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第1話 目覚め

「んぅ……? はっ!?」


 窓の隙間から流れ込む僅かなそよ風が、俺の頬を撫でる。その優しい刺激に目を覚ました俺は、即座に身体を起こして周りを見回した。


「……ここは!?」


 俺は目を疑った。今までの世界では絶対に有り得なかった空間だったが、俺はこの部屋を知っている。


「……病室だ」

「っ! かおる!? 目を覚ましたのね!?」


 そうだ、かおるだ。俺の元の世界での名前だ。

 瀧谷たきやかおる。思えばこんな女みたいな名前も、当時いじめられる原因だったんだと思う。


「まさか頭から落ちるなんて……ああ、でも良かったぁー!」


 そしてこの入院している原因……どうせ家から出た直後にトラックか何かに撥ね飛ばされて、気を失っていたが原因なのだろう。

 つまり俺は、元の世界に戻ってきてしまったことになる。


「……なんてこった」


 絶望だ。またあの地獄のような日々をリスタートさせられるなんて。あの神を名乗る少女も、今回だけは嫌がらせの度が過ぎている。


「最悪だ……」

「どうしたの? 大丈夫? まだ頭が痛いの?」


 自分の両手を見つめて絶望に打ちひしがれていると、その手を握りしめる人が、俺の隣に座っている。


「何でもお母さんに言ってみなさいな。それとも医者でも呼んだ方が良い?」


 ……ん? お母さん?

 それはおかしな話だ。俺の母親はこんなに若々しい声をしていない。

 それになんだ? 母を名乗る女の人の手が俺を握っているが、血色も良くしわも見当たらない。


「えっ?」

「どうしたの? 何かあったの?」


 ここでようやく俺は自分の母親と名乗る人物と目が合ったが、明らかにおかしい。

 五十路ではなく三十路、否、二十代にしか見えない肌と髪のつや。目尻の泣きぼくろが妙にエロい。

 そんな感じでグラビアモデルとかで写真を撮っても問題ないと思える程に顔立ちも整った美人が、俺の手を優しく握りしめている。


「……あの、誰ですか?」

「えっ……」


 俺の問いに対して女性はまるでこの世の終わりのようなショックを受け、顔を青ざめてひと言呟く。


「お母さんを覚えていないなんて……もしかして、記憶喪失……?」


 いや、違う。記憶喪失なんかじゃない。断じて俺は自分の母親の顔を忘れる筈がない。

 ただこんなに若々しく目の前に座っているだけで劣情をかき立てるような人物が、俺の母親な筈がない。


「こんなの……こんなの……」


 ――俺が知っている世界じゃない!

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