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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【不死鳥の贈り物】第三章

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◆第二十三話『帰ってきた日常、なのっ』

「シリル先生が無事に戻ってきてくれて本当に良かったよぉ~っ」

「……心配させてしまってごめんなさい、リールカさん」


 翌日の夕刻。

 俺とシリル先生はルヴィナス学園に帰還。その足で第13学生寮に向かったところ、外で寮生全員に出迎えられた。


 いまはユニカがシリル先生に抱きつき、わんわんと泣いているところだ。どれだけ心配してくれていたのかを実感したのだろう。シリル先生が目を潤ませながらユニカを抱き返していた。


 俺も帰ってこられた実感が湧いてきて、思わず目頭が熱くなってしまった。キスフィやティリス先輩も同じような反応を見せている。


 ただ、そんな感動的な空気の中、シャディア先輩だけは不機嫌そうにしていた。ふんっと鼻を鳴らし、そっぽを向いている。


「本当ね。教師としてどうかと思うわ」

「あはは……返す言葉もありませんね」


 鼻をすすりながら苦笑いを浮かべるシリル先生。水を差すようなその発言に複雑な気分になりそうだったが、ティリス先輩が意地の悪い笑みとともにすぐさま発した言葉ですべてが吹き飛んだ。


「こんなこと言ってるけど、シャディアもかなり心配してたんだよね。なにかあればオルグラント家に動いてもらうよう掛け合うとか」

「……ティリス、なに余計なことを言ってるのかしら」

「素直になれないきみをフォローしてただけなんだけどね」

「あなたのはただからかってるだけでしょう」

「バレてたか」

「本気で潰すわよ……っ」


 どうやらいつもの照れ隠しだったようだ。

 シリル先生が安堵したのちに、にこりと微笑む。


「オルグラントさん、ありがとうございます」

「……わたしはただ寮監がほかの人になったら面倒だと思っただけよ。勘違いしないでちょうだい」


 またもついっと顔をそらすシャディア先輩だが、その頬は見るからに赤らんでいた。そんないつもの光景を前にしてか、シリル先生も日常が戻ったことをより強く実感できたのだろう。ほっとしたように息をついていた。


「アルもおかえり。……大変だったみたいね」


 キスフィが俺のそばまで来ると、そう労うように声をかけてくれた。当然とばかりに抱き上げたナノにも「おかえり」と優しく声をかけている。


「ああ。って言っても俺はなにもしてないけどな。結局、先生自身が色々と解決しちゃったし」

「そんなことはありません。クレインくんがいなければ、きっと今頃先生はここに帰ってこられなかったでしょうし」


 自分が報われたいがために行動したわけではない。ただ、シリル先生にそう感謝をされると、不思議と達成感のようなものが湧いてくる。ほかのみんなからも称賛染みた目を向けられ、少しくすぐったかった。


 そんな中、ティリス先輩が寮内に視線を促しながら「さて」と話を切り出した。


「話の続きは中でじっくり聴かせてもらおうかな。2人が帰ってくるって聞いて今夜はボクたちで料理を作ろうって話してたんだ」

「そうそう! まだ準備中で時間もかかりそうだけど……でも、色々考えてるから楽しみにしてて!」


 と言われて寮内のリビングへ移動。

 シャディア先輩を除いたみんなが、早速とばかりに料理を始めたのだが……。


「これ、汁が出てきて綺麗に切れないわ」

「あ~……じゃあ、あたしがするね。キスフィさんはこっちをお願い」

「ユニカくん、出来たよ。これでいいのかな?」

「はい。って、あっ、ここの芽はしっかりとってくださいね」


 どうやらユニカ以外はあまり料理をしたことがないらしい。なにかあるたびにユニカに助言を求めたり、確認をとったりしている。おかげでユニカは大忙しといった様子であたふたしている。


