コミック1巻 発売記念SS ジェドさんに甘えてもらいま…え?②
ジェドに呼び捨てにするよう頼まれたのは、これが初めてだった。
どうして今……? と不思議そうに目を瞬かせるセリスに対して、ジェドはこう話す。
「実は前から思ってたんだ。せめて二人きりの時くらい、セリスにはジェドって呼ばれてぇなって」
「……っ」
こちらを誘惑するような甘い甘いシェドの声に、くらりと目眩がしそうだ。
けれどセリスの表情筋は中々に強固な代物。
中身とは裏腹に冷静そうな表情をしたセリスは、首を横に振った。
「しかし……私とジェドさんでは身分が違いすぎます」
「あのなぁ、俺は既に王位継承権を放棄してる。身分っつーなら、伯爵家の娘であるセリスの方が上だろ?」
「うっ、それはそうかもしれませんが……」
「なあ、セリス。今日は俺をうんと甘えさせてくれるんだろ? ん?」
先程までのあどけない笑顔とは違う。
少し挑発するような、それでいてどこか縋るような声で甘えてくるジェドに、セリスは白旗を上げる他なかった。
「ジェ、ジェド……」
「……!」
真っ赤な顔をしてポツリと呟いたセリスに、ジェドは目を見開いた。
「こ、今回だけです! もう、言いませんから……! というか、あまりに恥ずかしくて言えません……!」
セリスは赤くなった顔を勢いよく両手で覆い隠す。
(好きな人の名を呼び捨てにするのは、何故こうも恥ずかしいんだろう……)
自分で頼んできた割に、呼び捨てにしたらしたで驚いたようなジェドの反応にも、恥ずかしさが増すばかりだ。
(けれど、ちゃんと呼べたわ!)
ジェドの要求に応えた即ち、彼を甘やかすことに成功したことに他ならない。
良くやったと自画自賛していたセリスだったが、ジェドの要求はこれで終わらなかった。
「まずいな……セリスに呼び捨てにされると、すげぇクる」
「くる?」
「なあセリス、もう一回」
「なっ」
ジェドはセリスの手を取ると、その手を自身の頬へと導く。
そして彼女の手を頬ずりしながら、上目遣いでセリスを見上げた。
「セリス、お願いだ」
「うっ」
「もう一回、ジェドって呼んでくれ」
「〜〜っ」
その後、セリスは目の前のジェドの可愛らしさに抗えず、結果、何度も呼び捨てで名を呼ぶことになった。
しかし、五回ほど呼び捨てにすると、その場には大きな変化が訪れた。
「無理」
「え」
なんと、ジェドが劣情を滲ませた瞳でソファに押し倒してきたのだ。
「あ、あの?」
「わりぃ、セリス。甘やかす役、交代な」
「んっ」
息もできないような激しいキスに、今日はもうあどけない笑顔のジェドを見られないだろうなとセリスは悟ったのだった。