姉さんたちがやってくる ⑩
「あの者たちが何をしているか分かったわ」
調べに行くと言っていたフォンセーラは、案外すぐに戻ってきた。
その間、俺は姉さん達やクラと一緒に過ごしていたわけだけど、あまりにも早く戻ってきてびっくりした。
「あら、もう分かったの? フォンセーラちゃんは優秀ね」
「何をしようとしていたの? やっぱり母様のこと?」
華乃姉と志乃姉がそう言って問いかけると、フォンセーラは真剣な表情で頷く。
「はい。ご想像の通り、ノースティア様のことでした。姿を現さないノースティア様を呼び戻し、この世界を支配してもらおうと考えているようでした」
「やっぱり物騒なことだった……」
俺はフォンセーラの言葉を聞いて、思わずと言ったように呟く。
いや、想像はしていたよ。母さんの信者だもんな。それにしても母さんはこの世界を支配するとかそういうことには全く興味はないけれど邪神とか、闇の女神とか呼ばれているのもあってそういう勘違いを受けているのは。
邪神って呼び方、本当にあれだよなぁ。
母さんはただ自分の好きなようにやりたいことをやっているだけで、誰かを支配することには興味はないし、邪悪というよりも――ただの愉快犯というか、好き勝手遊んでいるだけというか。
「きちんと説明をしてノースティア様が復活していることは伝えました。ただ……流石に信じないものも居たので、そのあたりは『ノースシィーダ』で手に入れた物を見せたら納得はしてくれましたが……サクトたちのことを言わずに説明するのは少し大変でした」
「あら、そうなのね。でも上手く説明出来たなら良かったわ」
「フォンセーラちゃん、迷惑をかけてごめんね? でも私達のことを含めずにきっちり説得が出来るなんてすごいわね」
フォンセーラの言葉を聞いて、姉さん達はそう言って笑う。
フォンセーラが母さんと関わりが深いのは、俺と一緒に居るからというのも大きい。それなのに母さんの子供である俺達のことに一切触れずに説明をするのは本当に大変だとは思う。
「フォンセーラ、ありがとう」
「お礼はいいわ。ただ私がノースティア様と親しくしているからと騒がれそうだわ」
「そうなのか?」
「ええ。だってノースティア様が誰かを気に掛けることなど基本ないでしょう? そんな方が、私にわざわざ神託を下したのではないかと思われたの」
「あー……それもそうか。普通なら母さんが信者に関わるなんてまずないしなぁ」
俺はフォンセーラの言葉を聞いて納得する。フォンセーラに頼み事をすれば面倒なことにはなるかもしれないとは思っていた。けれどそういう方向に行くのか…とは驚く。
母さんはまずもってして、父さん以外は気にしていない。自分を信仰している者とか、慕っている者とか、そういう存在が何をしようとも正直言ってどうにも思わないだろう。それでも基本的に信者はおそらく神が自分に何かを返してくれることを望んでいるのではないかとそう思う。
いずれ信仰することで見返りを望んでいるというか。神が人に関わるのなんて本当に気まぐれでしかない。それでもそこに何か意味があるとそう思っちゃうんだろうなぁ。
「それ、大丈夫そう?」
「どうかしら? 私がノースティア様の寵愛を受けているのではないかとか、お気に入りではないかと……そう思い込んで何を起こすかが少し心配ね。ノースティア様は少なくとも世界を支配したがっていないとは伝えたけれど、どういう解釈をするかはきちんと見ているべきね」
「なるほどー。母さんの寵愛とか、そんなの父さん以外受け取ってないのになぁ。というか……誰かがそんなことを自称したら母さんめっちゃ怒りそう」
うん、母さんは嫌がりそう。
母さんは独占欲が強くて、父さんに自分と同じぐらいの思いで独占してほしいとも思っていると思う。浮気とかはもちろん許さないし、父さんに近づく者とか問答無用で排除するし。
勝手に寵愛とか愛し子とか言われたら……良い笑顔で笑って、「私が愛しているのは博人だけだよ? そんな馬鹿なことを言っているのは誰?」とか言ってそう。想像がつく。
そもそも母さんの愛を受け取れるのは現状、父さんだけだしなぁ……。
神様のお気に入りとかこの世界だとそれなりに居るのかもしれないけれど、母さんのそれを勝手に決めつけると……うん、まじで母さんが知ったら嫌がるだろうなぁ。
「それもそうね。否定はしているけれど、どのくらい信じてくれているか……」
「母さんの言葉を聞ける立場だって思われているなら、何だか囲いにもかかりそうだしなぁ……」
「それもあるかもしれない。私は……ノースティア様からそういう特別な感情は一切受け取っていないのに、勝手にそんな風に思われるのは嫌だわ。そもそもノースティア様はそんな風に特別を安売りする方ではないのに、信者でありながらそれが分からないなんて……」
同じ母さんの信者ではあるけれど、フォンセーラは彼らに対して色々と思う所があるらしかった。