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六話 歓迎モードの団員たち

 

 セリスの言葉に、ジェドはやはりな……と誰にも聞こえないくらいの声でぽつりと呟いた。


 出会ってから今までの短時間でも、セリスが家柄や身分で人を判断するような女ではないと感じていたからだ。セリスのジェドへの態度が最たる要因である。


 色眼鏡で見るつもりはさらさらなかったが、ウィリムの言葉が頭に入っていたジェドは、セリスが噂通りの人物ではなかったことに心底ホッとした。


 ──しかし流石にセリスの発言の一部には驚かされた。


 自分の目で見たものしか信じないという信念が、ジェドと同じだったからである。


 ジェドは来てくれたのがセリスという事実に嬉しくなって、我慢していた右手を伸ばした。

 触り心地の良さそうなハニーブラウンの頭を優しく撫でると、セリスの身体はピクッと小さく反応するのだった。


「セリス、ありがとうな。これから宜しく頼む」

「はい。こちらこそ宜しくお願いいたします。ですがジェドさん……もう一度言いますがもう立派な十八歳でして」

「これは妹にしてる癖じゃねぇよ。可愛いなと思ったからしただけだ」

「!?」


(この人は天然たらしなの……!? それとも女性の扱いに慣れてるの……!?)


 とにかくどちらにしても問題だ。これから働いていく上で、こんなことを頻繁にされようものならば心臓が爆発してしまう。

 無駄にそんな自信があったので、この心境を懇切丁寧に説明するべきかセリスが悩んでいると、ジェドは「さてと」と言ってからセリスの手をギュッと握った。


「実はセリスを歓迎するのに皆が集まってる。そろそろ揃った頃だろうから行くか」

「えっ、あ、大変ありがたいのですがお待ち下さい! まだ団長様にご挨拶出来ていなくて……流石に最初に挨拶に行かなければと思うのですが」


 そのまま歩き出そうとしたジェドだったが、セリスの言葉にピタリと足を止めた。

 なにか思うところがあるのか「悪い」と言いながら少し困ったように笑うジェドに、セリスは小首を傾げた。



「騎士団長、俺だ」

「は、い?」

「悪い。言ったつもりだった」


 ははっと笑うジェドに、セリスは目が点になる。


 どうやら魔物から助けてくれて、腰が抜けるという醜態を見られ、あまつさえ担がれ、とんでもなく甘い言葉を吐いてくるこの男が──。



「もう一回自己紹介しておくよ。俺の名前はジェド・ジルベスター。第四騎士団の騎士団長だ」


 さらっと二度目の自己紹介をするジェドに、セリスは頭が飛んでいくのではないか、というくらいに勢い良く頭を下げる。


「騎士団長様とは知らず大変失礼いたしました……!」

「待てセリス。ジェドで良いって」

「いやいやいや。流石に職場で一番偉い方にそんな呼び方は」

「じゃ、命令な。騎士団長様なんて呼ばれたら寂しいからこれからも名前で呼んでくれ。な?」


 おもむろに顔を上げたセリスの視界に入るのは、悲しそうに眉尻を下げるジェドの姿。そんな顔をされて首を横に振れる人間なんて居ないだろうとセリスは思った。それにイケメンだった……やっぱり『人間離れしたご尊顔』だった。



 こくんと頷いたセリスに満足したジェドは、繋いだ手をそのままに歩き出す。

 食堂につくと、さらっと手を解いたジェドは扉を開いた。


「おーい。セリスを連れてき──」

「「ようこそ第四騎士団へー!!!」」


 ──ポン!!!


 可愛らしい空気音がセリスの耳に届いたかと思えば、すぐさまバシャッ! と水を被ったような音が聞こえた。

 反射的にセリスは目を強く瞑ったのだが、水に濡れた感覚はないので、何が起こったかのかを確認するべくゆっくりと目を開ける。


 すると、目の前には頭からボタボタと水のようなものを垂らすジェドの姿があったのだった。


「お前らなぁ…………」

「「え!? 何で団長が!?」」

「そこじゃねぇだろ!! なんでいきなりシャンパンぶっかけてんだ!!」

「俺たち新入りの子を喜ばせたくて寝ずに考えたんすよ!! ナイスアイデアでしょ!?」


 何人かの若い団員がセリスを歓迎するのにシャンパンを掛けようとしたらしい。

 結果的にセリスを案内してきたジェドがそれを全てかぶる羽目になってしまったわけだが。


(ジェドさん……流石だわ。水も滴るいい男……。いや、シャンパンも滴る……ってそんなこと考えてる場合じゃなかったわ)


 頭の片隅のどこかでそんなふうに考えていたセリスは、ぶんぶんと頭を振ってジェドの前に出る。


 空のシャンパンを持った団員たちの後ろには未開封のシャンパンを持った団員たちが待機しており、本当ならば二発、三発と続くはずだったのだろう。


団員たちの声色や表情、態度から、嫌がらせではなく本当に喜ばせようとしたのだということがセリスにはひしひしと伝わったのだ。

確かにいきなり酒を浴びせることは常識外れなのかもしれないが、セリスはこの好意を受け取らなければと思った。


 ジェドは、滴ってくるシャンパンが目に入らないように片目を閉じながら、急に前に出てきたセリスの動向を窺った。

 やめてください! と止めてくれるのかとジェドは思ったのだが、セリスはとんでもないことを言い放ったのである。


「はじめまして。セリス・シュトラールと申します。皆様のご好意を受け取れなくて大変申し訳ありません。宜しければ今からでもどうぞシャンパンを浴びさせてください。さあ、どうぞ!」

読了ありがとうございました。


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