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革命前夜の少女たち  作者: 朱
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月・サン・中村と桜井零

 ショッピングモールでのイベントが終わって数日経って、SHOW-A企画の小さな会議室に集まったうちらの前で香織ちゃんが早速吠えたんや。

「だーかーらー。あたしの代役で出演したんなら、出演料はあたしが貰ってもいいですよね!」

「はあ?!何訳の分からないことを言ってるんだ。お前は実際にイベントには出てないんだから、その分のギャラは差し引くに決まってるだろう?!」

「ひ、酷いっ!あたしのギャラなのに、“正子ちゃん”に持ってかれるなんて理不尽だ!…え?これって給料未払いって奴?……はっ!もしかして…横、領…横領かっ!何てヤツ…事件だ!横領罪で訴えてやるっ、訴訟だ訴訟だ!」

「な、…無茶苦茶だぞ…」

 凡人のマネージャー兼公務員には到底理解困難な理屈で給料の支給を要求する香織に、柘植は額に手を当てて呟いた。

「あ。そうだ!五色弁当はどうしたの?…まさか、それも“正子ちゃん”に」

「な…訳ないだろ。俺は二人分も食べれん」

「そうそう。柘植ちゃんは意外と胃ぃちっちゃいねん」

 うちが腕を組んで、うんうんと頷きながらそう言うと誰かがクスッと笑った。

「それなら、皆で分けて食べたわよ…柘植さんがそうしろって」

 更に話に割り込んできたのは、眼鏡をキラリと光らせた梅ちゃんだ。それに乗っかって零ちゃんも話に加わる。

「うんうん。ボクもご馳走になったよ…えっと、梅ちゃんが菜の花の和え物とかで、月ちゃんが海老と筍の春巻きで、未薙ちゃんはローストビーフ、知依ちゃんは特製出汁巻玉子で、ボクは文旦ゼリー!桜ご飯は皆で分けたよ。…美味しかったねえ」

 零ちゃんの言ったお弁当の中身を聞いて、香織ちゃんの表情がおかしくなった。柘植ちゃんへ向ける視線がめっちゃ怖いなあ。

「おい待て。…それは、捨ててしまうのは勿体ないからと思っただけで…」

「ぐぬぅ!…あたしの、五色弁当ぉ~。くっそお。それも加えて、丸ごと訴えてやるー!!」

「なんでそうなるっ!」

「先輩、あれは…止めなくていいの?」

 と、やや焦り気味に知依ちゃんが二人を指差して未薙ちゃんに問い掛けてた。でも未薙ちゃんはにっこり笑って

「いいのいいの。柘植ちゃんと香織ちゃんのコンビって、なかなかないんだもの。面白そうだから止めるのは…もうちょっと見てからね」

 と返した後、知依ちゃんに顔を近付けて何か言ったけど、離れてたうちには聞こえなかった。ただ、知依ちゃんが「別に!」と慌てて答えて顔を背けてたので、何となく内容は判ったなあ。


 Stand by るな・サン・中村

「あはは。柘植ちゃんの負けー」

 零ちゃんの声を背後に聞きながら、月は万々に呼ばれて衝立の向こう側へ移動する。

 会議室の一角を衝立で仕切っただけの、その狭い空間に簡易の折り畳み椅子が二脚と小さな丸テーブルが用意されていた。

 既に一脚の椅子には三十代の女性が座っていて、入ってきた月にもう一つの椅子を勧める。

 今日は地元の情報誌に載せる、『革命少女隊』のインタビュー取材があった。一番手はくじ引きで月に決まった。

「なんか、皆さん凄く仲が宜しいんですね」

 くすくす笑いながら記者の女性が声を掛けてくる。

「ほんま、めっちゃ仲よしなんです…でも」

 少し声を落として、内緒事を話すかのように口に右手を添えて

「最初の頃は、全然、他人行儀やったんですわ」


 ―うちは元々は大阪生まれで十歳くらいまで住んどったんやけど、小学校でヤな事あって、東京に転校したんです。でも、この通り、コッテコテの大阪弁を揶揄われて……

 日本の漫画やアニメが大好きなアメリカ人の母と阪神タイガースを敬愛する大阪人の父との間に生まれた。

 両親の影響を多大に受けて、阪神好きお笑い好きアイドルめっちゃ好きの明るい幼女時代を送った月だったが、就学してから状況は変わった。

 大柄な体型の母方に遺伝したか、ぐんぐん身長が伸びて三年生になると一七〇cmに迫る勢いで、加えて小麦色の髪と青みがかった瞳は周囲からの注目を浴びるのに十分な材料となった。

