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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【小人の王様】第一章
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◆第六話『ナノ、リベンジ! なのっ』

 ナノが光ったかと思ったら2体になった。

 自分の目を疑う気持ちが勝ったのが正直なところだ。


「分身する召喚獣なんて初めて見たわ」

「せ、先生も、初めてです……」


 唖然とするキスフィとシリル先生。教師として色んな生徒の召喚獣を見ているシリル先生でも初めて目にするとは。どうやら本当にナノは珍獣のようだ。


「どっちが本体なんだ?」

「「なのっ」」


 2体とも勢いよく挙手をしたが、どうやら1体は間違ったらしい。しれっともう1体を指差した。


「まるで違いがわからないな。姿は一緒だし、体重も……一緒っぽいな」


 試しに脇に抱えてみたが、違いはなかった。当のナノたちは手足をじたばたさせながら、きゃっきゃと楽しげだ。そんなナノとは相反して、キスフィが難しい顔をしていた。


「でも、2体に増えたところで厳しそうね。1体でもあの負け方だったし……」

「そうですね~……ぱ、ぱんちがあの威力でしたから」


 シリル先生が続けて言った。

 2人とも対魔導駒を想定しての発言だろう。


 たしかにまるで歯が立たなかった。シリル先生が言うとおり、そもそもナノが繰り出したパンチは「ペチッ」と音を鳴らすだけで全然威力を感じないものだった。2体に増えたところで魔導駒を倒せる攻撃が出せるとは思えない。


「なあ、ナノ。さすがにまだ増えたりってことはできないよな?」

「「なのっ」」

「いけるのかっ」


 任せろとばかりに胸を叩くナノたち。冗談で言ったつもりだったが、どうやら本当に可能らしい。またも本体が光ってはそばに分身が現れはじめる。……が。


「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」「なのっ」


 一向に止まる気配がなかった。増えはじめたのを見てから、せいぜい10体程度が限界だろうと思っていた。だが、50体を超えてもまだ増え続けている。


「じょ、冗談だろ……」

「これは想像以上ね」

「せ、先生……ちょっと頭がどうにかなってしまいそうです……」


 1体1体の力はとても弱い。

 だが、この物量だ。


 これなら魔導駒にも勝てるかもしれない……!



     ◆◆◆◆◆


 ルヴィナス召喚士学園では、午前は一般教養や召喚士についての基本的な知識を身につける座学を。午後は外で実技といった形をとっている。


 まだ入学してから2日目だが、俺たちもその流れに沿って午前を過ごし、午後を迎えた。


「昨日の魔導駒との戦闘で感じた人もいると思いますが、召喚獣はすぐには思いどおりに動いてくれません。なので今日は召喚獣と触れ合うことで信頼関係を高め、意思疎通をはかってもらいます。方法は危険なものでなければ問いません。それでは各自、散らばって召喚獣を呼び出してくださ~い!」


 生徒たちがあちこちで自分の召喚獣を呼びだしはじめた。俺はすでに召喚している状態なので、広々とした場所に移動するだけだった。


 意思疎通に関しても、ナノは俺の言葉をほとんど理解している状態だ。問題になることはない。いまはそれよりも――。


「わかってるな、ナノ。今日の放課後に再挑戦だ。絶対に勝つぞ」

「なのっ」


 昨日、ナノが分身を披露したあとのことだ。魔導駒への再挑戦をシリル先生にお願いしたところ、もう遅いからという理由で本日に持ち越しとなった。おかげで今日は朝からナノと一緒にずっと気合を溜め続けている状態だ。


