姉さんたちがやってくる ⑧
俺達が会話を交わしながら歩いていると、元気よくその場にクラが飛び込んでくる。
俺の肩の上に、ぴょんと飛び乗る。そして耳元で「見つけた」という元気な声が響く。
「クラ、何してたの?」
「ぶらぶらしてたら、結構時間たってた。面白いもの見つけた」
クラはそう言って楽しそうである。
クラが面白いものというなんて、何があったんだろう?
姉さん達にもその声は聞こえたみたいで、興味深そうにクラのことを見つめる。
「えっとね、なんか集会みたいなのしてたよ」
クラは俺達に向かってそう告げる。
「集会? なんの?」
「分かんない」
何かしらの集まりはあったらしいけれど、クラからするとそれが何の集会なのか見ていても分からなかったらしい。それにしても集会と呼ばれるようなことが何処で行われていたのだろうか?
恒常的に行われているものなのだろうか? 突発的なものだと、人が沢山いる集会だと流石に噂になったりもしそうだけど。
「集会ねぇ……。そんなに人が居たの?」
「人が集まっているからと言って、クラが興味を抱くものだったの?」
姉さん達がクラにそれぞれ問いかける。
俺も含めてクラの見た集会について興味津々なので、一旦人気のないエリアに移動することにした。ゆっくり話を聞きたくなったしな。
フォンセーラもどんな話だろうと、興味を抱いている様子だった。
少し人が居ない路地に、四人とクラで一緒に移動する。
その場で立ち話をすることになった。
「集会では、乃愛の話をしてたんだよ」
「母様の?」
「それだけ沢山人が居るところで母様の話?」
母さんの話かぁ。
こういう所で大々的に母さんの話をする人ってあんまり居ないイメージなんだけれど。
母さんは邪神とか、そういう悪い呼び方も結構されているから集会と呼ばれる規模で集まったりしないと思っていたから凄く不思議な気分になった。
「僕がぶらぶらしていたら、地下を見つけたんだよ。それで地下に忍び込んだら、人が沢山いたんだ。そこでね、乃愛の話を沢山していたよ。乃愛のことが好きな人は多そうだったけれど、何の集会かはよく分かんなかった」
この街、そんな地下の空間あるんだというのが正直な感想だった。
少しの間、この街に滞在していたけれど全く地下の話など聞いたことはなかった。俺があくまで一時的に滞在しているだけの存在だからかもしれないけれど……どうなんだろう? その地下って誰でも知っているような場所なのかな。
というか、そんな地下でわざわざ母さんの話をしているとか、明らかに怪しい雰囲気なんだが。
「姉さん達さ、それどう思う? 俺は話を聞いている限り、何か母さんの名を使ってよからぬことをしようとしているのではって不安なんだけど」
俺は正直、母さんの名を使って何か起こそうとしているのではないかと心配になった。
俺達は母さんが悪い風に言われるのは嫌だと思っているのだ。もし仮にクラが見た連中が好き勝手動いたら、母さんが益々変な噂でいっぱいになってしまうかも。
「それもそうね。こういう母様の影響力が少なそうな街で、母様の事を話している人達がそれだけ多く集まっているだけでも何かやろうとしているように思うもの」
志乃姉はそう言って、顔をしかめている。
母さんのことを話す人たちが集まっていて、正直言って平和的な何かをやろうとしているとは思えない。それはこの世界でしばらく過ごしていると、母さんの信者達は中々過激だというのが分かるから。
「となると、何をしようとしているのかしら? クラは何か聞いた?」
「いや? なんか同じことばかり話しているから、半分ぐらいは聞き流しちゃったかな」
華乃姉の言葉に、クラはそう答える。
「同じ話って?」
「乃愛の素晴らしさについて語っていたっていうか、経典みたいなのを読んでいたみたい。乃愛がしばらくこの世界に姿を現していないからうんぬん言っていたけれど、乃愛ってもうこの世界に居るのにね」
その話を聞いて、思い至るのは俺がこの世界に呼び出された時のことだ。
そもそも俺がこの世界に来る事になったのは、母さんをこの世界に呼ぶためだった。彼らは母さんがこの世界に居ないことを嘆いていたはずだ。
……この世界の人達の大多数が、母さんがこの世界に戻ってきていることなんて知らないだろう。
母さんは父さんと二人っきりを満喫していて、母さんを切望している信者達のことなど欠片も考えていないから。
……もしかして、クラが見た連中って、母さんを呼びだそうとしているとか? なんかありそう。
「母さんをこの世界に呼び戻そうとしている人達だったら、多分余計なことしようとしていると思うよ。俺を呼び出した時みたいに。母さんは呼び出せないだろうし、他の関連するものが呼び出されようとするかも……」
母さんに関連するものってなると、本当に様々ある。彼らにとっても予想外のものが呼び出される可能性はあるし、大騒動につながったりするかもしれない。
そう考えると、本当にその人たちが母さんに会いたいだけならこの世界にもう帰ってきていることを告げればいい気がするけれど……どうするのが一番いいんだろうか。