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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
第二章【黄金の光】

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◆第五話『暗がりの三日月』

 歩くたびに俺の足音はよく反響していた。

 対してメアの足音はほとんど聞こえない。


 小柄なせいもあるかもしれないが、歩き方が自然と音をたてないものになっているようだった。そんなメアの小さな背中に続いて、俺は暗闇の中を歩いていく。


「メア、もう少しゆっくりでもいいんだぞ。足下になにがあるかわからないしな」

「大丈夫よ。さっきも言ったけど、ちゃんと見えてるから」


 メアがあまりに躊躇なく進むものだから心配してしまったが、どうやら余計なお世話だったらしい。実際に強がりでもなんでもない様子で、メアは時折下に落ちた小石を避けていた。


 かすかにだが、俺の目でも間近であれば周囲の様子は確認できる。といっても、この通路にいたっては簡素だ。石造りのなんの模様もない壁や天井がずっと続いているだけだ。


 1つ特徴をあげるとすれば、その劣化具合だろうか。ところどころかはげたり、削れていたりする。これまでに見たどの遺跡よりも古い様相だ。


「なんのために造られた場所なんだろうな」

「わからないわ。でも、わたしの暮らしてる場所と似ているわ」


 さらりとこぼされた言葉を俺は聞き逃さなかった。


「……こんなに暗いのか?」

「灯はあるわ。この空気が冷たいところ」


 ──が、似ているということだろう。


 詳しい環境を聞いたわけではない。だが、その短い説明だけで俺も塵王教会の潜伏先の様子がありありと浮かんできた。あれほど巨大な組織だ。地下に潜んでいることは容易に想像がつく。


 陽の光のない、暗い場所。


 そんなところで暮らすメアの姿もまた鮮明に想像できてしまった。それが、俺にはどうしようもなく胸を締めつけられた。


 その後も幾度か曲がったり階段を下りたりしたものの、1本道が続いていた。暗がりの中とはいえ、見えるものがほとんど変わらない状況だ。永遠に終わりが見えないのではと錯覚を抱かされる。


 また階段を下りた。20段ほどとそう多くはない。だが、これが1度ではなく、もう5度目ぐらいだ。さすがに膝にも負担がかかっていた。


 少ししんどいな、と感じていたところ、俺の肩に乗っていたナノが「なの……」と心配そうな声を出した。その視線の先には少し息のあがったメアが立っている。


「少し休憩しよう」

「だ、大丈夫、よ……」

「そんなに息があがってる状態で言われてもな」

「……わかったわ」


 普段、あまり自身の足で長距離を歩いたりはしないのだろう。そうでなくともメアはまだ幼い。日頃からよく動いている俺ですら疲労を感じるのだから、メアが疲れていないわけがなかった。


 階段に座る形で俺たちは休憩することにした。俺が腰を下ろすと、ぴとりとくっつく形でメアも座る。長い時間歩いたこともあって、すでに互いの服は乾いている。おかげで互いの肌のぬくもりをかすかに感じられた。


 最初こそ俺は目をぱちくりとさせてしまったが、すぐに嬉しくなった。それだけメアが心を許してくれていると感じられたからだ。


 ただ、物理的に距離が近くなったとしても、実際にはメアのことがひどく遠く感じられた。それもこれもメアが属している塵王教会が原因だ。俺はここ数日で起こったことを思い出しながら、喉から押し出すようにして言葉を紡ぐ。


「ユレグさんとリナさんの召喚獣……アウドムラとムスペルを奪ったのって……やっぱりメアなんだよな」

「ええ、そうよ」


 まるで悪びれた様子のない返事だった。


「やっぱり言われたからか」

「違うわ。前にも言ったはずよ」


 わずかにだが、メアの語気が強くなった。それから俺の顔を見上げてくると、その深紅の瞳で見据えながらしかと伝えてくる。


「お母さんから引き継いだ……わたしにとって大切な使命だからよ」


 メアにとってもっとも大事にしていること。それが母との繋がりであることはわかっていた。だが、ここまで強いとは思いもしなかった。まるで俺が入り込む余地がない。


 ただ──。

 俺にもメアとの繋がりがある、と。

 そう言い切れる自信があった。


「さっきちらっと見えたけど……あのネックレス、まだつけてくれてたんだな」

「ええ、だってお兄ちゃんがくれたものだもの」


 言いながら、メアが首元に手を当てた。そこにかけられた黒紐をすくいながら、指をはわせると、服の中に隠されていた三日月型の硝子細工が姿を見せた。


 以前、レイムダムで出会った際、俺がメアに贈ったネックレスだ。メアはその小さく細い指先で先端の飾りを摘まんだのち、目線の高さまで運んだ。


「いつもいるところは暗いけど、1箇所だけ陽の光が差し込む場所があるの。そこにこれをさらすと、すごく綺麗なのよ」


 相変わらずその声に抑揚はない。だが、俺には弾んでいるように聞こえてならなかった。それもこれも、ネックレスを見つめるメアが穏やかな笑みを浮かべていたからだ。


 その姿を目にした瞬間、俺は湧きあがる衝動を抑えきれなかった。以前にも一度口にしては断られた言葉。それをまた出さずにはいられなかった。


「メア……やっぱり俺と一緒に来ないか?」



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