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五話 私十八歳ですので!

 

 暴れたらジェドに負担がかかってしまうだろうと大人しくしていたセリスだったが、心臓は耳を塞ぎたくなるほどに音を立てていた。


 そんな中でジェドに連れられて入った第四騎士団の寄宿舎を、セリスは担がれた状態で見渡す。


「結構綺麗なのですね」

「ああ。セリスの他にも二人家事を担ってくれる女性がいてな。まあそのあたりは明日詳しく話すとして、とりあえず医務室行くか」

「え? どこかお怪我でも?」


 セリスのくるぶしまであるワンピースが担がれたことによりふくらはぎまで捲り上がっていることにジェドが気が付いたのは、入り口のガラス越しに見えてからだ。

 男所帯にはこれさえ危険だろうと思ったジェドは、セリスの質問に「おー」と適当に答えながら、人通りの少ない通路を選んで足を進め、医務室へと入った。


 清潔そうな白いベッドに丁寧に降ろされたセリスは、お礼を言うと、自らの心臓を落ち着かせようと深く呼吸する。

 ジェドの動きを観察すると、棚から消毒液のようなものを出していた。


「大丈夫ですか? どこか怪我をされたのでしたら私が手当を」

「何を言ってんだ。怪我をしてるのはセリス、お前だ。膝、よく見てみろ」

「膝…………?」


 はて? 何のことやら。

 思い当たらなかったセリスだったが、ジェドに言われて自身の膝辺りに視線を落とすと、ワンピースにはほんのりと血がついていた。


「あら、いつの間に……」

「座り込んだときに怪我したんだろ。手当してやるから待ってな。これくらいなら俺でもできるから」


 そう言ってジェドは手早く消毒液と手拭い、包帯を用意すると、桶の中に水を入れてからベッドサイドに座るセリスの前に片膝をついた。


「悪いが捲くってもらって良いか? 化膿したら大変だろ」

「……お、お待ち下さい。一応これでも十八の女ですので流石に居た堪れず……自分で出来ますので、その、後ろを向いていてもらえると」

「……そりゃそうだな。小さい妹がいるからつい子供扱いした。悪いな」

「いえ! むしろ手当の準備をしていただきありがとうございます」


 くるりと、ジェドが後ろを向くのを確認すると、セリスはワンピースを捲くり上げた。

 準備された手拭いを水で湿らせて、丁寧に膝を拭いていく。


「あの……ジェド様? とお呼びしたらよろしいですか?」


 おそらく年上で間違いないだろうジェドにそう問いかけると、ジェドは「ははっ」と軽く笑った。


「ジェドで良いぞ。これから同じ職場の仲間なんだ。楽に呼んでくれ」

「……ではジェドさん。その、突然のことで言えてなかったのですが、助けていただいてありがとうございます」


 ジェドがいなかったらどうなっていただろうかと考えると、セリスはゾッとした。少なくとも膝の擦り傷程度では済まなかっただろう。


「気にするな。困っている人を助けるのが騎士団の役目だから当然のことだ」

「頭が下がります……。あ、そういえば、どうしてあの場に?」

「そろそろ来る頃かと思って出迎えようと思ってな」

「それはそれは、ありがとうございます」


 手当が終わったセリスは残った包帯や消毒液をベッドに置いたまま、ゆっくりと立ち上がった。 

 魔物に襲われかけてから多少時間が経ったことと、寄宿舎に入って安堵したことで、足腰に力が戻ったようだった。


「ジェドさん、手当終わりました」

「ああ。振り向いても良いか?」

「もちろんです」


 許可を得たのでジェドはゆっくりとした動きで振り返った。

 するとセリスは立ち上がりぴんと背筋を伸ばしている。


 そのままセリスはワンピースを指先で摘むと、深く頭を下げたのだった。


「改めてお礼申し上げます。危険なところを助けていただいてありがとうございました」

「……! 第四騎士団に伯爵令嬢のお嬢さんが何度も頭を下げなくても──」

「それは全く理由になりません。私はこの感謝の気持が伝わるまで何度だって頭を下げます。ジェドさん、ありがとうございます」


 より一層深く頭を下げたセリスが、そろりと顔を上げる。

目は薄っすらと細められ、アイスブルーの瞳が柔らかな光を纏っているようだ。

 確かに満面の笑みではないけれど、分かりづらいかもしれないけれど、確かにセリスは微笑んでいる。


 ジェドはその表情に一瞬見惚れるが、ハッと我に返った。


「分かったよ。これで門の開け方は完璧だろ?」

「!? そ、それは……本当にお恥ずかしい限りです……二度と引き戸であることは忘れません。ええ、二度と……」


 そっと目線を明後日の方にやって頭を抱えるセリス。

 ──可愛い奴、と言いかけて口を閉ざしたジェドは「なあ」と小さな声で呟いた。



「セリスは第四騎士団がなんて呼ばれているか知っているか?」


 ジェドの問いかけにセリスはギルバートに言われたこと、シュトラール邸で使用人が話していたことを思い出す。セリスは少し考える素振りを見せた。


「騎士団の墓場、ですよね。平民と下級貴族の集まりで、他の騎士団で問題を起こした人が送られる場所だとか、素行が悪いとか、噂は色々と……騎士団長様は冷酷残忍なお方だと耳にしました」

「セリスはそんな悪評高い第四騎士団と騎士団長の元でやっていけるか?」

「私は──」


 ジェドの質問に、セリスは間髪を容れずに答えて見せる。


 透き通ったアイスブルーの瞳を逸らすことなく、一切迷いのない声色で。



「身分は関係ないと思います。その人自身の頑張りや、実力のほうがよっぽど大事ですわ。つまり皆さんが平民だろうと貴族だろうと、魔物から守ってくださってるのは事実ですもの。感謝しかありません。第四騎士団の噂については何とも……私は自分の目で見たものしか信じないと決めているのです。それでいくとジェドさんを見る限り、噂は信じかねますね。ジェドさんみたいな人がいる職場が、噂にあるようなものだとは信じがたくて」

読了ありがとうございました。


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