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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【空翔ける大鷲】第一章

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◆第十二話『女帝さん登場、なのっ』

 広間へと姿を現したレイムダムの生徒5人。その身は炎を思わせる赤色を基調とした制服で包まれている。まるで軍隊かのように乱れなく揃った歩き方もあいまってか、なんだか攻撃的な印象を強く受ける。


 その先頭を歩くのは腰まである長髪を流した女性だ。おそらく今回の本戦参加者の中でも1番と言ってもいいぐらい背も高い。


 厳めしい表情に堂々とした立ち居振る舞い。一目であの人がレイムダムの統率者とわかる。きっとあの人が話に出ていた〝女帝〟に違いない。


 自らの待機所に辿りついた彼らは腰を下ろしたが、女帝さんだけは席につかず俺たちルヴィナス側に向かってきた。


 待っていたとばかりに目線を合わそうとしたドリスの横を通り過ぎ、女帝さんは一直線にティリス先輩の前に立った。無視されたドリスが「なっ」と声をあげる中、ティリス先輩へと頭を垂れる。


「お初にお目にかかります、ティリス殿下。リナ・フィルディンスと申します。レイムダムを代表して挨拶に参りました」

「わざわざありがとう。でも、いまはボクもきみと同じ一介の生徒だ。出来れば、ほかのみんなと同じように扱ってもらえると嬉しいかな」

「なかなか難しいところではありますが……殿下のお望みとあらば」

「それに立場で言えば、きみのほうが上だろう? 女帝さん?」


 いまほどティリス先輩が悪戯好きな人だと思ったことはない。これまで厳格な表情を貫いていた女帝さんの表情が一気に崩れた。困ったようにあたふたしはじめる。


「そ、それは周りが言っているだけであって、わたし自身は畏れ多く感じて──」

「気にしてないから大丈夫だよ。ちょっとからかってみただけさ」


 女帝さんは少し怖い印象がある。そんな相手にも冗談を言えるあたりさすがティリス先輩といったところだ。


「改めて……ボクはルヴィナス代表のティリス・ルセ・ウィスタールだ。お互い最善を尽くして頑張ろう」

「はい。よろしくお願いいたします」


 がっちりと握手を交わしたのち、女帝さんは視線をある人物へと向けた。腕だけでなく脚も組み、誰よりも態度のでかい状態で座っているシャディア先輩だ。


「シャディア・オルグラント」

「リナ・フィルディンス」


 前回の本戦決勝で闘った相手だからか、どうやら互いに意識しあっていたらしい。まるでいまから勝負が始まるのではと思うぐらい、ばちばちと視線をぶつけあっている。


「……きみとの対戦を心待ちにしていた」

「前回の優勝者にそう言って頂けるなんて光栄ね」

「きみほど苦戦した相手は初めてだったからね」

「そう。なら今回の大会はまた初めてを味わうことになるわね」

「では、そうならないよう全力で臨ませてもらおう」


 2人からは恨みや憎しみといったものはいっさい感じられない。ただ純粋に召喚士としての対立関係といった様相だ。そんな2人の関係を見ながら、ユニカが耳打ちをしてくる。


「なんだか、いかにもライバルって感じだね」

「実際、そうなんだろうな。シャディア先輩があんな顔をするなんて……」


 キスフィ相手にも真剣な顔はしていたが、いまはそれとは違った感じだ。より凄味があるというか、その目を真っすぐに女帝さんへと向けている。


 女帝さんの実力は俺にはわからない。ただ、シャディア先輩があそこまで意識する相手だ。きっと俺が思っている以上の実力者なのだろう。


 早く見てみたい。

 早く戦ってみたい。


 そう胸中で対戦欲が高まったときだった。けん制という名のシャディア先輩との挨拶を終えた女帝さんが、なにやら俺のほうをじっと見てきた。……いや、違う。俺ではなく、ナノを見ている。


 ちょうどキスフィの膝上から戻ってきたところで、いまは俺の背中をよじ登っているところだ。そのまま俺の肩に到達すると、ちょこんと腰を下ろした。定位置とあって落ちつくのか、ほっこりした顔をしている。


 そんなナノをまじまじと見ながら、女帝さんが訊いてくる。


「それはきみの召喚獣か?」

「えと、そうですけど……どうかしましたか?」

「いや……珍しい召喚獣だと思ってな。それに出したままなんて……」

「勝手に出入りできるみたいで。戻らないんですよ」


 俺が苦笑しながらナノのお腹をつんつんとつつく。と、ナノが俺の指を掴みながら、きゃっきゃと笑いはじめた。相変わらず触れ合うだけでも楽しいらしい。


「ほら、ナノ。挨拶だ」

「なのっ!」


 いつものごとくナノが元気よく挨拶をした。瞬間、女帝さんが固まった。それこそ時が止まったのではと感じるぐらい綺麗な硬直だ。


「あの……?」

「あ、ああ。なんでもない。本当に……なんでもないんだ」


 なぜか取り乱しはじめる女帝さん。ティリス先輩相手にしどろもどろになっていたさっきよりも慌てた感じだ。厳格な印象があるせいか、余計にその変化が気になってしまう。


 知らぬ間になにか粗相をしてしまったのだろうか。だとすれば謝りたいところだが、わけもわからず謝るのはまた失礼だ。どうにかして理由を探らねばと考えていた、そのとき。


「ちょっと! さっきからあたしのこと無視するなんてどういうこと!?」


 ドリスが横合いからずいっと体を割り込ませてくると、女帝さんに抗議をしはじめた。対する女帝さんはというと思い切り首を傾げている。


「……申し訳ない。きみは」


 ドリスが声にもならない声で呻いた。ドリスからしてみれば、〝ドネリー家は知られていて当然〟だからだろう。ただ、それを改めていうことに抵抗があったのか、怒りを抑えたように深呼吸をしたのち、高々と自己紹介をはじめる。


「仕方ないから教えてあげるわ。あたしは──」

「みなさん、お待たせしました~!」


 ドリスの言葉を遮る形でその声は広間に響いた。


 声の出所──入口のほうにいつの間にかシリル先生が立っていた。そばにはユレグ先生ともう1人。初老の男性が見える。並びからしてレイムダムの教師だろう。


 そんな教師陣を代表してシリル先生が1歩前に出ると、さっきまでの緊迫した空気を一新するようなほんわかとした声をあげた。


「準備が出来たそうなので会場に移動しますよ~!」



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