姉さんたちがやってくる ⑮
街へと戻って、相変わらずフォンセーラには視線は向けられていた。ただ流石に顔を隠していたとはいえ、フォンセーラと一緒にいたから勘繰られてはいるかもしれないが。
とりあえず姉さん達と相変わらずぶらぶらした。
母さんの信者達の件で、少し予定とずれたけれど折角だから華乃姉と志乃姉にもこの世界の街並みを楽しんでほしいし。
一応街中で問題がおこらないかなどは目を配っているけれども!
ただ思ったよりもその日は特に何も起こらなかった。
「楽しかったー」
「咲人、色んなところに連れて行ってくれてありがとう」
すっかりあたりは暗くなっている。街中はそれなりに灯りがともっている。とはいえ、整備されていないエリアは当然あるが。
暗い中で女性を取って歩いている俺はちらほら周りから視線を向けられることもある。姉さん達もフォンセーラも見た目が良い方だからな。あとは夜の仕事をしているような人たちがちらほらいたりする。
昼間だとそういう人たちのことは見かけないけれども、夜になるとこうやってがらりと雰囲気が変わるんだなとそんなことも思った。
俺、姉さん達と一緒に居なかったら話しかけられて面倒なことにはなっていたかもしれない。なんてことを考えながら、俺は早急に宿へと向かう。
夜の時間帯に異世界の街をぶらつくというのはやっぱり落ち着く無い。なんというか……まだ街の外の方が気分は楽かも? だって夜の街は酔っ払いとかに絡まれたり、そういうことも多々起こってしまうのだから。
魔物ならば遭遇すれば倒せばいいだけだけれども、人となるとそうもいかない。俺は神である母さんの息子であろうとも、だからといって人のルールを破っていいわけじゃないし。
いや、まぁ、母さんなら人の作ったルールなんて気にしないだろうけれど。ただそれはあくまで母さんだから許されることでしかない。
「華乃姉と志乃姉は……この後、そのまま神界に帰る?」
「ええ。そうよ」
「咲人のことを宿へと送り届けたら一度帰るわ。ただ定期的にまた会いに来るわよ」
俺の問いかけに姉さん達はそう言って嬉しそうに笑っていた。俺よりも姉さん達の方が夜の街の住民に絡まれるのでは? と思ったけれどもまぁ、それは完全に余計な心配でしかないだろう。
「うん、楽しみにしてる。今日は母さんの信者関連で少し寄り道しちゃってごめん。次に姉さん達がこっちに遊びに来る時はそんなことがないように気を付けるよ」
今回は気になってしまって、結局母さんの信者達と対話してしまったけれど次は考えよう。次にああいうのに遭遇した時はどうしようか? その時によって対応は変わりそうだけど、なるべく母さんが望んでいない行為だっていうのは広めたいよなぁ。
というか、母さんの信者として有名な人とかに話をつけた方が楽だったりとかする? 確か『ノースシィーダ』の存在していた街でダークエルフの中では母さんの信者として特別な人がいたとかは言っていたけれど……。うーん、そういう人たちに出会えれば母さんの意思は伝えやすいのか?
母さんが分かりやすく神託でも下せば別なんだろうけれども、母さんはそんなこと絶対にしないだろうし。
「全然いいわよ」
「気にする必要はないわ」
そう言って朗らかに笑う姉さん達にとって、今日の一日は長い半神としての生の中でもたった一日でしかないからかもなんて思う。俺は母さんからもしかしたら人としての枠組みを外れるかもしれないとは言われているが、実際に人以外の神に近い存在に俺がいつ変質するかって分からない。そのまましないかもしれない。
だからか、俺の感覚ってやっぱり人間なんだよなぁ……。
「じゃあ、咲人。私達はもう行くからまたね?」
「何かあったらすぐに連絡するのよ? そしたら私達が駆けつけるから」
それでいて二人とも割とこういう時さっぱりしている。俺と離れることを寂しがってはいるんだろうとは感じる。視線が物語っているから。ただちゃんと俺の意思を尊重して無理やり神界に連れて帰ったりしないのが、華乃姉と志乃姉なんだよな。
そのまま二人とも去っていく。一瞬にして消えたからびっくりしたけれど、このくらい二人にとっては簡単なことなんだろう。
「二人とも行っちゃったね。咲人はもっと二人に一緒に居て欲しかったら言えばよかったのに」
「クラは二人が一緒の方が良かった? 俺は姉さん達がずっと一緒だと自立出来ないし、いいかなって」
「そっかー。まぁ、そのうち咲人も神界に行けるようになって、いつでも会えるようになれると思う!」
「うん。そうなれたらいいな」
そう言いながらクラの頭を撫でた。クラは家族にはとても懐いているので、華乃姉と志乃姉がこの後も旅に一緒に付いてきた方が良かったのにと少し思っていたみたいだ。
そういうところはクラの可愛い所だなと思った。
「お二人が次に来られる時までにもっと頑張らなければ」
フォンセーラはそんな風に気負わなくていいのに気合を入れているのだった。