–上–
アタシはあなたの
隣に居たかった
明るい場所
「兼正、今回の戦、大義であった。褒美を取らせよう。」
「勿体ないお言葉。ありがとうございます。」
頭を垂れた姿が見える。
手にまだ治っていない傷がある。
「また、あいつか。どうせあのお気に入りのくノ一にさせたことだろう。」
「兼正は女の手管握るのがうまいからな。ハハッ。」
雑音が聞こえる。
あーあいつら殺そうかな。
一人はここから降りて首を切って
一人は目を刺してから喉に突き立てるか。
でもお館様の御前が汚れるのは兼正様は嫌がるだろうか。
ぼんやりと人を殺すことを考えながら屋根裏から主が誉められる姿を見ていた。
お館様の前に出る時は纏っている空気が違うように感じる。
戦場での空気とは違う緊張感。
「褒美は何が良いか考えておけ。」
主は何を求めるのだろう。
「七が欲しいものでも構わんぞ。なぁ、七。」
お館様の視線は天井をむき、屋根裏なのに目が合った。
思わず目を逸らし、屋根裏から移動した。
いること気付いてるとか恐すぎる。
あの場で兼正様以外は気付いてないと思っていたのに。
これだからお館様は苦手だ。
他の奴らはいつだって簡単に殺せるのに、お館様だけは殺されると脳が警報を出す。
「ねぇ、はやて。お前もお館様が恐かったりする?」
大きく鋭い嘴を撫でる。
開いた嘴に指を入れ、おもちゃのように指を甘噛みしているのを見つめる。
人を簡単に傷付けられる爪を持ち、尖った嘴を持つ友。
里を離れた私が連れてきた唯一の友。
会話は出来ないが、心は通じていると感じている。
「七ー七ー。戻ったぞ。」
聞き慣れた声がして、はやての口から指を離す。
不満そうにこちらを見たはやての頭を撫で、飛び立つ合図を出す。
屋根から襖に降り部屋に入る。堅苦しい烏帽子を脱ぎ帯も緩めている兼正様がいた。
「お帰りなさい。ってか見てましたけどね。」
知ってる。と笑う。
「七、お館様がお前にも褒美をと。」
「聞いてた。」
「何か欲しいものは?」
いつもの軽装に戻っていく兼正様を見つめる。
「いらない。お館様からは何も。」
欲しいのは
「兼正様からの褒美が欲しいです。」
それを聞いて、主の手が上がる。
丁度良い位置に来るよう頭を下げる。
手が頭に乗る。
重みを感じる。
「アタシは、お役に立ちましたか?」
「嗚呼、お前は俺の誇りだ。」
頭を二度、手が往復する。
それが幸せだと思う。
どれだけ手を血塗れにしても
どれだけこの体を汚しても
生きていて良いと言われていると思えた。