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おまけの番外編~ラックの奮闘~

*ラック視点

 ボクのお腹の毛に埋もれるように眠るフィアの寝顔は赤ちゃんの頃から変わらない。まだまだ小さなこの子が闘人の試練を受けることになるなんてびっくりだよ。


もともと、ボクは赤の闘人の村近くに生えた木々を巣にしていた。ワイルド・モモンガは村にも自由に出入りしてもよくて、兄弟の中には特別仲がいい赤の闘人と一緒に暮らしているやつもいた。


 だけど、ボクには特別がいなかったから、声をかけられたら一緒に狩りに行ったり、兄弟と飛ぶ練習をしたりと自由な日々を送っていたんだ。


 でも、あの頃はまだ飛ぶのが下手だったから、練習中に後ろ脚を怪我をしちゃったんだ。あれは本当に痛かったよ! それで腫れた脚を引きずっていたら、フィアの父親であるウガルに助けられたってわけなんだ。


 怪我の治療をおばばに頼んでくれてさ、ボクの様子も見に来てくれたの。それがきっかけで、ウガルの家族とは仲良くなった。その頃はね、ウガルの番であるヨウヒのお腹が大きくて、フィアの兄や姉達はフィアが生まれてくるのを楽しみにしていたんだよ。


 ボクも仲良くしている闘人達のことだから気になって、何度もウガルの巣に遊びに行ったなぁ。それから何度か朝が来たら、フィアが生まれたんだよ。 


 ふにゃふにゃした顔で笑ったフィアを見た時に、ボクの特別を見つけた! って思った。だけど、ウガル達は生まれた赤ちゃんを見て心配そうにしてた。


 フィアの兄妹達は喜んでいたから、ボクにはなんでなのかちっともわからなかったけど、あの三人には他の闘人の子供とフィアが違うことを知っていたんだろうね。


 そのことをボクもわかるようになっていった。フィアは前脚を使って地面を歩くのが遅かった。ボクの背中に乗せてあげたんだけど、しがみつく力も弱いから落ちそうになったこともあったね。それに皮膚が薄いからなのかな? 転んだだけで血が出るような怪我をしたり、身体が熱くなってコホンコホンッって口から変な鳴き声を出すこともあったんだ。


 おばばとヨウヒの話してた様子を聞いてたんだけど、それはビョウキって呼ばれるものなんだってさ。ワイルド・モモンガは闘人と同じように身体が強いから、具合が悪くなることはめったにないんだ。だから、なんでこの子だけ赤い顔をしてぐったりしてるんだろうって不思議だったけど、全部フィアの身体が特別なせいだったんだ。


 おばばは言ったんだ。他の闘人と同じようにしてたら死んじゃうって。だから、ボクがお兄ちゃん(・・・・・)になってあげることにしたんだ。


 それからのボクはお兄ちゃんとして、妹であるフィアのことを苛めた雄の子はやっつけたし、具合が悪そうな時はちゃんとおばばとヨウヒに知らせてあげたよ。


 だから、大丈夫なんだよ。これからなにがあっても、ボクがお兄ちゃんとしてフィアを守ってあげるからね!


 ボクがそう思いながら眠るフィアをきゅっとお腹で支え直していると、草を踏む足音が聞こえた。そして鼻に獰猛な獣の匂いがとどくと、木々の奥からのしりのしりと大きな影がやってくる。


 今のボクと同じくらいの大きさのアナグリ熊だ。獰猛だから、大人の闘人が相手にするような奴だよ。そいつは鼻をうごめかせると、フィアとボクを見つけたようだった。


「グルルルッ」


 木に近づきながら威嚇してくる。もうっ、フィアが起きちゃうじゃないか! ボクは口を大きく開いて前歯をカチカチさせた。フィアを右前脚で支えて、左前脚を上げて身体を大きく見せるのも忘れない。


 妹の眠りを守るための静かな威嚇だ! それが他の動物とは違うように見えたのか、アナグリ熊が一瞬怯む。しかし、まだボク達を狙っているようで、前脚を振り上げて木を揺らそうとする。ボクは一度だけ大きく啼いた。


「ヂィッ!!」


「……ヤ……ブ…………」


 ごめん、煩かったよね? フィアがもごもごと口を動かしながら身じろいだので、ボクは慌てて態勢を戻す。そうして下を睨むとボクの威嚇が効いたようで、アナグリ熊がじりっと後ずさり踵を返して逃げていった。


 やった、追い払ったぞ! 周囲の匂いを嗅いで、他に獣の気配がないことを確認したボクはようやく安心した。これでゆっくり眠れそう。ボクはあくびをして目を閉じた。


 こうして、ラックの奮闘により、フィアの平和な夜はひっそりと更けていくのであった。





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