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異世界に召喚される ①




「じゃあな、咲人」

「ああ。またな」




 俺、薄井咲人うすいさくとは、中学からの友人に手を振られて、振り返した。



 今日は一学期の終業式である。高校に上がって数か月、これから夏休み。宿題は出ているものの、基本的にはだらだら過ごせるので何をしようかと悩みどころだ。



 家にある書庫の読んだことのない本を色々読み漁るのもいいだろうし、買ったばかりのゲームをやるのも楽しいだろう。あとは家族で旅行に出かける予定もあるから、それも楽しみだ。



 俺の家は家族仲が良いほうなので、学校の長期休みの時はよく旅行に出かけるのだ。

 沢山写真も撮っているので、その写真を見返すのも楽しくて俺は結構好きだったりする。




「あっつ……」



 終業式は午前中で終わったので、今はちょうど太陽が昇っている時間である。暑すぎて、思わず声が漏れる。

 熱中症の情報もニュースで最近よく流れているので、気をつけなければならない。

 途中で自販機で飲み物を購入し、ごくごくと飲む。




 早く家に帰ってしまおう。

 冷房の効いた部屋でだらだらしたい。スマホを確認すると、家族から連絡が来ている。




『咲人、いつ帰ってくるの? そろそろ学校終わったわよね?』

『志乃と一緒にアイス買って待ってるから早く帰っておいで』


 それは二人の姉からの連絡だった。

 

 俺の家は両親と、二人の双子の姉、そして俺の五人家族だ。

 三歳年上の華乃姉と志乃姉は、今大学生である。父さんは今日は仕事で、母さんは必要以上に俺に連絡してくることはない。……なんというか、母さんは父さんのこと以外はそこまで関心がないのだ。

 俺たちのことはそれなりに可愛がってはくれているけれど、一番は父さんのことばかりなのだ。

 結婚して結構な月日が経っているはずなのにその調子なので、友人たちから驚かれたりもする。



 そういうどこにでもいる五人家族。まぁ、一般的に見たら仲が良い方だとは思うけれど、そのぐらいの特徴しかない家族だと思っている。




 さて、華乃姉と志乃姉がアイスを購入してくれているらしいけれど、コンビニにでも寄ろう。

 そう思ったので、買ってくるものがあるか聞いておく。昼ごはんは母さんが用意してくれているらしいので、購入するものはそこまでない。なので、お菓子を購入することにする。


 父さんの好きなものを買って帰ると母さんの機嫌が良くなるので、購入して帰ることにした。ついでに俺の食べたいものも買う。




 会計を済ませて、そのまま家への帰路を歩く。

 本当に暑すぎる。俺は季節では春や秋の方が好きだ。暑すぎず、寒すぎずぐらいが丁度良いと思っている。




 ――早く家に帰ろう。




 そう思って歩いていたら、突然、変な感覚がした。





「―――されよ」



 何か声が聞こえる。

 誰も傍にはいないはずなのに、聞こえてくる声。




 あたりをきょろきょろと見渡す。

 周りを歩く人は、平然としている。……この不思議な声は俺にだけ聞こえている?



 なんでこんな謎の声が聞こえたのだろうか。なんだかホラー展開みたいでちょっと嫌だ。漫画や小説とかでもそういう展開見たことがある。

 俺は非日常には憧れているけれど、そういうものは実際に起こらないと思っている。



 だけど、今聞こえてくる声はどこか非日常的だ。








「我が声に―――」



 そもそも”我が声”などというなんて、厨二病なものである。それにしてもこんな風な呼びかけなんて普通じゃない。……なんていうか、こんな声が聞こえている時点で俺は疲れているのかもしれない。



 幻聴としか思えない声が、こんな風に聞こえてくるなんて。

 ……早く家に帰ってしまおう。そしてこの幻聴の話をして笑い話にしよう。



 そう思って、家へと急ぐ。






 だけど――、




「我が声に答えて、闇の女神ノースティア様よ。降臨なされよ!!」



 

 そんな意味不明な声が聞こえたと同時に、俺の足元が消失した。




「は?」


 思わずそんな声が漏れた。

 だって、意味が分からないから。



 その聞こえてきた声も、足を踏み出したはずの地面が消失したことも。

 そして自分の身体が確かに落ちていることも――。それに周りの光景が、意味不明な文字の羅列や黒い空間で埋まっていることも。なんだこれ??




 意味が分からなさすぎて、頭が働かない。




 そのまま俺は、落ちていく。

 ――底が見えない場所を落ちていく感覚だったけれど、終わりが見えた。



 大きな音と共に俺は見知らぬ場所に着地した。そう、着地と言う言葉が正しく似合うだろう。落下して落ちたわけではなく、その場にとどまるのが当然とでもいう風にその何かわけの分からない文字と文様の描かれた床に俺が現れたのだ。




 目の前に、数人の黒いローブを身に纏った男たちが視界に映る。

 コスプレか? いや、でもこの意味不明な状況を考えるとそうじゃない気がする。




 ひとまず、目の前の存在に声をかけよう。




 そう思った矢先に、



「なんでこんな関係のない小僧が召喚されるんだ!!」



 一人の男が俺のことを思いっきり睨みつけてそう言った。





 

※タイトルや名前で分かると思いますが、「薄井君は気づいているけど、気づかないふりをする。~高校三年生に上がったはずが、二度目の高校二年生を過ごしている件~」の子供の話です。

前作見なくても読めると思います。

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