コミカライズ連載開始記念SS
アプリPalcyにて、コミカライズの連載が開始されました……! とっても素敵に描いていただいてます!
↓にリンクが貼ってありますので、読んでみてくださいねʕ•̀ω•́ʔ✧
セリスとジェドが互いの気持ちを伝え合ってから一ヶ月後のこと、第二騎士団の新たな騎士団長にハーディンが就任することが決まったことを祝う宴会が開かれていた。
団員たちはハーディンを囲み、「よっ! 騎士団長!」「大出世!」などと声をかけている。
食堂には、いつも以上に明るく大きな声が飛び交う。祝いとなればいつも以上に料理の数も量も必要になり、ようやく料理を終えたセリスとナーシャ、ミレッタは食堂の端の席に腰を下ろした。
ナーシャは疲れからか、一旦机に顔を伏せると、すぐに顔を上げて盛り上がるハーディンたちを睨み付けた。
「ったく、あいつらめ! あたしたちのおかげで上手くて温かい料理にありつけてるってのに、誰もありがとうとか言ってこないし、酒がうめぇってばっかり言ってるし、何なんだ!」
「まあまあ、ナーシャ、落ち着いて」
「そうですよ、ナーシャ。今日は皆さん既にかなり酔っ払ってますから仕方ありません。ほら、いつもは美味しいとも伝えてくれるし、感謝の言葉もくれるじゃないですか」
「それは……そーだけどさ」
セリスとミレッタに諭されたナーシャは、若干納得がいかないような顔をしながらも、渋々文句を飲み込む。
とはいっても、ナーシャも本気で怒っているわけではないのだ。おそらく、ハーディンが団員たちに囲まれて、一切構ってくれないから拗ねているのだろう。
(ふふ、ナーシャは可愛いですね)
セリスとミレッタは、互いに顔を見合わせてからコクリと頷いて、ナーシャに料理を取ってあげたり、飲み物をついであげた。
たちまち笑顔になるナーシャは、素直で、少しばかり単純で、本当に可愛いと思う。
「そういえばナーシャ、荷造りは順調ですか?」
「ん? おう! あたしはもうばっちりだ!」
「ふふ、偉いわね、ナーシャ。来週には、第二騎士団に異動だものね。新生活、楽しみね!」
「ちょっと不安もあるけど……ま、なんとかなるだろって思ってる!」
ニカッと笑うナーシャの姿に、セリスはつい先日に出来事を思い出した。
──『俺に付いて来い』
そう、ハーディンがナーシャに伝えたのは、第二騎士団長に就任することが決まった当日だった。
ナーシャは驚きと照れがありながらも承諾し、二人は来週に第四騎士団を去る。
セリスはナーシャがいなくなってしまうことが悲しかったけれど、それよりもナーシャとハーディンが離れずに側にいることを選んだことが、幸せそうにするナーシャの顔を見られるのが幸せだった。
今日とは別に送別会の予定も立てており、最後は派手に、楽しく、明るく見送るつもりだ。湿っぽいのは、第四騎士団には似合わないから。
「でも、あたしには一つ心残りがあってさ」
「心残り? せっかくの門出なのに、それはいけません。ナーシャ、私にできることであれば協力するので、教えてください」
セリスの言葉にミレッタも同意する。
ナーシャはそれなら……と呟いてから、セリスに向かってこう言った。
「あたし、セリスの弱点が知りたい!」
「はい?」
(一体、どういう)
きょとんとした顔をするセリスに、ナーシャは言葉を続けた。
「セリスって貴族のお嬢様だからマナーとかもちゃんとしてるし、お上品だしその上記憶力も良いし、家事までできるだろ? 最強じゃんか!」
「い、いえ、そんなことはありませんが……。それに、顔面の筋肉がなかなか強情だという欠点もありますし」
感情表現が豊かなナーシャが心底羨ましいと思うくらいには、セリスは自分の無表情を欠点だと捉えていた、のだけれど。
「いーや! それはそれで良いんだ! それにほら、たまーに、ほんとにたまーに笑った顔が見られるってのも、特別で最高に良い! なっ、ミレッタさん!」
「それはそうね。ナーシャに同意だわ〜」
「ちょ、ミレッタまで!」
「けれど、ナーシャはどうしてセリスの弱点が知りたいと思ったの?」
的を射たミレッタの質問に、セリスは確かにと内心で思い、ナーシャの説明を待った。
「だって、弱点が分かってたら、あたしがセリスを助けてあげられることがあるかもしれないだろ! セリスがここに来てからいっぱい助けてもらったからさ、あたしもセリスのこと助けられないかなって」
恥ずかしげもなく語るナーシャの姿に、セリスの胸はキュンッと音を立てた。
「! ナーシャ……! 貴方って人は……! 可愛いにもほどがあります」
「本当よ〜! そんなナーシャには、私が選びに選んだ美味しいお酒をあげちゃう! 今日は酔っ払うわよ〜〜!」
「酔っぱらうぞ〜〜!」
◇◇◇
それからしばらくして、あまり酒を飲まないセリスを抜いた女性陣はデロデロに酔っぱらい、机に伏せるようにして眠ってしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
セリスが二人を介抱していると、一切酔っ払った様子のないジェドが声をかけてくる。先程まで違うテーブルについて酒を煽っていたはずだが、やはり相当酒に強いらしい。
「ジェドさん、後でミレッタを部屋に運ぶのを手伝ってもらえませんか?」
「そりゃあもちろんいいが……ナーシャはどうする?」
「ハーディンさんにお任せすれば良いかと」
「確かにな。で、珍しくミレッタさんまでこんなに酔っ払うなんて、何があったんだ?」
いつの間にか隣の席に腰掛けたジェドが、テーブルに頬杖をつき、顔を覗き込むようにして問いかけてくる。
その仕草に少しドキリとしながらも、セリスは先程までの流れを端的に説明した。
「なるほどな。人の弱点を知りたい理由が助けてやりたいだなんて、ナーシャはやっぱり良い奴だな」
「はい。本当に。結局、ミレッタさんが出してくれたお酒を飲んだり、ご飯を食べていたらその話は流れてしまったんですけどね」
とはいえ、ナーシャの気持ちが知れて嬉しかったことには変わりはない。
セリスが僅かに口角を上げれば、ジェドはそんなセリスの口元に目をやりながら口を開いた。
「ま、話が流れて良かったんじゃねぇか? いくらそんな純粋な理由でも、明かしたら恥ずかしい弱点だってあるしな」
「恥ずかしい弱点? 私に、ですか?」
「ああ」
表情が乏しいことの他にも、身長が低いことだとか、運動があまり得意ではないことだとか、自身の弱点についてはある程度理解している。
しかし、それらは別にナーシャに明かして恥ずかしいことではない。どころか既に知られているだろう。
「ジェドさん、私の恥ずかしい弱点って何ですか?」
考えても埒が明かない。こういうことは聞くに限るだろうと問いかければ、ジェドがセリスの唇にそっと手を伸ばした。
そして、セリスの唇を親指で優しく触れたあと、薄く開いた彼女の口内に人差し指を優しく差し込んだ。
「んんっ」
上顎を優しくなぞられたセリスからはくぐもった声が漏れる。
ジェドはニヤリと口角を上げて、セリスの耳元に顔を近付けた。
「ここが、セリスの弱点」
「……!」
「ははっ、自分じゃ気付いてなかったのか?」
「〜〜っ」
セリスは顔を真っ赤にして、自身の口に伸ばされたジェドの手を叩く。
ナーシャを心配してこちらを見ていたのだろうハーディンに一部始終を見られていたことには、気付きたくなかった。