姉さんたちがやってくる ⑭
「はぁ、疲れた!!」
さて、男は俺の言葉に頷いて去っていた。ただし不満そうな顔はしていた。俺や姉さん達が母さんとどういう関係性なのか分からないからかもしれない。しかしなんとか母さんが望んでないことは伝えたけれど、ちゃんと大人しくしてくれるだろうか?
こういう忠告をしても下手な行動を起こす人もいるかもしれないけど、まぁ、その辺は制御出来なければ仕方がないか……。俺には目が届く範囲の人をどうにかするしか出来ないしな。
それにしてもさ、宗教とか信仰って面倒だなって思う。
場合によっては異教徒を認めないみたいな考え方の人もそれなりにいるし、そういうのって分かり合えないものだったりもするだろう。
「お疲れ様、咲人」
「ほらほら、お姉ちゃんたちに甘えてもらってもいいよ?」
「咲人、僕のこと、撫でる?」
疲れた様子の俺を見て、姉さん達とクラがそう言いながら労わってくれようとする。
いや、流石にこの年で姉に甘えまくるはしないよ。腕を広げられても飛び込んだりはちょっと恥ずかしいし。もっと幼いころなら迷わず飛び込んだりはしたかもしれないけれど!
クラのことは撫でさせてもらったけどな。
「昔は咲人ももっと私達に甘えてくれていたのになぁ」
「どうせ周りにはフォンセーラぐらいしか居ないのだし、構わないのに」
「いや、この年で姉に甘えまくりってやばいだろ」
そういう姉弟の形を別に否定するわけじゃないけれど、俺は少なくとも無理だと思う。それにしても幼い頃のことを思い起こすと、確かに俺は姉さん達にはべったりだった。というか姉さん達だけじゃなくて母さんや父さんにもかなり甘えてたとは思う。
ただあまりにも父さんにべったりしていると母さんが拗ねたりするから、途中から自重するようにはなっていたけれど。
母さんはいつも大人げがないというか、子供相手にも父さんを取られるのが嫌だと思っていたし。
「そう。なら、仕方ないわね。何か落ち込んだ時はちゃんと私達に相談するのよ?」
「泣きたい時とかは抱きしめてあげたりできるんだから」
そんなことを言われて、姉さん達にとって俺はいつまでも子供なんだろうなと思った。
半神である二人からしてみれば、ただの人間としてすくすくと育っていた俺はそれこそ赤子同然とかそんな感じなのかも。
「まぁ、その時はよろしく」
……多分、よっぽどのことがないと姉さん達にこの年で甘えることはないだろう。それこそ死にかけたりしたら違うかもしれないけれど。ああ、でもなんだかんだ俺は生きてさえいればそこまで混乱したりってあんまりないかもしれない。
ちょっとゆっくりしてから街には戻るので今は草むらに寝転がっている。こういう風に寝転がるのは、落ち着く。
それにしてもこれからも母さんを信仰している連中と関わることはそれなりにあるんだろうなぁ。伯母さんの信者ほど多くはないだろうけれども、母さんも凄い有名な神様だしなぁ。
……これ、街に戻ったら面倒な事態起こるとかないよな? ちょっと心配にはなる。俺がこうやって彼らに接触したからこそ、余計なことするとかなければいいんだけど。
正直言って、母さんの信者って重たい感情抱いている信者達ってぶっちゃけ何するか分からないし。
なんだろう、信仰心ってきっと俺が思っているよりもずっと重いものというか、何をしでかすか想像が出来ないというか……。俺はこの世界に来てから大分、神様についてとか、信仰心についてとか分かるようになったと勝手に思っている。……けれどそれってあくまで俺が思っているだけだからなぁ。
「あれでずっと大人しくなればいいけれど……」
「どうだろうね? 長い時間が経ったら、忘れる人とか出るんじゃない?」
「まぁ、それはそう」
クラのもふもふとした毛並みを撫でまわしながら、会話を交わす。
俺の言った言葉がどれだけ彼らの頭に残るかというのは定かじゃない。そもそも向こうからしてみれば、俺達は何者か分からない存在で、その言葉を聞く義理があると思わない人だっているかもしれない。
ただ俺達の言葉を聞いて、しばらくの間はゆっくりしていたとしても――その後はそんな言葉など忘れて、結局のところ好き勝手したりするのかもしれない。
「伯母様とかは、適度に自分の存在を知らしめさせると言っていたわ。そうすれば恐怖心からか、人々は伯母様が望まないことは起こさないって」
「でも伯母様はあんまり怒らない方みたいだら下界で余程のことが起こらなければそんなことはしないとは言ったけれど。それでも母様よりはずっと人々にとって身近な存在みたいだけどね」
――神がこの世界に顕現することはあれど、それはそんなに数多いわけじゃない。それこそ母さんなんて地球に居た間……、この世界では途方もない期間出てこなかったわけだし。
……母さんは信者達が何をしようと気にしないから、だから母さんの信者って好き勝手して邪教みたいな扱いなんだろうなぁと遠い目になった。