姉さんたちがやってくる ⑫
「俺は一回話してみたいと思うんだけど……」
「いいと思うわ」
「フォンセーラちゃんのことを観察していたなら、私達の顔も把握してそうよね」
俺の発言を聞いて姉さん達はそんなことを言った。
いや、まぁ、確かに。
華乃姉と志乃姉は一時的に此処にいるだけだからともかくとして、俺とフォンセーラとクラは今のところはまだあの街に居る予定なんだよな。
……接触して上手く対処出来なかったらどうなるかというのだけ心配だけど、何とかなると思っておこう。
俺の言葉を聞いて、クラはすぐさま「じゃあ連れてくる?」なんて軽く聞く。本当にそれだけの力があるのだろうなというのは分かる。
「えっと、連れてきてもらうのはいいけれど一応顔を隠してからがいいのと、流石に全員連れてこられると困るから代表者的なのだけ……」
俺がそう言うと、クラは「分かった」と元気に返事をする。それから俺達は顔を隠しておく。ただフォンセーラはもう顔もばれているので隠す必要はないと言っていたので、そのままになったが。
そうしてしばらく待っている間に、クラはあの集団の一人を連れてきた。
男は予想外に大人しい。いや、なんでだよ。普通に無理やり連れていかれているのならばもっと暴れるものじゃないのか。
「お、お初にお目にかかります!! あの闇の女神であるノースティア様の関係者様ですよね!! まさか自ら我らに接触してくださるなんて……それにそこにいるのはノースティア様の愛し……」
「違うわ。私はそのような特別な存在ではなく、ノースティア様は誰か一人を特別にすることなどないわ。そのような嘘を信じ込むのはやめてほしいと何度も口にしたでしょう」
年配の男の言葉に、フォンセーラは嫌そうにそう言い切る。
まぁ、母さん緒信者からすると嫌だろうしな。それにしても凄いキラキラした目だ。……言うつもりはないけれど、俺や姉さん達が母さんの子供だと知ったら本当に驚くだろうなぁ。
「……わ、分かりました。そ、それで何用で」
「私というより、この方たちから話があるの」
フォンセーラがそう言うと、その男はようやく俺達に視線を向けた。これまではずっと俺達のことをどうでも良さそうにしていたのにな。
ただフォンセーラの言うことはちゃんとちゃんと聞こうとしているようなのでそのことはほっとする。
……さて、何処から話出そうかとそこだけ悩む。
俺ってあんまりこういう風に母さんの関係者として誰かと話すことなんてしてこなかったからなぁ。なるべく母さんと関わりがない存在として生きてきたし、関わる際は俺が母さんの息子だって知っている人が多かったし。
俺達が母さんの子供だなんて知られたらまた一層ややこしい事態にはなる。ええっと、声に関しては姉さん達が変えてくれているらしい。事前にそう言っていた。なので、頑張って声を張る。あと姿に関しても、一見すると俺だって分からないようにぼかしてあるらしい。そういうことをさらっと出来るあたり、二人とも半神なんだなって感じ。
……姉さん達は俺のことを見守る気なようだから。
「……お前達は、闇の女神ノースティアが復活したことを知って何をしようとしている?」
なるべく不遜な言い方をするように心がけてみる。だってその方がいい。
普段の俺と一致しないようなやり方をしたい。俺はそう考えながら頑張ってみることにする。姉さん達が俺のことをほほえましいものを見る目で見ているのは、正直全く落ち着かないけれど!!
まぁ、なんか二人からしてみればこれは授業参観に来ているみたいなそんな感覚なのだろう。ちょっと恥ずかしいような感覚だけど、じっと俺は男を見据える。
男は眉を顰める。
「……あなたは、ノースティア神の信者でしょうか。なぜ、呼び捨てなのでしょうか。ノースティア様が復活したことは聞いてますが」
「それは気にすることではない」
母さんのことを畏まった呼び方をするのは、なんていうか、ちょっとやりにくい。母さんも俺がそんな風に称したら嫌がりそうだし。
「……ノースティア様がこの世界に舞い戻ってきたというのならば、迎え入れなければならないのです。そしてノースティア様をこの世界から追い出したイミテア神たちに報復をしなければ――」
「そのような事実はない。闇の女神ノースティアがこの世界から姿を消していたのは、彼女がそうしたかっただけであり、光の女神イミテアのことは関係がない。余計なことをされると、本人が嫌がる」
少なくとも母さんは、自分の名を使って好き勝手する人は嫌だろう。
母さんは伯母さんのことを嫌ってはいない。寧ろ伯母さんの身に何かあったら、きっと母さんは怒っただろう。
――それに俺や姉さん達だって伯母さんに何かしようとする母さんの信者達なんていう厄介な存在のことは本当に嫌である。めんどくさすぎる。
俺の言葉を聞いて、男は怪訝そうな顔をする。……突然こんなことを言われて色々思う所があるのだろう。