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三十二話 新たな断罪への鍵

 

 セリスは小走りでジェドに駆け寄ると、後ろからぎゅっと抱きついた。

 羞恥心はもちろんあったけれど、こうしてでも止めなければジェドは剣を振り下ろすと思ったからだ。

 いくら大切な義妹を傷付けられたとしても、裁きは個人的に行うものではないと思えるくらいには、セリスは冷静だった。


「分かった……セリスがこのまま抱き着いててくれるなら斬らねぇよ」

「つまり、離れれば斬ると?」

「かもな」

「〜〜っ」


(家族の前でジェドさんにずっと抱き着いているなんて……)


 どんな羞恥プレイなのだろうかと思いつつ、セリスはジェドの言葉に従う。そして咄嗟に、話を少しずらしたのだった。


「あ、あのジェドさん。話に出てきた第二騎士団長様の賄賂の件は問題にはならないのですか?」


 セリスの質問は尤もだったが、これが一番厄介だった。

 ジェドは離れていかない温もりに満足そうに微笑むと、再び冷たい瞳でギルバートを見下ろす。


「あいつが賄賂を受け取っている話は有名だが……証拠──つまり金と何かそれに関する書類が見つかってないらしい。用心深いから奴の部屋の何処かに隠してあると思う──」

「そ、それ! 俺知ってるかもしれません……!」

「……なっ」


 予想だにしないギルバートの発言にジェドは大きく目を見開く。

「さっさと話せ」と冷たく言い放てば、ギルバートは怯えながら口を開いた。


「団長室のテーブルの下の床が変だったんです! 色が違うというか……一度床を剥がしたようなそんな──」

「……! 床下か……。もしかしたらそこに……可能性としては十分あり得る」


「他の部分は俺が探したし……床は盲点だったな」とぶつぶつ呟くジェド。

 至近距離にいるセリスにもはっきりとは聞こえなかったけれど、とにかく貴重な情報を得られたのであれば、それに越したことはないだろうとセリスが口を挟まないでいると、扉の外側──廊下からバタバタと聞こえる足音に顔だけをそちらに向けた。


 ──バタン!!


「団長!! セリスちゃん!! 大丈夫ですか!? ……って、あれ? 何でセリスちゃん抱き着いて……? んん? この状況は一体?」

「お前らどうしてここに……!」


 突然現れたのは第四騎士団の団員たちだった。


 どうやらナーシャに「セリスの家が大変らしい」という話だけを聞いて、いても立ってもいられず乗り込んできたらしい。

 団員の中にシュトラール伯爵邸の場所を知っている者がいたため、迷うことなく来られたみたいだ。


「ハァ……ナーシャの説明は雑だしお前らは勝手に来るし……ウィリムは止めなかったのかよ」 

「副団長はあまり理解してないみたいで、任務が入ってないなら好きにしろと」

「説明した意味がねぇな……あんの『む』野郎め。──まあ良い。来て早々悪いが、そいつを連行しとけ」


 ジェドにそう言われ、団員たちはバッとギルバートの顔を見る。

 以前の合同軍事演習の際、セリスのことを意図的に傷つけようとしていた人物だということを理解した団員たちは、両側からギルバートの脇に手を入れて立ち上がらせた。


「ま、待ってくださいどこに──」

「一旦第四騎士団の地下牢に入ってろ。……と、その前に、ちゃんと謝罪していけ」 


 団員たちはピシ、と足を止めると、ギルバートの体をアーチェスたちの方へと向ける。


 同時にジェドが剣を鞘に戻したのを確認したセリスは、ジェドから離れてアーチェスと義母の元へ近づく。


 ジェドと両側の団員から睨まれたギルバートは、ゆっくりとした動きで深く頭を下げた。


「この度は申し訳ありませんでした……婚約破棄の件も、謹んでお受けいたします」


 おそらくそれが、ギルバートの精一杯の心からの謝罪だったのだろう。


 アーチェスと義母、そしてセリスもその謝罪に対してはコクリと頷くだけで、慰めの言葉も文句をつけることもなかった。



 ◆◆◆



 ギルバートが連行されてから、セリスはまずアーチェスと義母の手首の痣を治療していった。何も施さなくとも治るだろうが、どうやら放っておけなかったらしい。

 家族のことは恨んでいないと聞いていたので、ジェドはセリスらしいと思いつつ、その様子を優しい瞳で見守ると、先に治療を終えた義母がソファに腰掛けるジェドの前にやってきたのだった。


 セリスは治療しながら、儚い恋の終わりを迎えた義妹を慰めている。


「ジェド様、でしたわよね」

「はい」


 血が繋がりがないため当たり前だが、あまり顔はセリスと似ていない。

 けれど、どこか雰囲気は似ている気がしてジェドはそれほど気を張ることはなかった。


「この度は私たち家族を助けていただいて本当にありがとうございました」

「いえ。礼ならばセリスに言ってやってください」


 ジェドはちら、とセリスに視線を移す。

 その瞳が熱を帯びていることに気がついたセリスの義母は、視線の先のセリスを見つめた。


 するとセリスはジェドにじっと見られていることに気が付いたのか、表情はそのままだというのに、頬がぱっと色付き始める。


 義母はそんなセリスとジェドを見て、お互いが持っている感情を察した。


「セリスは、職場でどうですか?」

「しっかり働いてくれています。優秀ですし、頑張り過ぎなくらいです。俺は……セリスがいるだけで頑張れるんですよ」

「そうですか……あの子のこと、大切に思ってくれているのですね」

「……大切ですよ。未だに一発ぐらいあの男を殴っておけば良かったと後悔するくらいに」


 爽やかな顔をして、しれっと暴力的なことを言うジェドに、義母は、ふ、と笑みを零す。


 セリスは凄い男性に惚れられたものだと思っていると、アーチェスの治療を終えたセリスは、アーチェスを連れてジェドと義母が話しているソファまで歩いてきていた。 


 セリスはジェドの隣に、その向かいのソファに義母とアーチェスが腰を下ろすと、口を開いたのは義母だった。


「セリス、まずは貴方に謝罪しなければならないわね。脅されていたとはいえ、手紙で呼び出したこと、ごめんなさい。それに婚約破棄を認めたり、家を追い出すことを許可したことも全て……」

「いいえ。手紙の件は仕方ありませんわ。ギルバート様の件もアーチェスの気持ちを思ってのことでしょう? お義母様が気に病むことはありません。それにあのまま家にいても確かに気まずかったでしょうし、結果的に第四騎士団の方々は優しくて気の良い人たちばかりですから」


 そう言って、セリスは隣のジェドを見てほんの少しだけれどほほ笑む。

 表情は普段と大きくは変わらないけれど、アイスブルーの瞳の輝きと言ったら、今まで見たことがないくらいに輝いている。


 義母は一度目を伏せてから、再びセリスの顔を見つめた。


「ありがとう……セリス。それに改めて、ジェド様もありがとうございます。──良い機会ですから、二人には聞いてもらいたいことがあります」

「聞いてもらいたいこと?」


 皆目見当がつかないセリスは、素早くまばたきを繰り返す。

 そんな中で、義母はおもむろに口を開いた。


「セリス、貴方の見たものや聞いたことを忘れない能力──『絶対記憶能力』について、話しておかなければいけないことがあるの」

「『絶対記憶能力』ですか……?」

読了ありがとうございました。

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