砂漠地帯へ向かう準備 ①
姉さん達が去っていった後、少しの間はその街に滞在していた。というのももっとこの世界で見て回りたいものが山ほどあるから。
一つの街に定住するような穏やかな日々もありかもしれないけれど、俺としてみれば折角異世界に来たのだから見たいものばかりだ。
「サクト、次は何処に行きたい?」
「そうだなぁ……。砂漠地帯があるって話だからそっちも行きたいな」
そう、砂漠。
それが近くにあるとは聞いているのだ。というか、今は周辺に緑がある状況だけれども、しばらく進むとなんと砂漠があるらしい。
当然のことだけれども日本で生まれ育った俺は砂漠などというものに出向いたことはない。家族旅行などには行くことはよくあったけれど国内ばかりだったしなぁ。
というか俺達の家って本当に仲が良かった。年頃になるとそんな風に家族全員で出かけるとか基本的にはなかったりもするだろうしな。
この世界でも家族旅行には出かけたいな。俺がお金をためて、連れて行きたい場所出来たら連れていってもいいかも。なんだかやっぱり親孝行はしたいしな。
「砂漠を歩くのは気を付けるべき」
「そうだな。ちゃんと準備をしておかないとどうなるか分からないし」
「水分不足になることはないよー。僕が水を出すしね」
フォンセーラの言葉に俺が頷くと、クラが軽い調子でそう言い切る。
クラは氷系に特化している神獣だからこそ、砂漠でも熱中症とか暑さで命の危機になったりなどはしないんだろうな。その点はとても安心できる。
もちろん、クラが居るからといって何の準備もなしに飛び出す真似は絶対にしないけれども。
地球の知識だと、ピラミッドなどがあるイメージだだ。でもこの世界だとどういう感じなんだろうか。地域によって神様などが異なるイメージだから、砂漠には砂漠の神様はいそうだ。
普通なら神様なんてものには滅多に会えないのだろうけれども……俺は母さんの息子だし、また神様に会う可能性はあるよな。一応会うことも検討した上で想定しておこう。
自分でも魔法である程度のことはどうにでも出来ても、先人の知識は大事だろうしな。
砂漠地帯へと近づきつつ、砂漠を歩くための準備も進めていく。
そのあたりを実際に横断したことのある人の話は、ご飯を奢ったりしながら沢山聞いた。砂漠はやっぱりありえないぐらい暑いようだ。まだこのあたりには緑があるけれども、近づけば近づくほど熱気がある気がする。
「あの地には死の女神がいるとも言われているんだ」
ある時、そんなことをいう男性が居た。
死の女神なんて単語を聞けば、怖れる人も当然居る。飲食店の中で話を聞いていたのだけれども、その単語が出た途端こちらに視線が一気に向いたから。
……その単語を口にしてほしくないとでもいうような態度だった。
悪い印象を与える神様の名を聞くだけで何か悪いことが起こるのではないかとそんな風に思い込んでいる人もいるようだ。だからこそ、母さんの名前を聞くのも嫌がる人がいるわけだけど。
とはいってもその死の女神は、母さんとは異なる存在らしい。
気になって「ノースティア」の名を出そうとしたら一気に青ざめられたから。母さんって、神様の中では格がどうしようもないほど高いというか、口に出すのも恐ろしいというか、そういう感じがあるんだろうなと思う。おそらくその砂漠地域で恐れられている死の女神だって、母さんの前ではただの格下の神でしかないのだろう。
「その死の女神は、どういう言い伝えがあるんですか?」
「死にかけの魂をそのまま持って行ってしまうとそう言われているんだ。死にかけの時に見る悪夢ともな。その女神を見た後、生き残れたものには幸せが訪れるとか」
「へぇ」
話を聞きながら、色々と面白いなとそんな風に思う。
死にかけの時に、走馬灯を見たりはする人はいる。その中で女神の姿を見るということだろうか。ただ全員が死に絶えれば、そんなものを見たことがあるという噂が残らないはずだ。だからこそ生き残りがいるからこそ、こうして噂が広まっているのだろう。
どうやら絶世の美女であるらしい。その悪夢を見るのは、男性率が高いんだとか。わざわざ異性の前にしか姿を現さないのって何とも言えない気持ちだ。ただこの世界は神と人の関係が近いから、親しい仲になる人たちは当然いるしなぁ。
流石に死にかけた時にしか遭遇しない女神様なら、遭遇する確率はかなり低いはず。俺が死にかける時って家族が飛んでくる可能性が高い。その死の女神がどのくらいの力を持つか定かじゃないけれど、そもそも母さんたちがやってきたら姿を隠すレベルなのかもしれない。あまり強くない女神だと母さんたち前にしたら耐えられないだろう。
死の女神以外にも、戦いの女神とか、火の神や水の神の言い伝えもあるそうだ。……熱い中で火の神? と思うが、だからこそそう言う神様の強さが言い伝えとして残っているらしい。灼熱の太陽の下で、火であぶられる話とか。普通に怖いと思った。