姉さんたちがやってくる ②
「ここのお店、個室あるのね」
「こういう所で落ち着いて話せるのはいいわね」
俺達が移動した先は、個室のある飲食店だ。
個室を借りるのは少し値が張るけれど、姉さん達と落ち着いて話したかったから。それに美味しいものを食べて欲しいと思った。
まぁ、姉さん達って俺よりも神様に近いっぽいので、食事が必要じゃなかったりするかもしれないけれど。
ただ二人とも楽しそうにしているので、それは問題ないだろうとは思っている。
このお店は香辛料を使ったものや山菜を使ったものが有名である。内緒話をする時になど、こういうお店はよく使われるらしい。あとはお金を払えばクラを店内に入れることも出来たしな。流石に姉さん達と話すのにクラが居ないのはおかしいし。
「ふぅ……」
フォンセーラは華乃姉と志乃姉を前に緊張を隠せない様子で息を吐いている。
というかあれか、フォンセーラ自身は母さんのことはちゃんと見たことないはずだもんな。神託は入れてくれているとは聞いたけれど。
華乃姉と志乃姉は見た目は母さんにそっくりだし、色々と思う所はあるのだろう。
「久しぶりに会えて本当に嬉しいよ。こんなに姉さん達と会わなかったの初めてだったから……」
俺がそう口にすると、華乃姉と志乃姉は微笑む。
「寂しかったの?」
「私達も咲人と中々会えなくて寂しかったわ」
地球で暮らしていた頃は俺や姉さん達はまだ自立して家を出ては居なかった。もしあのまま俺が召喚されて、家族全員で異世界に来ることがなければもうしばらくは家にいる予定だった。少なくとも大学に入るか、卒業するかぐらいまでは。
それがこんなに早く自立というか、家族と離れて暮らすことになってやっぱり俺は少し寂しさはあった。
だからこうやって志乃姉と華乃姉と会えるのが嬉しかった。時々しか会えないのは正直これまでの暮らしを思うと寂しいが、まぁ、基本は会いたい時にはいつでも会えそうだしなぁ。姉さん達って神界に居るという話だったけれど、こんなにぽんぽん行き来出来るものなんだなというのは驚いたけれど。
「志乃姉と華乃姉って神界で暮らしているんだよな?」
「ええ。そうよ。神界には沢山の神が居るわ。皆さん、咲人にも会いたがっているわよ」
「やはり母様の名はとても偉大だわ。私たちが母様の娘であるというだけで、とても神界では生きやすいものだわ」
二人はそう言いながら、笑っている。
志乃姉と華乃姉は母さんに対する尊敬などの気持ちが昔から凄く強い。母さんの言っていることが絶対だという、そういう様子はきっと二人が昔から半神としての自覚があったからなんだろうな。だから俺とは少し感覚が違うのだろうなとは思う。
「俺は自分の力で神界に行く予定だから、その時は案内してほしいかな」
「もちろんよ。私達もしばらく神界で楽しんだらこの世界、ぶらぶらしようかしら」
「それもありね。私達は地球と神界しか知らない状況だから、下界の様子を見て回るのもありよね」
志乃姉と華乃姉は、地球からそのまま神界に行ったらしいので逆に人々の暮らしているエリアに関しては分からないことも多いのかもしれない。となると何でも知ってそうな二人に俺の方から色々と教えることが出来るだろうか。それは楽しそうだと思う。
いつも年上の志乃姉と華乃姉に教わってばかりだからなぁ。
「ねぇ、フォンセーラちゃんは母様の信者なんだよね?」
「母様って本当に凄いもの。この世界の人達が皆、母様の信者だったらいいのにと思うわ」
俺も母さんのことを母親として慕っていて、母さんは特別な存在で。
姉さん達にとってもそうなんだろうなと思う。うん、志乃姉と華乃姉は母さんのことが大好きで、本当に世界中が母さんの信者だといいとそう思っているのだろう。
確かに母さんは信者達に過干渉はしないタイプだし、こういう神様の存在が身近な世界だとそういう神様の方が楽なんだろうなとは思う。だって人に影響を与える神様っておそらく凄くはた迷惑なことにもなりかねない。
この前の火の神と水の神の一件に関してもそうだけれども。
伯母さんとかもそれなりに人に関わりはしそうだからな。うん、やっぱり俺は母さんみたいなタイプの方が信仰するのには楽かなとそう思う。
俺もこうやって世界をぶらぶらしながら、母さんの信者増やせるなら増やしてみたいなというか母さんの良さは知ってほしいな。少なくとも邪神とか、そういう扱いをされるよりは母さんのことを良い風に思ってもらえる方が息子としては嬉しいし。
「そうですよね。私もノースティア様の素晴らしさが世界中に広まるのはとても良いことだと思います。ただノースティア様の信者だというのはあまり大っぴらに出来ないことではありますが……」
「母様は好き勝手しているものね。でも母様を邪神扱いはあんまり好きではないわ。母様自身は気にしていないかもだけど……」
「私も同じ意見だわ。母様は確かに自分勝手で、父様以外に関しては関心の一つもないけれど……。邪神扱いはされないようにしたいわね」
フォンセーラの言葉に、二人は不満そうにそう口にする。