姉さんたちがやってくる ①
俺はフォンセーラとクラと一緒に街の入り口に立つ。
基本的にこの世界の街は魔物の脅威もあるから、物凄く防衛がしっかりしている。そのまま野ざらしだと、襲ってくれと言っているようなものだしなぁ。
この街の出は入り口は、三か所。そこで一番大きいところで待っていると、たまに声をかけられる。
ずっと立ちっぱなしで待っているから何か困っていることがないかなど聞いてきてくれて、なんというかこの街は優しい人が多いなと思った。
「……ノースティア様の娘がいらっしゃるのよね。緊張するわ」
「俺にはすっかり慣れているのに? 姉さん達も似たようなものだけど」
「サクトとは一緒に過ごしているから慣れはあるけれど……そうね、似たようなものね。そう考えるとサクトにも少し緊張するわ」
「え、そっち? 緊張無くなるではなく?」
「それはそうでしょう。だってあなたはノースティア様の子供だもの」
真っすぐな目で、そう言い切られてやっぱりフォンセーラは母さんの信者だなと実感した。
俺やクラに対して、俺達が望むからそういう態度をしてくれているけれど……俺やクラがもっと畏まった態度をしてほしいと言えばすぐさま変えるだろう。……とはいえ、心を許してないわけではないとは思うけれど。
俺が母さんの息子なのと、フォンセーラが母さんの信者なのは変わらない事実だなと改めて思った。
「咲人、どうしたの?」
肩に乗っているクラに不思議そうに問いかけられる。俺が難しい顔をしているのが気になったのだろう。
「ちょっと考え事をしただけ。それにしても姉さん達、どのくらいでくるかな」
俺はそう言って話を変えておく。
華乃姉と志乃姉は、大体の訪れる時間を教えてくれた。だからそのうちやってくるとは思うのだけど……。
というか俺、母さんのこの世界での姿は見ているけれど姉さん達の姿は見ていないからな。髪色と瞳の色が違うっていうのは聞いた気がするけれど、どんな感じだろう? そんなことを考えながらしばらく待っていると、聞きなれた声が聞こえてくる。
「咲人!」
俺の名を呼びながらこちらに寄ってくる二つの人影。
見た目がとても整っているからか、周りからの視線が凄い。俺に向かって笑顔で近づいてきているのは一目瞭然で、だからこそ男性達からの驚いたような視線も向けられている。おそらく姉さん達のように美人な存在が、なぜ俺のような平凡顔に近づいているのかなどと思っているのだろう。
うん。母さんも父さんと一緒にいるとそういう視線を向けられたことがあるって言っていたなと思い出す。元々俺も日本で母さんや姉さん達と待ち合わせしていると毎回、そんな感じだったもんな。異世界でもそれは変わらないか。
「華乃姉、志乃姉、久しぶり」
俺は二人に向かってそう言って声をかける。
二人の姿は俺の知っているものとは異なる。俺の知っている二人は黒髪黒目だったが、今目の前にいる二人は……華乃姉は赤目に、志乃姉は白髪に変わっている。本来の姿がこっちらしいけれど、正直黒髪黒目の二人を見慣れているのでまだ慣れていない。
「咲人、元気そうでよかったわ。これまでこんな風に旅をすることなんてなかっただろうから、少し心配していたのよ」
「咲人にとって慣れないことばかりでしょう? 時々見てはいるけれど、何か問題があったら言うのよ?」
そう言って心配そうに俺を見る二人に、姿が以前と異なっていてもやっぱり二人は俺の知っている姉さん達だなと安心した。家族会議で話しているから分かっていることではあったけれど、こうして顔を合わせた方がやっぱり安心するから。
「ありがとう。今の所問題ないよ。戸惑うことは多いけど楽しいことも多いし」
俺がそう言ったら二人は笑ってくれた。
そしてその後に二人はクラとフォンセーラにようやく話しかける。よっぽど俺と久しぶりに会えたことが嬉しかったのか、俺に真っ先に話しかけていたからなぁ。
「華乃、志乃、元気そうで良かった」
クラは周りの人たちに聞かれないように華乃姉と志乃姉の肩に乗って耳元でそう言っていたようだ。
「は、はじめまして。フォンセーラと申します。よ、よろしくお願いします」
フォンセーラは信仰する神の娘が二人も目の前にいるからと緊張して仕方がないらしい。姉さん達は母さんほど危ない思考はしていないというか……割と常識人なので何か粗相をしても問題はないんだけどな。
姉さん達はフォンセーラのことを見て、にこにこしていた。
二人は俺の様子を時々見ているようだし、それでいて家族会議でもフォンセーラの話は散々しているので元からフォンセーラに対して警戒などしていないだろう。
母さんの信者ってだけでも、俺に対して悪意ある行動はしないって分かるしな。
「フォンセーラちゃん、よろしくね」
「咲人とクラがいつもお世話になっているわ」
そんな風に笑いかけられて、フォンセーラは「そんなことはない」といって滅茶苦茶首を振っていた。
こういうフォンセーラの普段とは違う姿を見ると思わず笑ってしまった。
その後、俺達は場所を移動することになった。姉さん達がゆっくり話したいって言っていたから。