 日本で生まれて日本人として育ったのに、その容姿から「ガイジン」呼ばわりされて、いつもクラスメイトから

「ワタシ、ニホンゴワッカリマセーン」と揶揄われ仲間外れにされた。更にそれがエスカレートすると、学校に置いてあったノートや学用品を隠されたり傷つけられるようになった。身体がクラスメイトより大きい為に、直接的な危害を加えられる事がなかったが、誰の仕業かはっきりと判らなかったので担任にも相談できなかった。

 流石にランドセルに付けられた傷を母親に見付けられ、クラス内での出来事を漸く知った両親は引っ越しを決意した。偶々父が関東の支店に転勤するのを機に、十歳になったばかりの月は家族と共に東京の郊外に移り住んだのだ。

 《ええか。月、なあんも我慢する事あらへん!次意地悪されたら、お父ちゃんでもお母ちゃんでも構わんさかい、すぐに言うたらええ。必ず助けたる!》

 ところが。今度は東京の転校先でクラスメイトが大阪弁を揶揄い始めた。

 好きなお笑い芸人を真似して「何か面白い事を言え、やれ」と強要される。拒めば途端に冷たい態度を取り出す彼らに

 《自分と何か違うってだけで、うちに意地悪すんのちゃうんとちゃう?!》

 堪らなくなって思いっきり噛みついた。すると、揶揄う同級生はいなくなったけど、誰も友達にはなってくれない。無視はされないけど、皆遠巻きに月を眺めているだけだ。それ以来、月は人より一歩下がって大人しく物静かな子になってしまった。

 ―正直ゆうたら、今も人と話すんは緊張するわ…ちいーっとな。

 インタビューは続いた。

 ―アイドルを目指す切っ掛け?それは、な…

 《お父ちゃん、うちも、おっきゅうなったらアイドルになりたい!》

 テレビ画面に映るアイドルグループOBM48の歌を聞きながら言ってた事を両親は覚えていてくれた。

 《知り合いの人がな、教えてくれたんや》

 そう言って渡してくれたチラシは、某県のご当地アイドルのメンバー募集広告だった。

 両親に背中を押されて全力で挑んだ結果見事合格した月は、以前の自分を知らない、この新天地で頑張ると誓ったのだった。

 ―一応、東京出身やから、大阪弁は封印して標準語で通して。阪神ファンやゆう事もお笑い好きも隠して、うま~く皆と話を合わせて悪目立ちせんよう立ち回る。…そんなん、続く訳ないのにな(笑)

 ある日、レッスン所で知依さんと梅ちゃんが大喧嘩した。ほんまにド派手な取っ組み合いになって、正直めっちゃ怖かったわ~。

 すると数日経って未薙ちゃんのお家で“お泊まり女子会”を開くことになったんや。

 ―(朝倉邸ですね、知ってます。驚いたでしょう(笑))

 ―たまげたわ!社長令嬢さんや~てのは知っとったけど、あんなでっかい家見たの、初めてやったわ!しかも執事がおった。なんや、姿勢ピーンとしててカッコええわ。

 SHOW-A企画の社長の知り合いから借りたアパートの部屋に県外人の月と梅子、零が共同生活を送っている。

 大学進学を機にマンションで一人暮らしの知依と実家住まいの香織はそのアパートで夕方待ち合わせて朝倉邸へ向かった。

 ―道中、梅ちゃんと知依さんが超ケンアクな感じでな。皆ずっとだんまりやったわ…。

 思い出して、苦笑いする。

 朝倉邸に到着した月達を、執事が出迎えて応接室に案内してくれた。

 執事が退室するのと入れ違いに未薙がラフな格好で入ってきた。

 《いらっしゃい、皆。さて。早速案内するわね!…ふふふ。私の、お城に》

 そうして案内された部屋は、広いロフトだった。

 大人の未薙と知依、つい最近二十歳になった梅子は次々とお酒を空けまくり、残る未成年組の月達はジュースで乾杯して女子会は始まった。

 ―太るって分かっとるけど、夜中の甘いもんは止められんわ。お菓子、いーっぱい食べてしもうた(笑)

