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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【不死鳥の贈り物】第二章

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◆第八話『実技試験、なのっ②』

 視界もぼやけ、ぐにゃぐにゃと歪みはじめる。顔を上げることすらも出来なくなり、ついには両手を床につけてしまった。


「はぁはぁ……うぐっ」


 我慢しているせいで汗もだらだらと流れてきた。こんな感覚は初めてだ。ただの立ち眩みでないことは間違いない。かといって魔力切れの兆候とも違う。いったいなにがどうなっているのか。


「どうしたの、アルくん!?」

「え、え……? ちょっとどうしちゃったのよっ!?」


 ユニカとドリスの心配する声が聞こえてくる。ほかにも2階から見学している受験者がいるのだろう。小さなどよめきが起こっている。


「どうした、体調が悪いのか?」


 会場に幾人か立ち会っていた試験官のうち、もっとも近くの試験官がそう声をかけてきた。瞬間、俺はいまが試験中であることを思い出した。途切れかけていた意識をなんとか繋ぎ、荒くなっていた呼吸を強引に抑える。


「だい、じょうぶ……です」


 そう応じながら、俺はゆっくりと立ち上がる。


 もしかするとこれも試験のうちなのかもしれない。ただ、仮にそうでなかったとしてもここで諦める気はなかった。試験が1年に1度なこともあるが、それ以上に俺の不調が理由で負けたなんて言い訳をしたくなかった。


 召喚獣のナノが能力で勝っているから、なおさらだ。


 俺は軽く目を瞑りながら細く長く息を吐いた。心なしか、この頭痛にも少し慣れてきた気がする。大量にかいた汗からひんやりと冷たさを感じる中、改めてまぶたを持ち上げて正面を見やる。


 ナノが狼と大鷲を使い分けながら、2体のデスロードから逃げ回っている。


 危機的状況の中、なにかしらの理由で俺から指示がなかった場合、自身で判断して動いていいとの取り決めはしている。それをナノは実行し、自らの意志で動いているようだ。


 ただ、かなり際どい回避が続いている。デスロードの高速移動はどうやら空中にも届くようで大鷲でも距離を詰められている。


 このままでは捉えられるのも時間の問題だろう。


「悪い、ナノ! 待たせた……っ!」

「なのっ」


 待っていたとばかりに、ぱあっと笑みを弾けさせるナノ。だが、すぐさま襲いかかってきたデスロードたちにより、再び余裕のない状態へと戻されていた。


 複数体に増えて敵の攻撃はより激化している。だが、複数体に増えたところで基本的な対策は同じだ。爆弾1発で倒せるのならそれを使わない手はない。ただ、頭痛に慣れたとはいえ、いつまでも耐え切る自信はない。だから──。


 速攻で決める。


「ナノ、大鷲をもう1体追加! 自分を吊るしながら騎士を5体ずつ敵に落とすんだ! 騎士はそのまま敵に張りついて注意を引いてくれ!」


 生成されるなり落下した騎士たちは、矢と同じく敵へと触れることは出来なかった。だが、弾かれたり消滅したりすることもなく敵のそばに着地。俺の指示に従って敵に粘着する形で付きまといはじめる。


 敵が鬱陶しそうに打撃をしかけてくるが、盾でなんとか凌いでいる。1体、2体と消滅してはいるが、減りは緩やかだ。これなら充分に時間を稼げる。


「この隙に──ッ」


 少ない魔力消費で勝利するに越したことはない。だが、いまはそんなことを言っていられる余裕なんてなかった。


「ナノ、爆弾を連続投下ッ!」


 大鷲に吊るされたナノ本体が、デスロードの頭上を通過するたびに爆弾を生成しては落としていく。騎士たちに気をとられていたデスロードもその脅威を察知するも、もはや回避できる時間はなく、直撃。重厚な衝撃音の中、黒煙にまみれた。


 すでに黒煙のせいで敵の姿は確認できない。だが、俺の指示に従って構わずに爆弾の投下を続けるナノ。そのたびに爆発音が響き、黒煙もさらに領域を増していく。


「そ、そこまで!」


 試験官から終了の合図が出された。


 会場を覆った黒煙でデスロード2体の状態は確認できないが、すでに勝負が決まったと判断したのだろう。実際、まもなく黒煙が晴れた中、会場にはデスロードの姿どころか元のクレイマンの破片すらも確認できなかった。


 俺は心の底から安堵した。ただ、勝利したことよりもやっと終わってくれたといった気持ちのほうが圧倒的に強かった。


 2階廊下で見学中のユニカとドリスたちからは「やった!」「よくやったわ!」といった声が聞こえてきている。途中、俺に異変が起きていたからなおさら喜んでくれているようだ。


 頭痛に襲われるという不慮の出来事はあったものの、戦闘自体は勝利できた。正直、試験前の特訓──シャディア先輩とティリス先輩の2人による連携攻撃に比べればなんてことはなかった。


「合否についてはのちほど伝える。きみはそれまで控え室で待機を」

「は、はい……」


 試験官の指示に、俺は呼吸も整わないうちにそう返した。


 いつの間にか頭痛も収まっていた。

 これならすぐにでも体調は良くなるだろう。


「にしてもなんだったんだ、さっきのは……」


 初めて味わった感覚に俺はいまだもやもやしていた。試験の一環だったのか、あるいはただ俺の体で突発的に起きたものなのか。あとで確認してみるしかない。


 なにはともあれ、途中で棄権することなく勝利できた。いまはそれだけで充分だ。そう自身に言い聞かせながら、俺は会場をあとにした。



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