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コミック1巻 発売記念SS ジェドさんに甘えてもらいましょう!①

『婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜①』

講談社KCx様より3/28日に発売しました!ぜひお手に取ってくださいね♡

↓に表紙とコミックの公式様のリンクが貼ってあります!

 

「団長って、セリスちゃんに甘えることとかあるんですか?」


 それは、ジェドと思いが通じ合ってから初めて迎えた宴の時だった。

 とある団員の何気ないそんな言葉に、セリスの肩はピクリと動いた。


(そういえば私……ジェドさんに甘えられたことないかもしれない)


 セリスはこれまで姉として生きてきた。やや複雑な家族関係ではあったが、姉という立場とアーチェスを大変可愛らしい性格だったことから、かなり甘やかしてきたと思う。


 ……人を甘やかすのは、不慣れでも苦手でもない。


(それなのに、ジェドさんといる時の私は甘えてばかりなのよね……)


 なんせ、相手はあのジェドである。

 歳の離れた妹がいることも多いだろうが、彼はセリスと比べ物にならないくらいに人を──否、セリスを甘やかすのが上手い。


 セリスがどれだけ恥ずかしかろうと、どれだけ申し訳なく思おうと、それらを簡単に凌駕してくるくらいにジェドの甘やかしスキルは高いのだ。


 彼にとろっとろに甘やかされてしまっては、いくらセリスであろうとも平静を保つのは至難の業だ。


「さあな。そんなことよりほら、もっと飲め。今日の酒は一段と上手いぞ」

「あー! 団長がはぐらかした! これはあれですね!? セリスちゃんの前ではにゃんにゃん言ってるんですね!?」

「……やっぱり酒没収な。お前、悪酔いしてるだろ」


 シェドは酔っ払う団員から酒瓶を取り上げ、ハァ……とため息をつく。


 そして、ジッと視線を送っているセリスと目が合ったジェドは、しょうがねぇ奴だよなと言わんばかりに眉尻を下げて小さく笑った。


(……このままじゃ、だめだわ)


 しかし、セリスはそんなジェドに微笑み返す余裕などなかった。


(さっきはぐらかしていたけれど、私がジェドさんを甘やかしてあげられていないのは揺るぎない事実──これからずっとジェドさんの隣にいるためには、彼を甘やかしてあげられるくらいの女性にならなければ……!)


 多くの団員がどんちゃん騒ぎする宴の中、セリスは一人、そう強く決意した。



 ◇◇◇



 次の日の夜。

 仕事を終えたセリスはジェドの自室へと訪れていた。


「ジェドさん、失礼します」

「おーセリス、どうした?」


 突然の来訪に、ジェドは少し驚いた様子で椅子から立ち上がる。

 恋人になってからというもの、基本的にはジェドがセリスの部屋に行くことが多かったからだ。


「あの、少し用事があって、構いませんか?」

「当たり前だ。ちょうど仕事が終わったところだから、こっちにおいで」


 ジェドは部屋の真ん中にあるソファに腰を下ろすと、自身の隣にポンポンと叩く。

 セリスはほんの僅かに頬を赤く染めながら彼の隣に着席すると、前置き無しに問いかけた。


「ジェドさんは甘えたくなる時、ありませんか?」

「は」

「いつも私が甘やかしてもらってばかりなのが気になって……ですから、もしジェドさんが嫌でないのなら、ぜひ私に甘えてほしいのです」


 目を見開いていたジェドは何かを察したのか、「まさか……」と口を開いた。


「昨夜の宴の時のことを気にしてんのか?」

「それもあります。やはり恋人になった以上、互いに甘えられる存在であったほうが良いかと」

「なるほどな」

「でも、それだけじゃなくて」


 一晩、ジェドを甘やかすといえことについて考えた結果、セリスはこんな感情に辿り着いていた。


「ジェドさんに、甘えてほしいな、って」

「!」

「ジェドさんはいつも格好いいですし、そんなところもとても素敵なのですが、こう……可愛い甘えたなジェドさんも見たいと言いますか」


 自分でも恥ずかしいことを口走っている自覚はある。

 羞恥心で顔を真っ赤にするセリスの頬に、ジェドはゴツゴツとした手をするりと滑らせた。


「恋人にそんなふうに言われたら、断れねぇな」

「!」

「セリス……甘えても良いか?」

「はい! もちろんです」


 いい返事をしたセリスにジェドはふっと笑う。

 そして、それはすぐに訪れた。


「じゃあ早速、膝枕してくれ」

「えっ」


 ジェドは身体をずらすと、セリスの太ももへと頭を預けた。

 しかも、セリスの方に体を向けて、だ。


「〜〜っ、確かに甘えたなジェドさんを見たいと言いましたが、いきなりハード過ぎでは……!?」

「恋人なら膝枕くらい普通だろ? 何なら、もっと激しい甘え方でも良いんだが」

「いえ、膝枕で結構です」


 ジェドはスキンシップの鬼だ。

 彼の言う激しいなんて、きっとセリスには想像もできないようなことだろう。


「あー……セリスの膝枕、最高に気持ちいいな」

「……っ」


 ジェドはセリスの太ももにグリグリと頭を擦り付ける。

 それから見上げてくる彼の顔はいつもに比べてトロンとしていて、ややあどけない。


「可愛い……」


 あれだけ恥ずかしがっていたセリスだが、初めて見るジェドの顔に、つい手が動いた。

 彼の柔らかそうな髪の毛に手を伸ばし、髪を掬うように柔らかく撫でる。

 彼はジェドは気持ちよさそうに目を細めた。


「ふふ、ジェドさん、気持ちいいですか?」

「ああ、すっげぇ気持ちいい──……」


 なでなで、なでなで。

 飽きることなくジェドの頭を撫で続けていれば、彼は目を開き、セリスの青い目をジッと見つめた。


「なあ、もう一個甘えていいか?」

「はい、もちろんです。好きなだけ甘えてください」


 好きなだけ、はさすがに言い過ぎたかもと思わなくもなかったが、なんせジェドが可愛いのが悪い。

 セリスはどんとこいという気持ちで、ジェドの言葉を待ったのだが──。


「じゃあ、ジェドって呼び捨てで呼んでくれ」

「えっ」

お読みいただきありがとうございました!

↓に表紙や公式様のリンクが貼ってありますので、コミック1巻もよろしくお願い致します!

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美しい表紙と挿絵を担当してくださったのは麻先みち先生٩(♡ε♡ )۶
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