 そこで一晩中、色んな話をした。

 最初は畏まった自己紹介だったが、趣味や特技、家族構成とか食べ物の好き嫌い、お気に入りの芸能人、オーディションを受けた理由と話すうちに段々互いに砕けた口調に変わってゆく。

 《好きな芸人さん?》

 誰かの質問に、月の肩が跳ねる。

 《千村こん!》

 《こめんつぶ…》

 《ええ~?ざんまさんだよー、一番偉そうだし》

 《あ。私は二次元男子にしか興味ないから…》

 どうしよう。好きな芸人さん、ジャージー兄弟や~ゆうたら、また引かれる…。

 《わたしはね…ジャージー兄弟かな》

 未薙の一言に思わず振り返ると、バッチリ目があった。にっこり笑った未薙が

 《もしかして、月ちゃんもおんなじ?…面白いわよね。“ジャージーニュー!”》

 と言って両手で丸を作って突き出す。

 ―(えっ?!あの、未薙さんが…?)

 ―ほんっま、ビックリやわ。“好き”の“同志”がこんな近くに居ったなんて、もう感動してなあ~うっかり口を滑らしてしもた(笑)

 《ちゃうちゃう、もっとこう…》

 言った瞬間に一同、固まった。

 《関西弁…?》

 梅子の呟きでしまったと口を押さえるが、遅かった。が。

 ―《わあっ、かっわいい!》って、零ちゃんが。梅ちゃんは《可愛い、じゃなくて格好良い

 の間違いでしょ》とツッコミ入れるし。…ああ~ツッコミとちゃうかなあ?なんや酔っ払って妙やったし(笑)

 《うん。なんか、月ちゃんっぽいって言うか、似合ってて好きだなあ》

 知依も少し酔ったのか、梅子とくっつき合ってフフと笑った。夕方の二人とは想像出来ない程の密接っぷりだった。

 その後も笑って食べて飲んでいっぱい話して、いつの間にか寝ちゃって。朝が来て一緒に朝食ご飯を食べて。

 またやろうね、お泊まり!

 誰が言うたんやったっけ?

「うんやろやろ、うち大賛成や」

 と自然に大阪弁で話していた。

 《我慢することなんてないよ。私達、仲間じゃない。大阪弁で話す月ちゃん、わたしも可愛いと思うけどなあ》

 酔ってほんのり顔を赤らめた未薙の言葉が、みんなの言葉が月の心に染み込んでいった。

 ―うち、ほんまにデビューの日が楽しみやねん。みんなに会えて、一緒にアイドルできるって…めっちゃ嬉しい!


「勿体ないって言うくらいなら!あたしの分の五色弁当、うちに届けてくれても良かったじゃん!柘植の、ケチーッ!!」

「呼び捨てっ?!…あのな、いい加減にしろよ…」

 柘植が本気で怒る体勢を取った所で月のインタビューは終わった。失礼しま~すと衝立の中から出てきた月と目があった未薙が

「まあまあ二人とも。ほら、次は香織ちゃんでしょ?」

 そう言って、間に割って入ってきた。


 Stand by 桜井零

 《君さあ、まさかその程度の演技力で、うちの劇団、新世紀に入れると思ってる訳?!いやいや。いやいやいやいやー、ムリムリ!絶対無理、あり得ないから》


 ボクは

 こいつが

 大っ嫌いだ。


『…ああ……やられた…よ』

『りょ、龍馬!…気をしっかり持てっ!…大丈夫だ…だい、丈夫だか……っ』

 お正月スペシャルドラマ『パラレル~幕末篇~』。超人気女優萩原寿々子ちゃん演じる坂本龍馬が、亀山社中を立ち上げ幾つもの困難を乗り越えて、明治維新を経済人として迎えるまでの、史実を思いっきり無視した内容だ。

 例えば、龍馬が商売敵となった岩崎弥太郎と商船のスピード合戦したり、薩長同盟は何故か武市半平太が仲立ちしたり、中岡慎太郎は脱藩しないで地元で大きな果樹園を営んだり、井伊直弼は吉田松陰らと一緒に不平等条約撤廃に向けて外交に勤しみ、新撰組の土方さんと龍馬は大の仲良しで、おっさん慶喜公は超悪役で西郷さんを陥れて薩長連合軍を分裂させて、それを阻止しようとした龍馬が最後には暗殺されてしまうってお話だった。

