極メシ。【初めて行く有名店・中華ほりこし】
人は何故、食に浪漫を求めるのか。
或る人は至極の味を求め、或る人は極致の素材を探す。そして或る者は自ら腕を振るい理想の料理を追求し、或る者はそれを求めて長蛇の列に自ら並ぶ。
おはこんばんにちわ、稲村某で御座います。暑さにやられてませんか? 残暑厳しい日々ですので、お身体にはお気をつけてください。
さて、久々に極メシのエッセイです。もうタイトル出オチ感マシマシですが、栃木と言えば佐野ラーメン。そしてその中で古くから地元民に愛されている名店、【中華ほりこし】さんにお邪魔して、色々思う事が有りましたので書く訳です。
《※ 注意!! このエッセイはあくまで個人の主観であり、店主のご賛同を得て書いている訳では御座いません。そこを踏まえてお読み下さい。 ※》
まだ茹だるような暑さの厳しいある日、稲村某は珍しく連れを伴って市内のラーメン屋に行った。但し、稲村某は二十年近く住んでいながら、佐野ラーメンを食べた回数は、指折り数えて未だ一桁台。そもそも全般的に薄味過ぎて、余り好きじゃないのだ。と言いつつ、何だかんだで連れと共に入店。入り口手前で三段だけ上がる独特の構造に、アルミサッシと格子ガラスの引戸。良くある店構えだが、昨今見る機会に乏しい、昔ながらの雰囲気だ。
「いらっしゃいませー!」
開店時間の五分前ながら、人柄の優しそうなご主人と奥さんに迎えられながら入ると、四人掛けテーブル三卓とカウンター六席、そして奥の間の座卓だけの小ぢんまりした店内。色紙とカレンダーが掛かる壁に掲げられたメニューは、大雑把に麺類とそれ以外の二種類。
【ラーメン】オススメ!
【味噌ラーメン】
【タンメン】
【チャーシューメン】オススメ!
【ワンタンメン】
【ワンタン】
【チャーハン】
【カレーライス】
【半チャーハン】
【半カレーライス】
と、誠にシンプル。いや、ホントにこれだけ。餃子やシューマイとか一切無い。だからなのか、このお店、必ず見かけるビールすら無いのだ。
「ラーメンと味噌ラーメン、あとチャーハンで」
口開けの先客に続き、予め決めていた注文を済ませると、ビールグラスに注がれたお冷やがテーブルに。飾り気無しだけど、それがまた良い。
四人掛けテーブルながら、大柄な人種では並んで座るのが憚れる狭さ。テレビを眺めながら調理状況を想像していると、先客のラーメン二つと半チャーハン二つが運ばれていく。小振りなドンブリを載せたお盆は、アルミで縁取った懐かしい形。
「はい、ラーメンと味噌ラーメンです!」
奥さんの手で各々がテーブルに並び、連れに頼んで記念撮影。まあ、どんな写真になったかは後で見よう。
「いただきます!」「いただきます!」
連れと二人で割り箸を裂き、自分の味噌ラーメンを一口。いや、何故普通のラーメンじゃないかと言うと、佐野ラーメンは淡泊至極の味付けで、食べる前から味が予測出来るのだ……。
味噌を使ったやや色の濃いスープの中には、至って普通の麺、と言いたいのだが、佐野ラーメンの基本は青竹手打ち。青竹をリズミカルに上下させて打つ独特の製麺法が生み出す麺は、波打つように不揃いの厚さの為、歯応えや喉越しに変化が有るのが特徴なのだが、ここは製麺所卸し。だからといって、極端に普通の麺かと言われると、決してそうでもない。謂わば、佐野ラーメン的な麺……と呼ぶべきか。但し、青竹手打ち麺と比べてやや柔らかいだけで、そう大差は無い。
スープの基本は和風と中華風の半ばな頃合いで、味噌の風味も控えめ。これよりパンチの強い味噌ラーメンはごまんと有るが、値段相応と納得出来るバランスは保っている。モヤシやキャベツ、ニラとニンジンの豚肉入り炒めが載った麺は、それらの具材と喧嘩せずサラサラと頂ける。
やや物足りなさを感じコショウを一振り。ああ、これこれ。みんな掛けているからか、まだ風味の薄まってない、刺激充分な卓上の相棒。一振りするのを前提とするならば、足し引きで言えば引きの妙味、かもしれない。
おっ、チャーハンを忘れてた。連れの小盛り茶碗へ分けてやってから、一口。うん、これも淡泊至極。脂っこさとは無縁、しかしチャーシューとナルトはしっかり刻んで入っている。隠し味も控えめで、どれか突出する事もない。うーん、これでいいのか……? そう思いながら、添えられて来たスープを啜る。
……うおっ!? 何だこれ、しょっぱいぞ!!
ここに来て、初めての濃ゆい味に軽く目が覚めた。今まで一度も自己主張して来なかった優等生が、突如リーゼントをキメて登校してきたような衝撃に我を失いかけるが……いや、待てよ?
思いつき、チャーハンの添え物のスープを一口啜ってから、即座にチャーハンを掻き込む。すると、どうだろう! 今まで欠けていたピースがパチリと嵌まったように、チャーハンが突如輝いたのである!! 足りなかった塩味と脂っこさが、一気に補完されたのだ!! リーゼント優等生、階段から落ちかけた女子同級生を救助!!(したような感じ)
そうしてチャーハン、スープ、チャーハンと交互に進めていくと、ドーム状の炒め飯は見る間に消えていき、ちょっと多いかと思っていたそれを完食してしまったのである。流石、町中華……やるな。
その後、味噌ラーメンもスープを僅かに残しながら完食し、連れの様子を窺って頃合いを見て、会計を済ませる為に立ち上がった。
二人分の合計二千円を払い、外で待つ四人程の客に会釈しながら店を出た。久方振りの地元で町中華、確かに名の知れた地域で有名になっている店であるが……大満足かと聞かれると、やや物足りない。しかし、まだ食べていないメニューが有る。ワンタンメンと、カレーライスである。チャーシューメンにワンタン載せて、半カレーライスだったら幾らだろう? そんな算段をしながら、駐車場に停めていた車を始動させた。
初めて入った店なのに、どこか懐かしい。では、一口啜れば、忽ち艱難辛苦の全てを忘れる味かと言われれば、決してそんな事は無い。どこにでもある、普通の店の味。
けれど、今のラーメンはやれアブラ増し増しだのヤサイ多めだの、トッピングしなきゃ食えない訳じゃないのに、過剰サービスてんこ盛り。魚粉だマー油だと気忙しいのも悪くないが、たまには普通も、食べたくなる。
但し、連れにどうだったと尋ねると、味を忘れるまでは行かなくてもいーや、と素っ気ない。まあ、まだ若いんだから、そんなもんか。
個人的に気に入った訳ではないが、そもそも佐野ラーメン自体が全般そんな感じなんですよ。だがしかし、それでも再び行きたくなる店も僅かながら有ります。近いうちにそちらも書ける機会が有りましたら、是非御一読。