砂漠を歩く ①
「クラのおかげで涼しくていいなぁ」
「そうね。流石、ノースティア様の神獣だわ」
俺の言葉に、フォンセーラが涼し気な表情でそう言った。
今、俺達は砂漠の地を歩いている。空には真っ赤な太陽が輝き、普通ならばひたすら暑いだろう。快適などとは程遠い場所だ。とはいえ、事前に準備をしていたのとクラが俺達が動きやすいようにしてくれているので何の問題もない。
寧ろ涼しいぐらいだ。
ただ流石に砂漠用の衣服は身に着けている。だって普段着でこんな砂漠をうろついていたら明らかにおかしすぎる。こんな砂漠で人に会うことはなかなかないけれども、会った時に変な目で見られたらいやだしな。
というわけでも肌は隠している。そういうものを身に着けていないと普通に火傷するようなレベルなのだ。
「ふふんっ、僕、凄いでしょ」
クラはそう言って得意げに笑っている。我が家のペットは相変わらず可愛いな。いつまでも撫でていたい。
クラは俺の前を楽し気に先行している。途中で魔物に遭遇した。砂の下から魔物が出てきて本当にびっくりした。俺はすぐに気配に気づかなかったから。クラもいるし大丈夫だろうと気を抜きすぎたので、きちんと魔物の気配を確認することにした。
「おお……砂の中にも魔物多いな」
薄く砂の下に魔力を伸ばすと、どれだけ多くの魔物が居るのか理解が出来る。全てがこちらに襲い掛かってくるわけではないけれど気を付けておくべきだ。
というか砂の中ってこんなに生物沢山なのかぁ、と凄く不思議な気分。
「私も砂漠を歩き回るのは初めてだけど、魔物も多いし、歩きにくい。それに本来なら太陽の日差しに耐えられないだろうし。こんなところで生活をしているような人たちがいるなんて信じられない」
フォンセーラはそう口にしながら、相変わらず表情を変えない。
そういえばそうか。砂漠の地に定住している遊牧民みたいな人たちは確か存在していると聞いている。
正直こんな場所で暮らすのってよっぽどの理由があるんだろうなとそんな想像をする。だってそうじゃないと暮らしにくい場所でわざわざ生活する理由はない。
「なんか理由があるんだろう」
「信仰を理由に生活している人も確かいるはず。あとは砂漠以外の場所で過ごしていくことが出来ないとそう判断しているから此処にいるとか」
「何かに追われている人達とかってこと?」
「それもあるわね。権力者に目をつけられて、まともに生活が出来ないからこそこういう場所で過ごしている人って少なからず存在しているから」
「なるほどー。確かに砂漠地帯だとそもそも追手がついてこれないだろうしな」
クラのような存在が居なければこんな場所で過ごしていくことは難しい。こんな場所に潜んでいることもまずは難しいだろうけれど、逃げる方がきっと楽だろう。追いかける方はまずはこんな場所に探し人がいるかも分からない状況で探さなければならないのだから、その分躊躇するだろうし。
俺も母さんの息子として、人が沢山いる場所で過ごしにくかったら誰も居ない場所でのんびり過ごすのもありか。
まぁ、そんな事態になったら母さんたちが何かしら助けてくれるかもしれないけれど。
「咲人、向こうの方に水の気配がするよ」
それにしてもクラは初めて来る場所でも元気だなぁ。
前世で飼い猫として生きてきたクラは当然のことながら、こんな場所には来たことがない。それでも全く怯んだ様子がないのはクラらしい。
というかそもそも、基本的に生き物って母さんのことを本能的に恐れたりするらしいのにそんな気配がなかったからと飼われたらしいし。そういう性格なのだ。
水の気配がするなどと言われて向かった先にはオアシスがあった。
こんな砂漠でぽつんっと存在するオアシスって不思議だよなぁ。灼熱の日差しの中、命の危機さえある場所で水を求めて移動する中でこんなものを見つけたらそれはもう嬉しいだろうな。
砂漠の地図にはオアシスの場所は幾つか載っているけれど、これどこのオアシスだろう?
正直言って砂漠って似たような光景ばかりだから地図があってもよく分からない。 正直俺は自分がどこを歩いているかなど分かっていない。
ただ別に迷子になっていたとしてもどうにでも出来そうだしいいかとのんびりぶらぶらしている。こんなに計画性なく砂漠を歩くのなんて俺達ぐらいかもしれない。ただクラやフォンセーラは、地図をちゃんと見れてそうだけど。
そういう地図が読める才能って凄いよな。俺はそんなことを羨ましく思う。俺はこの世界にきてから地図を読む能力は少しは養えているかもしれない。が、物凄く時間がかかる。
オアシスで一息つくことにした俺達は、水辺の傍でだらだらしている。ちなみに水源があまりないものだからというのもあるので、その場には魔物の姿が沢山見られた。
彼らは俺達に威嚇をしたり、襲い掛かってくる個体もいたけれどクラが対応してくれた。