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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【月下の花嫁】第三章

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◆第十九話『黒の戦士、なのっ②』

 広場内に反響する、シグナス先生の声。果たしてそれに召喚獣が応えてくれるのか。一瞬の静寂が訪れ、わずかに顔をこわばらせるシグナス先生。だが、自らを信じるように目に力を込めた、直後──。


 シグナス先生の掲げた左腕のトリンケットが眩い光を放ちだした。夕陽が沈み、暗くなりかけた辺りを照らすように広がった光は、やがてシグナス先生の前で収束。輪郭を作り、ついには色を持った。


 現れたのは頭部のない全身鎧を着た戦士だ。金の意匠が施された鎧はどれも重厚感に満ち、戦場であれば間違いなく指揮官級とも見える豪華さを持っている。


 またその手に持った両刃の剣は大の大人と同程度の長さととても大きい。当然、本体も相応に大きく、俺の背丈をちょうど2倍にしたぐらいだ。


 そんな異質な存在とあって、人型であれど凄まじい存在感を放っていた。いまも大剣の切っ先を石畳に突き刺し、柄尻に両手を置いた姿は絵として飾られていてもおかしくないほど様になっている。


 これがシグナス先生の召喚獣デュラハン。


 シグナス先生はというと、デュラハンを召喚できたことにほっとしている様子だった。だが、緊迫した現状を思い出してか、すぐさま戦闘態勢に入った。


「待たせた、クレインくん!」


 俺を相手にしながら、デュミーザが横目でデュラハンの登場を確認していた。かと思うや、余裕に満ちた顔でくすりと笑みをこぼす。


「あら、召喚獣を出さないからてっきり出せなくなったのかと思ったじゃない。でも、いまさら出したところで変わらないわ。だって、それにはマントをかけていないのだから……っ!」


 デュミーザの興奮した声とともに、バジリスクが赤い閃光を放った。俺はナノの盾陣形で、シグナス先生とリオンナ先生はマントで防御態勢をとる。が、新たに現れたデュラハンには、デュミーザの言うとおり防ぐ手段がなかった。


 襲いくる石化の光に見舞われ、デュラハンの身が呑み込まれた。かのように見えたが、なにか白い風のようなものが光を弾いていた。


 石化の赤い閃光が過ぎ去ったあと、俺は改めてデュラハンを見てみる。と、もとの姿と変わらぬまま泰然と立ちつづけていた。石化した箇所は1つとして見当たらない。


「な、なんなのさっきの光は……っ」


 動揺をあらわにするデュミーザ。

 俺もまた同じようにその答えが気になって仕方なかった。


 この場で答えを知っているのは、おそらくデュラハンの召喚主であるシグナス先生だけだ。実際にその通りだったようで、シグナス先生が覆っていたマントから再び身をさらしながら口を開く。


「エンジェルハイロウ。あらゆる不利な効果を打ち消すエンチャントだ」

「なによそれ……そんなもの、聞いたことないわ……!」

「古代エンチャント。そう言えば理解できるだろう」


 俺は耳にしたことすらない言葉だった。だが、デュミーザはそれを知っていたようだ。石化を防がれたとき以上に焦りの色を顔に滲ませている。


「……どうしてそんなものをお前のような人間がっ」

「すべては貴様を倒すためだ。ヘレン・デュミーザ……!」


 その決意のこもった言葉が放たれた直後、デュラハンが勢いよく地を蹴った。その身にまとった鎧の重厚さを感じさせる音を響かせながら、疾駆。バジリスクに肉薄すると、手に持った大剣で豪快に斬りつけた。


 がんっ、と生き物と金属が衝突したとは思えない音が鳴り響く。


 バジリスクの鱗を斬ることは出来ていない。だが、デュラハンの膂力がとてつもなく高いのか、衝突とともにバジリスクの身がぐにゃりとへこんでいた。


 内部にも少なくない衝撃が届いているのだろう。バジリスクが身をよじりながら呻き声をもらしていた。


 続けて大剣を振り、バジリスクに接近戦を仕掛けるデュラハン。その攻撃方法は、もはや斬るのではなく叩くといった様相だ。実際に打撃としか思えない鈍い音が幾度も響いている。


「なにをやっているの!? デュラハンごとき簡単に倒せるでしょう!」

「石化や毒さえ効かなければ、わたしのデュラハンは負けはしない……っ」


 バジリスクから噛みつきや尻尾による攻撃を仕掛けられるも、デュラハンはすべてを躱しきっていた。あの重そうな鎧からでは想像もできない機敏さだ。いったいどうなっているのか、と。


 俺はデュラハンのことを注視した際、召喚されたときにはなかった変化を見つけた。デュラハンの脚が青色の炎のようなものに包まれているのだ。


 先ほどまで聞こえていた重厚な足音もなくなっている。代わりに聞こえてくるのは蹄鉄が地面を叩く音だ。


 ここに馬なんていない。だが、まるで目の前で馬が駆けているかのような錯覚を抱いてしまう。それほどまでに馬が駆ける音に酷似していた。


 その後もデュラハンは素早い動きでバジリスクの攻撃を躱し、いなしてはその手に持った大剣で反撃を繰り返していた。そのたびにとてつもない衝撃音が響き、バジリスクが苦痛にまみれた鳴き声をこぼしている。


「す、すごい……っ」「な、なの……!」


 気づけば俺は援護を忘れてデュラハンの戦いに見入ってしまっていた。


 相当な実力者であることは聞いていたが、まさかこれほどとは思いもしなかった。なにより意外だったのはデュラハンの戦いぶりだ。普段のシグナス先生からは想像もつかないほどに激しく、荒々しい。


 これが戦鬼と呼ばれた人。

 シグナス先生の戦闘。


「冗談じゃないわ……っ」


 バジリスクの劣勢を目の当たりしてか、デュミーザが見るからにうろたえていた。もしかすると逃げ出すかもしれない、と。俺は警戒したが、違った。デュミーザが募った苛立ちを吐き出すように、荒々しく息を吐き出した。


 最中、その耳につけられたカフー型蛇光石が禍々しい光を発しはじめた。さらにデュミーザの肌のあちこちから血管が浮き上がりはじめる。眼球もバジリスクとそん色ないほどに血走っている。


 人でありながら人ではない。

 そんな異様な形相と化したデュミーザが、まるで獣のごとく咆哮をあげた。


「わたしが見たかったのは、そんな顔じゃないの……自ら死にたいと思えるほど絶望にまみれた顔なの。だから、いますぐに塗り替えてあげるわ……!」



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