姉さんたちがやってくる ⑪
「実際に母さんのことと話したことがなければそういう勘違いをするのも仕方がないかなとは思うかな」
「それはそうだけど……、そもそも私がノースティア様にとって特別だと勘違いをしているというなら、もっと私の言葉を聞いてくれたらいいのに」
「そうだな。俺もそう思う……。んー、母さんってさ、煩わしいこととか好きじゃないんだよな。なのになんで皆、こうやって母さんを勝手に決めつけるんだろうな」
俺はそんなことを口にして、何とも言えない気持ちである。
何かを信仰すると、周りのことを見れなくなってしまうものなのかもしれない。
少なくともこの世界で俺が見かけた熱心な信者達というのは、信仰心を理由に様々な行動を起こしているように見えるから。
母さんのことに関しても、勝手に決めつける人たちは本当に多いものだ。
「ノースティア様の信者達は私に接触して来ようとするかもしれないから……サクトたちに迷惑を掛けてしまうかもしれない」
「それは気にしなくていいよ。元々俺達がフォンセーラに頼んだことだし。……流石に母さんの信者なら、フォンセーラに迷惑をかけるような形でこの後、接触してくることはないと思いたいけれど」
俺はそう言って、ちらりっと背後を見る。
……少し離れた位置でこちらを見ている人達は既にいるんだよなぁ。あれって多分母さんの信者だろうし、どうしようかなと少し悩む。
あの人達ってフォンセーラに対しては期待するような視線を向けているように見える。目を輝かせているのに気づくと、どうしようかなと心配になる。
「咲人、あれ、潰す?」
「いや、クラ。物騒なことはしなくていいから。えっと、どうしようかな?」
クラは俺や姉さん達と敵対している者達に本当に容赦がない。潰すと言っているのを見る限り、おそらく秘密裏に殺す気だろう。まぁ、クラならばれずにそのくらい出来るんだろうけれど、俺は出来ればそういう物騒な対応はやりたくないしな。とはいえ、クラも俺が断るのは分かっていたのだろうけれど。
「記憶でも消してみるかしら?」
「それか上手く懐柔するか」
「あーっと……どうがいいんだろう? 華乃姉と志乃姉は後遺症とかなく、対応出来るの?」
母さんの認識阻害はどういうものかはきちんと分かっている。だけど半神である姉さん達はどうなんだろう。
そう思って俺は問いかけた。
「どうだろう? 私はそういう常識改変はまだしたことないから」
「もしかしたら少し残っちゃうかも?」
「あー……じゃあ一旦保留しておいた方がいいかも」
姉さん達の言葉を聞いて、俺はそう答える。
なんだろう、本人たちはあまり気にしていないのかもしれないけれど俺は姉さん達にそういうことをしてほしくないとは思ってしまう。それに相手に後遺症などが残っていると嫌だしな。
「咲人、一旦この場から去る?」
「それがいいかもな」
クラの言葉に俺がそう口にすると、すぐさまクラが姉さん達と一緒に何かをする。
そして次の瞬間には、俺達は違う場所へと移動していた。場所は街の外だろうか。いきなり消えたのでちょっとした騒ぎになっているかもしれないと、そこだけ心配になる。
ああ、でもクラ達が上手くやってくれているなら問題はないだろうけれど。
「おお、いきなり移動するとびっくりするな。ここ、どこだ……?」
この場は森の中のような場所。
花々が咲き誇り、自然豊かな場所である。
正直、何処かはいまいちわからない。
「街から少し離れたところだよ!」
「そうなのか。それにしてもあの人たちがいるなら、すぐに去った方がいいのかなぁ」
正直、何をどうするべきかというのは悩みどころである。
すぐさま街から去るのが一番いいのか、それとも上手く片付けてから去るか。
……そのまま去って、下手にフォンセーラのことが知らない場所で担ぎ上げられているのもなんだか違う気もするしな。
「どっちでもいいと僕は思うよ。後から何かあったらどうにかすればいいし」
クラは本当に軽い。
どっちでもいいのだろうなというのはよく分かる。
「一旦、何が目的なのか知ってはおきたいから話はした方がいいかな」
「それもありだと思うわ」
「きちんと話して、余計なことはしないようにと釘を刺しておいた方がいいかも」
姉さん達も相変わらず、どちらでもよさそうだ。
完全に俺に判断が委ねられているのだろう。フォンセーラも俺が決めたことで良さそうだし。
あー、うーん、どうしようかな。
どちらにしても面倒なことは少なからずあるしなぁ。
一旦、花畑に座り込んで俺は考え込む。
母さん案件のことは適当な扱いはしたくないなというのも正直な感想で、難しいな。
俺達の行動で母さんの評判が悪くなるのも俺にとっては嫌なことだし、勝手にフォンセーラのことでどうのこうの行動されるのも困るし。
母さんの信者達とならちゃんと話が通じるか?
ひとまず変装でもして話しかけてみるのもあり? 姉さん達のいう通り釘を刺しておくのもありと言えばありだけど……。