「おい、期待の新星」


 ふいに声をかけられて振り返る。

 と、あまり見たくない顔がそこにあった。


「たしか、オークのザグリオ・ジョストン」

「オ、オークのは余計だ。小人のアル・クレイン……!」

「俺はべつにつけてもらって構わないけど」


 いまではナノの召喚士であることを誇りに思っている。ナノも嬉しく思ったのか、俺の顔を見上げながら笑みをこぼしていた。


「まさか情に流されでもしたのか? いや、再契約をしてもまたそれが現れたって可能性も捨てきれないな」

「再契約はしてないし、する気もない。こいつと――ナノとグランドマスターを目指すって俺の意志で決めたんだ」

「はっ、わかってるのか? 貴様が連れてるのは魔導駒すら倒せない最弱召喚獣だぞ。よくもそんな大口を叩けたもんだな」


 芝居染みたように嘲笑ってくるザグリオ。本当に俺をバカにすることしか考えていないらしい。ここまで悪意しか感じられない相手は初めてだ。


「お前、本当になんなんだよ。昨日からなにかと絡んできて」

「俺はただ期待の新星ともてはやされていい気になっている奴の、化けの皮をはがしてやろうとしてるだけだ」


 つまりただの嫉妬でしょ、と誰かがぼそりと口にした。というよりその誰かはキスフィだった。ザグリオから睨まれているが、まったく動じていないあたりさすがだ。


 喧嘩でも始まったと思ったのか、気づけばキスフィのほかにも周囲に他生徒が集まりだしていた。召喚獣も連れているだけに凄まじい圧迫感だ。


「わかった。じゃあ魔導駒を倒せたら俺とナノのことを認めろ。あと、もう俺に絡んでこないでくれ」

「……いいだろう。だが、貴様の一方的な要望だけでは不公平じゃないのか?」

「もし倒せなかったときはお前の目の前から消えてやる」


 学園をやめるといった条件だ。思った以上の条件にザグリオも最初は驚いていたが、次の瞬間には厭らしさに満ちた笑みを浮かべていた。


「それは面白い提案だ」


 どうやら受け入れてくれたようだ。勝つ自信があったから提示した条件だ。ただ、ナノの本当の実力を知らない周囲の生徒たちは、俺の退学が決定したようにざわつきだした。


「ふ、2人とも。喧嘩はよくありませんよ。クレインくんも学園をやめるだなんてそんなこと――」

「先生、魔導駒と再戦させてください!」

「え、ええ。放課後じゃダメなんですか? あ、あとね。先生、授業中にあんまり勝手なことをすると、怒られちゃうかもで……」

「お願いします!」


 俺の決意を汲み取ってくれたのか、最後にはシリル先生が折れてくれた。


「わ、わかりました。もし見つかったら召喚獣と意思疎通をはかるための効率的な方法なんて感じで理由をつければいいかな~……」


 シリル先生には迷惑をかけてばかりだ。ただ、ここで逃げれば後悔する気がした。それにザグリオにはナノのことををバカにされてばかりだ。ここで見返したい気持ちが強かった。


「行けるな、ナノ」

「なのっ」


 きりっとした顔で両手に力を入れて応じるナノ。気合充分といった感じだ。


「先生、お願いします」

「それでは、召喚しますね」


 シリル先生の指輪から光が放たれ、魔導駒が出現した。昨日は俺たちだけが勝てなかった相手だ。でも、ナノに臆した様子はない。むしろ昨日の再挑戦の機会を与えられて喜んでいるように見えるぐらいだ。


「初めから仕掛けるぞ、ナノ!」

「な~のっ!」


 俺の声に応じて体を光らせるナノ。

 ぽんっと間抜けな音を鳴らし、そばに分身を生みだした。


「分身しただと……!?」


 ザグリオが目を見開いていた。観戦していた他生徒たちが同じように驚いている。無理もない。昨日の俺も同じような反応をしたものだ。


 以降もナノは増えつづけ、10体になったところで攻勢に出た。魔導駒を囲む形であちこちから突進していく。数では圧倒的優位だ。パンチも魔導駒の硬質な体に届いている。だが、昨日と同じくペチンと音を鳴らすのみ。


 魔導駒に接触した順から返り討ちにあい、弾き飛ばされては倒れて気絶。ぼんっと音を鳴らして消滅していく。ある程度予想はしていたが、普通に攻めるだけでは厳しいようだ。


「は、はは……っ! 分身を見たときは驚かされたが……いくら増えたところであの弱さではな! どうやらこの勝負、俺の勝ちのようだな! アル・クレイン!」


 ザグリオが勝ち誇ったように声をあげる。他生徒たちも多くがこのままナノが負けると思っているようだ。期待した顔をする者は誰一人としていない。


「ナノ! あの作戦で行くぞ!」

「なのっ」


 再びナノが分身を増やした。バカの一つ覚えだな、とザグリオから罵倒されるのも気にせず増やしたのち、ナノたちが魔導駒に飛びつきはじめた。


 今度は攻撃するのではなく抱きつく格好だ。魔導駒が振りほどこうとする間にも新たなナノが飛びついていく。途中からはもう圧し掛かる形だ。初めは小さい山だったが、いまや大きな山となっている。


 どうやらザグリオも狙いを理解したらしい。

 その顔を引きつらせはじめる。


「あ、あの作戦って……もしかして……」

「ボディプレスだ!」


 ついに見上げるほどナノが積みあがったとき、天辺がぺこんと沈んだ。それを機にナノの分身たちが燐光を散らして次々に消滅する。と、ぺちゃんことまではいかないが、潰れた魔導駒の姿があらわになった。


 その隣では、本体のナノが「なのっ」勝ち誇ったように片手を上げている。


「約束、守ってもらうからな。ザグリオ」

「バカな……なんなんだ、あれは……」


 どうやらザグリオは目の前の光景を受け入れられないようだった。膝をついて放心している。


「め、めちゃくちゃだ……!」

「でも倒したぞ。やっぱりあの小人、強かったんじゃないのか?」

「いや、でも相手は訓練用の魔導駒だぞ……」


 小人を見直す者や、いまだその実力に懐疑的な者。周囲の反応は様々だが、いまはそんなことなどどうでもよかった。


 ――昨日はまるで勝てる気配のなかった魔導駒に勝てた。


 同期の生徒たちは苦労もなくあっさり通った道だ。召喚士として最初から出来て当たり前のことだったのかもしれない。


 でも俺にとっては……いや、俺とナノにとっては大きな一歩だった。


「やったな、ナノ!」

「なのっ」



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