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最終回 そして第0話 転生

 ――ようやく終わった。

 この俺の生涯が。転生してからのこの長い人生が。

 思えばどんな因果が絡まっていたのだろうか。一度は目の前にいる巨大な龍に弟子入りをして、長い旅に出るとは思ってもなかった。

 だが少なくとも楽しかった。前世での無に等しい高校生としての人生よりも、パシリとして周りからいじめられる人生よりも、ずっとずっとマシだった。


「やはり、人間に教えるにはまだまだ時間が足りなかった。私はもっと、貴様にあらゆる事を教えたかった……しかし、常世の命にはあまりにも――」

「そう言うなよ師匠……俺は、これでも……楽しかった、よ……」


 馬鹿弟子めが、人間は死ぬのは早過ぎるのだ――そんな抗議の声も聞こえてくるが、それでいい。

 俺はもう十分だ。もはや視力も失ってきたのか空も白んできた。

 全てが幸福だった。幸せだった。


「ああ……こんな人生が……」


 もう一度続けばいいのに――



          ◆ ◆ ◆



「――随分と充足した人生を送れたようだね」

「おかげさまでな」


 死後の世界ということなのだろう。足元がふわふわとした中で、俺は一人の少女と会話を交わす。


「あたしのお陰で百年! キッチリと生きられたんだから感謝してよね」

「まあ、そうだな」


 一度目は陰鬱に家を出た直後に道路を暴走するトラックによる轢死れきし。その時も同じこの空間で、別世界に転生させて貰った。

 そして今再び、死後の世界として転生させてくれた可愛らしい神様の前に俺は立っている。


「それで? 今度はどんな世界に俺は行くんだ?」

「さぁて、どうしたものかな」


 眼鏡をかけた三つ編みの少女は、イタズラっぽく笑いながら俺を試すような問いを投げかける。


「……もう一度、元の世界に戻る気はあったりするかな?」

「ん? それはどういう意味だ?」


 おおよそ言いたいことは分かる。だが俺にとってあんな世界など無価値としか認識ができない。


「そんなにしらを切る必要はない。もう一度元の世界に――」

「却下だ。そんな世界に生まれるくらいなら、知性の無いハエにでも生まれ変わった方がマシだ」


 仮にも百年分の歳を取ったとはいえ、考え方や喋り方は高校生の時からそう大きく変わらなかった。そしてあのスケールが何もかも大きかった古龍の元で修行をしてきた俺にとって、本当の意味での元の世界は存在する価値すらないものでしかない。


「そこまで言うかなー……まっ、半分は冗談だけど」


 こうしてニヤニヤとしているということは、何かよからぬ考えを持っているのがお約束だ。

 それを分かっていながらも、ならばもう半分は何なのだと俺は神を相手に問い詰める。


「半分って、どういう意味だよ」

「それはー……生まれ変わってからのお楽しみということで」


 ちょっと待て。まさか――


「それじゃ、次に目を覚ました時をお楽しみにーっ!!」

「ふざっけんじゃねぇぞ!? 俺は――」


 ――もうあんな地獄に生まれ落ちたくないんだよ!

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