 ナノもキッチンを見渡せる場所に立ってみんなを応援しているが、それが効果を発揮している様子は残念ながら見られなかった。


 そんな光景にシリル先生がたまらず席を立ちそうになるが──。


「やっぱり先生も手伝ったほうが……」

「ダメです! 先生は主役なんですから座っててくださいっ」


 ユニカがきっぱりと断っていた。

 とはいえ、このままではどこか危なっかしい印象だ。どうにかならないものかと思っていたところ、何食わぬ顔でくつろいでいたシャディア先輩が立ち上がった。


「ったく、仕方ないわね」


 嘆息しながらキッチンに立つや、キスフィから包丁を奪って野菜を切り出した。しかも適当に切るのではなく、綺麗かつ素早くだ。その手慣れた動きにユニカも感嘆している。


 かくいう俺も思わず見惚れてしまっていた。


「意外です。シャディア先輩って料理できたんですね」

「わたしは出来ないんじゃなくて、しないだけだから。あと意外は余計よ」


 潰すわよ、といつもの調子で睨まれてしまった。


 ともかくシャディア先輩のおかげでなんとか日をまたぐ前に夕食を食べられそうだ。そんなことを思いながら安堵の息を吐いた、そのとき。


 視界の端──隣の席で微笑むシリル先生の顔が映り込んだ。


「……先生、嬉しそうですね」

「ええ。またこうしてみんなと楽しい時間を過ごせているんですから。これほど幸せなことはありません」


 1度は離れてしまった日常。

 それをまた味わえることとあって、より実感しているのだろう。


「これもクレインくんのおかげです」

「さっきも言いましたけど、結局、俺がしたことなんて──」

「こ~ら、謙遜しすぎもよくありませんよ」


 そう優しく窘められてしまった。それでも今回はシリル先生や特務隊のみんなの力によるところが大きい。そう改めて反論しようとしたが、キッチン側から牽制じみた声が幾つも飛んできた。


「そうだよ~。アルくんってばすぐ自分はなにもしてないって言うんだから」

「でも、得意気なアルはアルで違和感あるけど」

「それはたしかにね」


 しかも、最後にはくすくすと笑われてしまった。悪いようには言われていないはずなのに、なぜか辱められた気分だ。


「でも、アルはよ~く理解すべきことがあるよね。今回みたいなことすると、誤解される可能性があるってこと」

「誤解ってどういうことですか?」

「コルトーさんみたいに、気があるんじゃないかって相手側が勘違いしてしまうかもってことだよ」


 ティリス先輩から言われて、俺は思わず「あぁ……」と言葉にならない声をこぼしてしまった。正直、ミルラの件を出されては上手く言い返せない。ただ、今回は決定的に違うことがある。


「でも、今回は先生ですし。そんな勘違いは──」

「そうですね。先生も今回のことですごくときめいてしまいました。これはもう責任をとってもらわないといけませんね」

「先生……っ?」


 まさかシリル先生が話に乗ってくるとは。


 ただ、慌てる俺とは違ってみんなは意地の悪い笑みを浮かべていた。ティリス先輩に至っては「じゃあ今日は結婚おめでとう会に変更だね」と完全に悪ノリ状態だ。


 きっといつもの〝結婚を渇望するシリル先生〟として軽く流しているに違いない。そうして俺も冗談を理解してなんとか落ちついたとき、シャディア先輩が呆れた様子で息を吐き出した。


「ほら、あなたたち。無駄話はそれぐらいにして、さっさと手を動かしなさい。このままだと夕食前に日が変わるわよ」

「はーいっ」


 ユニカの元気な声とともに調理が再開され、騒がしくなるキッチン。相反して、俺とシリル先生のほうは静かだった。ただ、居心地が悪くないわけではなく、むしろ心地よい感じだ。


「クレインくん、改めて本当にありがとうございます」


 そう告げてきたシリル先生はキッチンを見ていた。

 きっと帰ってこられたことに対して言っているのだろう。


「えっと……はい。こうして先生が笑顔でいられる場所に連れ帰ってこられてよかったです。無茶をしたかいがありました」


 謙遜するなと言われたばかりだ。

 俺は先生からの感謝を素直に受け取った。

 そして俺だけが言えていなかったことを伝える。


「先生、おかえりなさい」

「……はい。ただいま、です」


 シリル先生が、その言葉を噛みしめるように静かな声で応じた。


 俺もまたそんな先生を見て、いまさらながらに自分のしたことの大きさを実感できてきた。またどれだけ危険だったかも。グノンさんに怒られるのも、寮のみんなに心配されるのも当然のことだ。


 ただ、こうしてまたシリル先生に笑顔になってもらえたおかげか、間違いではなかったと強く思えた。


「よーし、良い感じに進んでるよー! 先生、アルくん! もうちょっとだから待っててね~!」


 キッチンからユニカの声が飛んできた。良い匂いが漂ってきているなと思っていたが、どうやら料理のほうは順調のようだ。俺も本格的に腹が減ってきたところだし、早くユニカたちの作ってくれた料理を食べたい。


 そんなことを思っていると、シリル先生が「クレインくん」と呟くように声をかけてきた。続けて、俺にだけ聞こえるよう小さな声で呟いてくる。


「さっきの、冗談ではないですからね」

「冗談っていったいなんのこと──」


 そう訊こうとしたときだった。


 シリル先生がようやく俺のほうを向いてくれた。かと思うや、その唇に立てた人差し指を当てながら、にこりと微笑みかけてくる。


 ──おっとりとした空気で心を落ち着かせてくれて、絶えない笑みはどんな荒んだ心も癒やしてくれる。そんな温もりに溢れているからか、たくさんの生徒に好かれているシリル先生。


 片付けが出来ないせいか、どこか子どもっぽいところは垣間見えるものの、やっぱり先生は先生で。どこかしら大人の余裕が垣間見えてどこか遠くに感じられた。


 だが、いまだけは──。

 俺に笑みを向けてくれている先生は違った。


 ただの、愛らしい笑みを浮かべる1人の女の子だった。


「これ以上は……内緒です」



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