砂漠を歩く ③
「クラ、この人どっから拾ってきたの?」
「んーとねぇ、砂漠を歩きながら乃愛のこちらでの名前口にしてたの。だから連れてきちゃった」
俺の問いかけにクラはあっけらかんとした様子でそう言い放った。それからクラはその人物を寝転がらせると、小さな猫の姿へと戻っていく。
それにしてもそうか、母さんの名前を口にしていたから気になっていたのか。それにしても苦しそうな顔をしている。髪の色は紫、瞳の色は閉じていてわからない。髪は肩ぐらいまで伸ばしてある。性別がよく分からない。ただ息はしているので、まだ死んではいないだろう。
「そうなのか。母さんの信者なのかな」
そうじゃないと、母さんの神様としての名前を口にすることなんてない気がする。
母さんの名前って名前を呼んではいけない存在みたいな認識ありそうだし。
「ノースティア様の信者でありながら向こう見ずにこんなところまでやってきたのはどうなのかしら」
フォンセーラは少し不満そうに、どうでもよさそうに寝ている存在を見ている。
「不満?」
「そうね。だってノースティア様の信者がこんなところで野垂れ死んだら、ノースティア様の信者自体が愚かだとそんな風に思われてしまうじゃない。私はそれは嫌だわ」
「あー、でもこういうところで勝手に死ぬなら母さんの評判が下がったりはしないんじゃないか?」
「それはそうかもしれないけれど……」
「それに母さんは信者一人の行動で揺るぐことはないし」
「そうね。ただ不甲斐ないノースティア様の信者にはどうしても思う所があるのよ
フォンセーラは本当に母さんのことが好きだ。信仰心が強いからこそ、母さんの信者を名乗っている人が合割けない真似をすることは嫌なのかもしれない。
信者一人が不甲斐なく亡くなってしまうとしても、母さんは何一つ気にしないんだろうなとそう思った。
「このまま放っておいたらこの人、死ぬかな。何かすべき?」
クラが魔法で涼しくは一応してくれているらしい。だからそこまで苦しそうではない。とはいえ、こんな砂漠で放っておくと問題が起こるのでは? なんてそんなことを思いながら、寝転がっている人物を見る。
こうして出会ったのだから、見捨てるのもどうかと思うし。
それにしてもなんで母さんの信者がこんなところに一人でいるんだか。
俺とフォンセーラが此処を歩いているのはただの興味本位でしかないのだが、この人はなんのためにこんなところにいるのか。
特にこの砂漠って母さんに纏わる何かがあるわけではないはず……。
そもそもあったとしても母さん自身は信者に対して何かしら行動を起こすことはまずないしなぁ。
「別に何もしなくていいかと。そのうち目が覚めそうだし」
「それならいいか」
「この人、どうする気?」
「んー、ペットが拾ってきたものだから面倒は見ようとは思うけれど」
クラは俺の家のペットなので、そのペットが拾ってきたものは最低限は面倒を見る必要はあると俺は思っている。
そういうわけで俺は少なくともこの人が起きるまでは、見守っておこう。その後は知らない。砂漠を出るまでは面倒見るべきか? しかし下手に一緒にいると面倒な事態にはなるかもしれないし……。
うーん、どちらがいいんだろうか。
「僕、これ、捨ててきた方がいい? 乃愛の名前口にしてたし連れてきたけど」
クラはそう言いながら、俺が「捨ててこい」と言えばすぐにでも実行するだろうことを口にしていた。
本当に思いっきりがいい。
「いや、それはしなくていいよ。俺も目に届く範囲で誰かが亡くなるのはちょっと嫌だし」
俺がそう口にして、クラの頭を撫でれば気持ちよさそうににゃああんと鳴いた。
目が覚めてからどうするかは決めるとして、俺とフォンセーラが母さんに関わりがある存在だと先に告げた方が楽? うーん、どうなんだろう? どちらの方がやりやすいのだろうか。
俺としてみれば、どっちでもいいけれど……。ただあれだよなぁ、後々大事になったりするのは嫌だし。
あんまり難しく考えずに適当に行き当たりばったりでやるか? それもありかも。あんまり悩んでいてもどうしようもないしな。
どうせこの場所は、人が全く居ない砂漠なんだから。どうにでもなる気はしている。
それにしても性別どっちなんだろう? これで勝手に性別確認して、女性だったらセクハラになるだろうしやめておきたい。母さんの信者って男女比、特に変わらなさそうだし、どちらか全然分からん。
こんなに中性的な人ってなかなか地球でもあったことなかったけれど、敢えてこういう恰好してるのかな? などとそんなことを思考しながらじーっと見ていると、眠っていたその人は目を覚ました。
俺と目があう。
ぼーっとした様子だったその人は、ようやくはっきりと目が覚めたらしい。
「な、なんだ、お前!!」
そしてその人は、俺に向かって警戒するように叫んだ。