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未成年  作者: 塩崎キイチ
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君は、大人になれなかった。


 河野綾花が先生に嫌われていたのは何ヶ月も前からみんなわかっていた。ことの発端は高一のとき、河野が数学のテストでカンニングをしたことだった。普段声を上げることのない先生が、「はあ?こんな馬鹿げたことすんな!」と、少し殺気を感じるような声で言ったことはいまだに覚えている。別に河野はいわゆる「問題児」のような人ではなかった。むしろ、彼女は生徒会に入っていたほど真面目な性格だったのだ。そんな河野が先生から嫌われた理由が「カンニングをしたから」だけではないことは明らかだった。

 河野がカンニングをした日から、何ヶ月かの間に五回ほど先生から河野への嫌がらせのようなものを目撃した。今の僕だったら、彼女を救う方法は無数にあっただろう。でも、あのときの僕は先生がやっていたことが何か、わからなかったのだ。あのときの僕にとっては、何か踏み込んではいけない、話してはいけないようなことだったのだ。           

 でも、何もしなかったのは僕だけではなかった。河野は真面目で成績もよく、男受けがいい顔で、スポーツもできたが、あまり友達はいなかった。なんでもできてその上に積極的であったからみんな嫉妬していたのだろう。だから河野があんな目になっていたことを知っていても、みんな何も言わなかったのだ。いや、もしかしたら僕のように恐怖を感じていた人もいたのかもしれない。でも今更、そんなことはどうでもいい。あの日消えたものはもう戻ってくることはないのだから。

 もし、河野が「問題児」だったら。

 もし、僕が彼女を救えていたら。

 今、僕たちは_____。

 

 僕はそんな昔のことを、大学の友達のインスタのある投稿を見て思っていた。


<7年振りに3年D組のみんなと再会。楽しかった!#同窓会>


 同窓会か。僕は今まで一度も同窓会に参加したことがない。まあ、今までのことを考えれば仕方がないのかもしれないが。

「何隼くん、そんな思い詰めたような顔して。インスタがどうかしたの?」

と、舞は優しく声をかけてくれた。

「ううん、なんでもない。」

僕は嘘をついた。

「ふーん。まあ最近仕事忙しそうだし疲れててもしょうがないか。お疲れ様。」

舞は缶ビールを呑んだ。

「ありがとう、やっぱりちょっと疲れてるかも。」

 僕には少年時代というものはない、大人になるのが早すぎた、と思っていたが、そんなことなかったみたいだ。十年ほど前のことをこんなにも鮮明に憶えていたのだから。でも、こんな忌まわしい記憶、早く頭の中から消し去りたい。

 僕は缶ビールを一口呑み、僕の中の高校生だった、子供だった僕を、溶かして殺した。

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