姉さんたちがやってくる ⑥
「なるほどね。こういう風な旅をするのに適したグッズが売られているのね。《アイテムボックス》的なものはここにはないのね?」
「高価なものだから。それに売るにしても盗まれたら大惨事だし、もう防犯対策はしていると思うよ」
華乃姉の言葉に俺はそう答える。
今いるお店は一般市民向けのお店だ。収納系の魔法具は正直言ってこういう場所でぽんと出せるものではない。それだけ高価だから。
もちろん、半神である華乃姉と志乃姉からしてみるとそういう魔法具なんて珍しいものでもなんでもないだろうけれど……。やっぱり姉さん達って俺よりも魔法は得意なんだろうなとは想像がつく。
「ふぅん」
「そっか。やっぱり魔法具は高いのね」
華乃姉と志乃姉はそう言って、俺に近づいてくる。
「神界から持ってきたものとかあるけれど、こういうの幾らするんだろう?」
「伯母様は幾らでも持っていくといいと言っていたけれど……。もちろん、珍しいだろうものは売るつもりはないわよ」
……なんか、二人とも珍しいものもこちらに持ち込んでいそうだった。
流石に売るとしたらもう少し希少価値の低いもの……売ったとしても騒ぎにならないようなものがいいだろう。
それだけ騒ぎになりそうだしな。
「それにしてもこの世界を旅するのは苦労しそうだけど、これだけ多くの商品が充実しているのなら旅人は多いのね」
「魔物や盗賊といったものも存在して危険だろうに、皆、わざわざ外にいくのね」
二人は旅用品の数々を見ながら、何処か不思議そうだ。
確かにこれだけ危険な世界だと、本当に理由がなければ旅に出ようなどとはしないだろう。商人とか、冒険者とかだと冒険に出ていくようなイメージはとても強いけれど……。
「私のように神を信仰するが故に、纏わる場所へと向かう人たちは多いですよ」
フォンセーラが華乃姉と志乃姉にそう告げる。
信仰か。
基本的にこの世界の人達は神を信じている者達ばかりだ。何も信仰していないような存在は、中々この世界には居ないだろう。例えば相手が神でなかったとしても、同じ人や魔物のような生物を信仰したりするだろう。
その目的のために旅をする人たちというのはきっと多いのだ。
「なるほどね。神との距離が向こうより近いからこそかしらね。実在性を把握しているからこそ、余計に神からの影響がとても強いのね」
「母様の関わりがあるような場所だと、危険な場所が多そうなイメージ」
華乃姉と志乃姉はそんなことを口にする。
周りにそういう話を聞かれない方がいいのでは? と思っていたら、既に周りに聞こえないように魔法で対処していたらしい。いつの間にそんなことをしたのか全く気付かなかった。
やっぱりこれだけ簡単に魔法を使えるというだけでも本当に流石だと思う。
俺の言葉も周りに聞こえないようにしてくれているらしい。
「二人は幼いころから神様の自覚あったって聞いたけれど、向こうだと魔法とか使ってなかったよな?」
「んー、使ってはいたよ。母様と父様の前でね」
「父様は平凡を愛していたから、母様にも私達にも普通に過ごしてほしいとは言っていたけれど、少なくとも私と志乃は後々この世界に来る可能性が高かったから教わったりはしていたのよ」
そんな風に説明をされる。
魔法がどうしてこんなに上手なのだろうと思っていたけれど、向こうでも色々教わっていたらしい。
母さんのことだから周りに絶対にばれないように対応を進めていたのだろうなというのは想像が出来る。そもそもそれで華乃姉と志乃姉が何か言われるのを許さないだろうし。
「私と志乃は母様のお腹にいる頃から、神としての意識があったの。だから普通の子供とは違う成長をしていたの。その点、咲人は人の枠組みに居たから、産まればかりの咲人を見て私たちはなんて弱くて守らなければならない存在なんだろうって思ったの」
「神としての意識を持たなければ赤ん坊はこんなにも無邪気で、自分の命を脅かすものに気づかなかったりするんだなって驚いたの。父様の凄い所は私たちのことも、咲人のことも分け隔てなく子供として可愛がってくれているところよね。本当に凄い」
嬉しそうに二人は微笑む。
――なんか、普通に俺だったらお腹に居る時から意識がある子供が居たら驚くし、戸惑うと思う。父さんって、母さんのことを当たり前の妻にしているだけあって本当に色々と凄い人だなと改めて思った。
そんな風に俺達姉弟が会話を交わしている様子をフォンセーラは黙って聞いている。華乃姉と志乃姉は俺と会話をしながら、お店に並べられている商品を見ていたのだが……、その中で一つのものに興味を抱いたようだ。
「ねぇ、このお守りって、母様かな?」
「それっぽいよね。旅のお守りに母様を模したものを作るのはセンスがいいわ」
それは一見すると母さんに関わりがあるものには見えない。ただし母さんのことをよく知っている俺達からすると母さんだなと分かる。
これを作った人は母さんの信者なのかもしれない。