姉さんたちがやってくる ⑬
「光の女神イミテア神が関係がないとは? あなたにノースティア様の何が分かるとでも?」
そう言って見つめられるのは、それだけ俺達の存在を怪しんでいるからだろう。
一見すると、母さんと伯母さんの関係性というのは悪化しているように思われるだろう。だけれども実際はそういうことはない。
母さんと伯母さんは仲良い。少なくとも母さんは伯母さんを嫌ってはなくて、伯母さんだって母さんを可愛がっているように見える。二人で話しているところはまだ見ていないけれど、それはよく分かる。
「闇の女神ノースティアと、関わりがあるからこそ知っている。ただ信仰しているだけのお前達よりはそれこそずっとその女神について把握している。俺達は闇の女神ノースティアの名で、彼女が望まない行為をする者達を不快に思う。それは闇の女神ノースティア本人もそうだろう。これは忠告だ。お前達が闇の女神ノースティアの名を使ってよからぬことをするのならば、俺達は少なくとも黙ってない」
こういう言い方をするのも、こんな風に母さんの信者達と話すのも正直言って物凄い疲れる。
ちょっと話しているだけなのになんというか疲労がたまっているようなそんな感覚にさえなるのである。
「……関わりがあるとは、本当ですか? ノースティア様のことを敬称もつけずに呼ぶ存在が? 本当に貴方達はノースティア様と……」
「ノースティア様とこの方たちが近しい関係であることは私が保証するわ。つながりがあるのは事実よ。そして私もノースティア様は貴方達が光の女神イミテアやその信者に対して何かをすることは特に望んでいないと思うの」
フォンセーラが思わずというように割り込んだのは、その方がきっと話が通じやすいと思ったからかもしれない。
いや、まぁ確かに俺は母さんに対して様付けなんてしないよ。しかし母さん呼びしたら余計にややこしいから”闇の女神ノースティア”というそういう呼び名をしているんだが、こういう母さんの信者にとってはそれが気に食わないらしい。
信仰対象に対して不遜な態度をしているとでも思われているのかもしれない。そんなこと全くないんだけどな。
「……そうですか。しかし本当に?」
「真実よ。寧ろ私達なんかよりもずっと、この方たちはノースティア様のことを知っているわ。それでいてあなたたちの行動によってノースティア様の評判が下がることも、本人が望んでいないことをノースティア様の意思だと言い放たれることも……全て嫌だと思っているのよ。もしあなた達がノースティア様が望んでいると勝手に判断して、光の女神イミテアやその信者に対して何らかの行動を起こせば大変なことになる。それこそ神の怒りを買う行為だと思いなさい」
フォンセーラは淡々とした様子で、それが紛れもない事実だとでもいう風に言い切った。
こういうフォンセーラの態度って有難い。なんというか、相手に有無を言わさない感じが本当にいいなぁと思う。おどおどしたりしていたら、それだけ本当にそうなのかと疑われてしまうしな。
ちなみに神の怒りを買ううんぬんは、母さんのことではなく半神である姉さん達のことを指していると思えば間違っていない。
母さんは自分の信者のことなど気にもしないし、彼らが何をしようが放置だろう。わざわざ関わろうとはしない。それこそ父さんに母さんの信者が何かしたりしない限りはわざわざ怒りを向けたりなどしないだろう。でも俺や姉さん達は違う。
「……分かりました。しかし向こうから何かをされた場合も、何もするなと?」
「そうはいっていない。あくまでこちらから何かをすることはするなとそう言っているだけだ。かあ……闇の女神ノースティアの名を騙って下手な行動を起こすなと言っているだけだ。反抗する時もそれが闇の女神ノースティアの意思であるなどとは間違っても言うでない」
そう、別に俺が気に食わないと思っているのは勝手に母さんの意思だなんて言って好き勝手されること。そうじゃないのならば別に構わないとさえ思っている。だって俺達に彼らの行動をそれ以上制限する権利などはない。
ただあくまで母さんが望んでもないのに、母さんのためにとか言い放って好き勝手するなと言っているだけ。それをやられたら俺は黙っていられないという、それだけの話。
まぁ、伯母さんの信者も母さんの信者を邪教徒なんて言っている過激集団もいるわけだしなぁ。そういうのに遭遇した場合に敵対するのも仕方がない事だとは思う。
「争いあうのは自由だが、それを闇の女神ノースティアの意思だと言わなければいいだけだ。報復など、彼女は望んでいないのだから」
寧ろ母さんは父さんをこの世界に連れて帰れてハッピーで仕方がないはずである。それに母さんが地球に居たのも父さんに惚れたからで、伯母さん関係ないし。
これだけ言えば大人しくなるかな? とそんな風に俺は考えながらじっと男を見る。