姉さんたちがやってくる ④
ご飯を食べて、しばらく話した後は街をぶらつくことになった。流石に街中で誰が聞いているか分からないところで、母さんの――ノースティアという名前を連呼するのもある意味問題である。
俺達は母さんの信者がもっと増えたら嬉しいと思ってはいるけれど、現状では母さんの信者って全体の人口を考えると全然少ないだろうしな。
「姉さん達はどこを見て回りたいとかある?」
俺がそう問いかけると、華乃姉と志乃姉はにこにこしながら、口を開く。
「どこでも楽しめると思うから、色んな所に行きたいわ」
「可愛い弟と一緒なら、何処でも楽しめるわ。でもそうね、折角だから名物の場所とかに行きたいかもしれないわ」
華乃姉と志乃姉はそう口にして、微笑む。
華乃姉と志乃姉をどこに連れて行こうかと俺は少し頭を悩ませる。この街に辿り着いてしばらくは経つが、何処がおすすめの場所かというのがあんまりぴんと来ない。俺がこの街について熟知していれば、もっと二人に自信満々に案内が出来るのだけど。
ただまぁ、出来る限り二人が楽しめる場所には連れて行きたい。
そういうわけまず向かったのはお店が立ち並ぶこの街の大通りである。華乃姉も志乃姉も、地球に居た頃から買い物を好んでいたはずだ。よく二人でお出かけをしていたし、俺も一緒に行くことも度々あった。
その際に俺も何か買ってもらったりとか、よくしていた。
地球からそのまま神界へと行くことになった二人は、この世界のお店でどういったものが売られているか実際に目で見ているわけではないだろう。もしかしたら半神という立場なので、知識としては色々知っているかもしれないけれど、やっぱり実物を見ると違った感想を抱いたりするとは思っている。
というか、神様とか、半神とかの感覚ってどういうものなんだろうか? 母さんは俺が人としての枠組みから外れることになるかもという話はしていたけれど、そうなったら感覚なども大分異なるものになったりするのかな。そのあたりはあまり想像がつかない。
神と、半神と、人。
その境界線ってどこにあるんだろう? そのあたりも俺にはよく分からない。
「素敵なお店が沢山あるわね」
「こんなに多くの人達が楽しそうな様子を見ていると、とてもいいわね」
二人はにこにこしながら、楽しそうな様子だ。
お店には入っていなくても、こうして街を歩いているだけでも楽しいことなのだろう。俺も久しぶりに華乃姉と志乃姉に会うことが出来て同じ気持ちになっている。
「華乃さんと、志乃さんはお金をお持ちですか?」
ちなみにフォンセーラが姉さん達のことをさん付けで呼んでいるのは、最初は様付けしていたのを二人が断ったからである。
そういえば先ほど食べたご飯代も俺とフォンセーラの方で支払いは済ませた。折角俺に会いにきてくれたのだから、それぐらい奢りたいと思ったのだ。
華乃姉と志乃姉は、俺から奢られたことを嬉しそうにしていた。俺の成長を見て取れたからと、なんだか感慨深い様子だった。
……神界に直接行ったのならば確かにお金を持ってない可能性も十分に考えられた。ないならないで、俺が払うけど。
「安心してくれていいわ。下界に降りるといったら伯母様がお小遣いをくれたの」
「それに売れるものも持ってきたから、売ってお金にも出来るわ。それに魔物を狩ったらその素材を売ることも出来るのでしょう? どうにでも出来るわ」
二人は軽い調子でそう告げる。
伯母さんとは一度しか会ってないけれど、華乃姉と志乃姉によくしてくれているようだ。二人とも嫌いな相手とはあまり関わろうとはしないし、その話なんてしないからな。
楽しそうに微笑んでいる様子を見る限り、神界での暮らしも悪いものではないのだろう。尤も姉さん達に何かあれば父さんや母さんも黙ってないだろうけれど。
「なら、良かった。でも出来ればあんまり目立たないようにしてもらえると助かるかなぁ」
「咲人は父様と一緒で目立つのが好きじゃないものね」
「確かに私たちが目立つ行動をしたら咲人が嫌な思いをしてしまうかもだもの」
俺の言葉を聞いて華乃姉と志乃姉は、穏やかな笑みを浮かべる。
姉さん達が行った何気ないことで騒動が起こる可能性は十分にある。二人とも半神という立場で、凄まじい力を持ち合わせているからなぁ。華乃姉と志乃姉は、自分の立場や力を理解しているから下手な行動はしないだろうし、安心はしているけれど。
そんな会話をしながら大通りを歩き、まずアクセサリーのお店へと入った。
異世界にきてから、こういうアクセサリーのお店には興味もないし入ってこなかった。華乃姉と志乃姉はおしゃれも好きなので、こういうお店に興味があるのだろう。それにしても高価なものが多くて、少し落ち着かない。あと何だかお金持ちっぽい人が多い。
フォンセーラはあまり興味がなさそうだが、華乃姉と志乃姉が楽しそうにしているのを見て満足気である。
あとクラは流石にお店に入るのは駄目だったので、一匹でどこかにふらりといってしまった。お店を出る頃にはまた合流するつもりらしい。