第九話 転校初日
目覚ましのけたたましい音が、俺を夢から現実へと引き戻す。
「……んぅ………はっ!?」
目を覚ますと俺はこの魔法のある世界の瀧谷薫のまま、寝間着を着た状態で同じ部で上半身を起こしていた。
「くっ、全く何だってんだ」
結局俺をこの世界に転生させた本当の意図を知れないまま、俺は転学初日の朝を迎えることとなった。
「……おはよう、母さん」
「あら、自分で起きれるようになったのね。偉いえらい」
何かにつけて頭を撫でてくる母親と向かいあわせで朝食のパンを口に運びながら、俺は今更ながらにこれから通う学校について質問を投げかける。
「そういえば今度からどういう学校に行くことになるの?」
「うん? ああーそれがね、あなた教室の一件で魔法省でも話題になって言ってたじゃない? それであの有名私立高校の葉明学院高校があなたの面倒を見たいって言ってくれたのよ。国立並みに施設も揃っているし、お母さんとしてもそんな有名高校の方から声をかけて貰えるなって思っていなかったから嬉しくてつい二つ返事でオッケーしちゃったの」
つまり今日からはその葉明学院に俺は通うことになるという訳か。変な学校じゃなければ良いけど。
「国立もやってるカテゴリ制度も導入されてるから、自分の力にあった授業が受けられるようになるわよ」
「そうなんだ」
「……あんまり興味ない感じかしら?」
「っ! そういう訳じゃないよ! 楽しみだなぁ」
向こうの世界だと師匠と一対一の関係だったから、こうして集団で魔法を学べるなんて確かに新鮮だ。だからといって魔法科で既に通っている他の奴等に後れを取るつもりなんてさらさらないけど。
「そうね。もしかしたらあなたが今使っている魔法の事とかも解明するかもしれないし」
「というか、母さんは俺の喋っている魔法言語を知らないの?」
「知らないわよ。そんな唸ってるような吠えるような言語、魔法省の知り合いに聞いてみたけど誰も知らないもの」
そうなったらそうなったで、悪い意味で注目を集めそうだ。もしかしたらその私立高校も、俺の喋っている魔法言語が知りたいがために名乗り上げたのかもしれないし。
「朝ご飯を食べたら早速高校に行くわよ。制服とかは向こうが用意するらしいし、初日は面接だけになるわ」
「そっか」
だったら今日は早く帰ることができるのかな。もしそうだとしたら、ちょっと街中を歩き回ったりとかしてみたいな。
そう考えながら車に乗り込むと、上機嫌で鼻歌を歌う母が運転席に乗り込んで車のエンジンをかける。
「それじゃ、葉明学院に向けてしゅっぱーつ!」
転学初日、まずは様子見でいきますか。