジスト色の瞳である。



 さて、こんなに警戒心むき出しの視線を向けられてどうするべきだろうか。

 あんまりこんな風な態度をされると面倒なんだよなぁ。このまま放置して去るか?


 目を覚ましているのだから、もういいか。




「どこに向かう気だ? この砂漠から出ることって出来るか?」



 俺は一先ずそう問いかけておく。

 置いていくにしてもそのまますぐに死なれたりするのはちょっとアレだし。そんなことを思考しながら話しかける中、フォンセーラとクラは黙っている。


 多分、どうでもいいからだろう。一度拾ってきたものの、そのまま亡くなってもクラは何も思わないだろうし。フォンセーラも死んだら死んだで気にしなさそう。その場合は母さんの信者だって痕跡を残されたくはないんだろうが。





「……僕は」



 何かを口にしようとした時に、その場にぐぅううううと大きなお腹の音が鳴った。

 それは明らかに目の前の存在から鳴っていた。




「お腹すいているなら、これ、どうぞ」



 そう言って、携帯食料を渡しておく。あと飲み物も。ただ滅茶苦茶警戒していた。俺は善意で飲食物を渡そうとしているだけなのだけれども。





 クラは黙り込んでいる。流石に知らない人の前で、喋れることを言いふらす気はないのだろう。というか、目の前のこの人は完全に意識を失っている時にクラに連れてこられたんだろうな。

 そうじゃなかったら、クラの本来の姿を見ていてこんなに冷静ではいられないだろう。






「毒とかは入ってないから安心して」



 そんなことを言っても信じないかもしれない。ただそういうしかない。というか、クラが大分不満そうな表情だ。

 俺がわざわざ食べ物と飲み物を渡しているのに、それを素直に受け取らないことに怒っているのかも。



 クラは俺達家族のことを大切に思ってくれているからなぁ。




 なんだかこのまま意地を張って食べずに餓死されても嫌だから、まずは携帯食料と飲み物を俺が食べてみる。毒がないって証明だな。

 


 それを見てようやく警戒心がとれたのか、食べ始める。凄い勢いだ。それだけ満足に食べ物がない状況で砂漠を歩いていたのだろうか。普通、こんな場所に来るなら食べるものや飲む物は多めに用意しておくべきだとは思うのだけど。

 ただ持ち運びできる《アイテムボックス》的なものがなければ、持っていけないだろうしな。



「うごっ」



 勢いよく食べ過ぎて、喉に詰まったのか苦しそうにしている。そしてそのまま飲み物を一気飲みしている。






 そもそもなんでこんなところに一人でいるのかがまずよく分からない。何かしら理由はあるんだろうけれど、こんなに若くして死ぬかもしれないような場所に自ら行く理由ってなんだろう。




「助かった」

「もう大丈夫か? 置いていって大丈夫そうなら、俺達はもう行くけれど」




 そう問いかけて、一旦その場から去ろうかな踵を返す。ただ、それは一つの声に呼び止められた。




「ま、待て!!」

「何か用か?」

「……僕はこの砂漠から出たいのだが、事情があって出られないんだ」

「どういうことだ? 地図を持っていないとか?」

「いや、地図はあるんだが……出られなくて」




 そう言いながら嫌そうな表情をしている。地図を読める能力があるのならば、問題なく外には出れるものだとは思うが……。

 外に辿り着くまでの間に、魔物に殺されてしまうとか? それならばそもそも砂漠に来なければいいしな。

 ここに生息している魔物に命を脅かされる懸念があるなら、此処に来ない方がいいし。




「どういうことだ?」

「……信じてもらえないかもしれないが、このあたりの神の一柱が絡んでいて」


 そんなことを言われて、どんなめぐりあわせなんだろう? とそんなことを思考してしまう。



 なんだろう、俺が神の血をひいていることとクラが神獣であることで呼びよせてるとかある? この世界にきてから結構神様関係の接触本当に多いんだよなぁ。母さんのことや伯母さんに関することは俺から関わったこともあるが。



 こうして違う神様の情報もどうしてこう入ってくるんだろう。まぁ、いいけれど。



「ふぅん。それで?」



 神様のことが関わっているならそれはそれだ。神って存在は、俺にとっては身近だし、その話を聞いても特に驚かない。

 というか、俺も神である母さんの血を引いているから一般的にみれば神様枠なんだろうか。


 目の前の人は、俺の反応に驚いた様子だった。予想している反応と異なったのだろう。





「……この砂漠の神に僕は気に入られてしまったらしい。僕はここに呼び出された。そして拒絶しているのだけれども、外に出させてもらえないんだ」



 そしてそんなことを言った。




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