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俺の召喚獣はとっても可愛い小人さん!  作者: 夜々里 春
【妖精女王と氷竜乱舞】第三章

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◆第六話『先輩をお迎え、なのっ』

 気づけば、学園大会決勝が5日後に迫っていた。


 生徒も浮つきだし、どちらが勝つかなんて話で持ち切りだ。そんな中、俺はというとずっとそわそわしていた。もちろん決勝も気になるが、理由はほかにある。


 特務隊に協力することが決まったあの日。詳細を追って報せると言われていたにもかかわらず、まだ連絡が来ていないのだ。おかげで気もそぞろに授業を受ける日々が続いてしまっていた。


「おい、ナノ。走って転ぶなよ~」

「なの~っ!」


 寮での夕食後、俺はナノと揃って風呂場へ向かっていた。2階廊下から階段を駆け下りていくナノ。自身のタオルを頭に乗せながらとあって危なっかしい。なんて思っていたら早速躓いた。


「な、なのの~っ!」


 そのまま身を投げる格好で宙に飛んでしまう。だが、床に落下した音は鳴らなかった。ちょうど階段下に立っていたシリル先生が受け止めてくれたのだ。その豊かな胸で。


 埋もれたナノを抱き上げながら、シリル先生が優しく問いかける。


「大丈夫ですか、ナノちゃん」

「なのっ、な~の」


 ぺこりと丁寧に頭を下げてお礼をするナノ。


 ナノは召喚獣なので階段から落ちたぐらいで大事には至らない。だが、やはりあの見た目とあって不思議とほっとしてしまった。俺は階段を下りたのち、シリル先生からナノを受け取りつつ頭を下げる。


「先生、ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。ナノちゃん、危ないから階段はゆっくり下りましょう。いいですね?」

「なの~っ」

「はい、いいお返事です」


 柔和な笑みとともにナノを褒めるシリル先生。相変わらずの包容力もあいまって親が子を相手しているようにしか見えなかった。もちろん、独身をひどく気にしている先生相手にそんなことは口が裂けても言えないが。


 ふいにシリル先生が「あっ」と思い出したように声をあげた。


「クレインくん、シャディアさんを見ませんでしたか?」

「いえ、見てませんけど……どうかしたんですか?」

「それがまだ帰ってきていないみたいで……」


 シリル先生が少しリビングのほうを気にする素振りを見せた。


 最近、夕食にシャディア先輩は同席していない。キスフィとの対戦が決まってからというもの、あとから1人でとっているのだ。ただ、シリル先生の様子から察するに、今日はまだその食事すらもとっていないのだろう。


「闘技場の使用申請を出していたので、あそこで訓練しているとは思うのですが……」

「あ、じゃあ俺、様子を見にいってきます」

「あら、いいの? いまからお風呂に行こうとしてたんじゃ」

「ちょっと遅くなるぐらい大したことないですから」


 それよりもシャディア先輩のほうが心配だ。


「でも、もう夜も遅いし……ん~、生徒に行かせるのは」

「だからって女の人を行かせるのも心配です」

「女の人?」

「先生のことですけど」


 召喚士としての実力ではシリル先生のほうが上だ。しかし、女性とあってなにかあったときのリスクは大きい。だからこそ、ここは男の俺が行くべきだ。なんてことを考えた上での発言だったのだが──。


「……クレインくん」


 女性扱いをされたからか、あるいは言葉以上の想いを感じ取ったのか。シリル先生が両手を合わせながら、うっとりとした表情で見つめてきていた。このままだとまずいと感じ、俺はすぐさま自分とナノのタオルをシリル先生に押しつける。


「これ預かっててもらえますか?」

「え、ええ。って、クレインくんっ?」

「じゃあちょっと行ってきます!」


 なにか叫ぶ声が聞こえた気もするが、構わずに俺は寮を出た。


 すでに陽が落ちてから随分と時間が経っている。おかげで外はすっかり暗くなり、空にはたくさんの星が顔を出していた。


 ただ、月明りのおかげでうっすらとだが、辺りを視認することはできる。これなら途中でシャディア先輩とすれ違ったとしても見逃すことはないだろう。


「走るぞ。ナノ、しっかり掴まってろよ」

「なのっ」


 俺はナノを肩に乗せて走り出した。

 向かう先はもちろん寮近くの闘技場だ。


 シャディア先輩は朝が弱いこともあって基本的に早朝訓練はしない。代わりに夕方過ぎまで自主練していることが多かった。


 ただ、普段はこんなに遅い時間まですることはない。きっと、それだけシャディア先輩もキスフィを警戒しているのだろう。


 姉妹だからということもあるかもしれない。だが、あの圧倒的強者であるシャディア先輩にそこまで警戒される。そのことが、いまの俺にはなによりも羨ましいと感じてしまった。思わず人知れずぐっと拳を作ってしまう。


 いずれにせよ、こんな夜遅くに1人で訓練なんて危ないとしか言いようがない。だが、いまは隠密に特務隊が学園を警備してくれている。最悪の自体に陥るなんてことはまずないはずだ。


 そんな楽観的な考えを抱きながら、俺は駆け続け──目的地の闘技場に到着。入口から舞台のほうへと踏み入った。


 瞬間、俺は思わず目を見開いてしまった。


 視界端の舞台縁。

 そこにシャディア先輩が横たわっていたのだ。


「シャディア先輩……っ!?」



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