 メチャクチャな内容だったけど、すっごく面白かった。

 まだ小学校低学年だったボクはこのドラマを観て、生まれて初めて女優さんに憧れた。

 《ボクもあの女優さんみたいになる!》

 テレビ画面に映る、カッコいい龍馬役の寿々子ちゃんを指差して宣言したんだ。

 ま、家族は誰も真に受けちゃあくれなかったけど。

 二コ下の弟にまで

 《現実を見なよ、ねえちゃん》

 と憐れみの目で見られても、ボクは決して諦めなかった。そりゃあ確かにチビだし、短足だし(認めるけど。認めたくないけどっ)、美人って訳でもないし、スタイルも…それは何とかするし!

 だとしてもっ、演技力があれば、表現力があれば見た目は関係ないし!……多分。

 とにかく、演技の勉強を独学だけど必死にやった。オーディションは端役だろうが、エキストラだろうが片っ端から受けまくった!

 全て落ちたけど。

 ―でも、めげないっ

 子供劇団の入団テストにも参加した!全部!

 掠りもしなかった。

 ―負けるもんかっ


 そして中学二年の夏休みに、新たに立ち上げるという某劇団の入団テストを受けた。ボクよりずっとずっと綺麗な女の子達がいっぱいいる会場で、座長であり演出担当であり、そこそこに有名なベテラン俳優の大石敏隆に散々こき下ろされた。

 《あれっ、君ぃ。名前にちゃんと君の事書いてあるじゃん。役者の才能、ゼロって。ケケケケケ、ウケる~ゼロちゃぁん》

 途端会場にいた他の大人達がどっと沸いた。順番を待って会場の隅に控えてた、綺麗な女の子達までクスクス笑っている。最悪だった。

 おのれえ、大石敏隆めぇ~。

 やっぱり悪党の慶喜役がピッタリな、超嫌な奴だっ!!入団テストになんか、来るんじゃなかった!

 ほんとうに悔しかった。悔しくて悔しくて。それでも帰り道はずっと泣くのを堪えた。泣くのは負けた気がしたから。

 漸く家に帰り着くと、いつもは冷徹クールな態度ばかり取る弟と玄関で鉢合わせ、ボクの様子に気が付いたのか

 《お帰り。ねえ、なんかあった?》

 と訊いて来るもんだから、とうとう堪えてた涙のダムは溢れて一気に流れ出したんだ。この日だけ、弟は黙って泣き止むまで側にいてくれた。優しかったな。いつもそうだと良いのに。

 “零”はパパとママが一生懸命考えてつけてくれたのに、あんなちんけなオッサンに馬鹿にされて笑われて“ゼロ”だとう?“れい”だよ!履歴書のふりがな読めんのか?!

 ああ!なんか、ムカついてきた!!

 段々腹が立ってきたボクは、再び立ち上がった。

「絶対、見返してやる!」

 絶対、絶対、絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対!!ギャフンと言わせてやるっ!

 それからボクは性懲りもなくオーディションをまた受けまくった。そしてまた落ちたある日の帰り道で、とあるアンテナショップの前を通り掛かった。その店のレジ壁に貼られてたポスターに目が止まる。店の入口からレジまでそこそこ距離があったのに、ボクの両目はしっかり文字を読んでいた。


『ご当地アイドルの新規メンバーを大募集!貴女も一緒にアイドル、しませんか?』


 気がつけばボクはレジに飛びついて、店員のお姉さんに《これ、どうやって応募したらいいんですかっ!》と叫んでいた。

 無我夢中で受けたオーディションは見事に合格。パパとママは吃驚してたね。そして、折角入った高校をたった三ヶ月で辞めると言ったから嫌な顔されたなあ。…でもボクは最終学歴が中卒でも良かったんだけど。

 するとそれを知ったSHOW-A企画の社長さんから提案されて、通信教育で高校修了を目指す事で漸く許可が下りた。

 ボクは、今でも中卒でも良いんだけどね。


 ボクらの『革命少女隊』は、もうすぐデビューするんだ。

 見てろよ、大石ぃ!!

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