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6、自然に感謝を、命に祈りを 後編

 火傷しないようにドドンガ鮎を支える串をうやうやしく横に持って、小さくかぶりつく。パリッと焼けた皮にはほんのり塩味があり、白身が口の中でほどけてゆく。これぞまさに─……。


「……むぐむ(至福しふく)」


「ムキュッ」


 一人と一匹はその幸せに目を細めて頷き合うと、もぐもぐと口を動かす。とても、美味しい。ドドンガ鮎を綺麗に食べ終わると、今度はオテンキキノコを食べる。むしゃっとかぶりつくと、弾力のある笠が口の中を踊る。この食感と味がたまらない。二個食べたらお腹がすっかり満たされた。


「私はもうお腹いっぱいだから、残りはラックが食べていい」


「キュ!」


 ラックが元気よく鳴いて、二本目の鮎に手をかける。大きく変身した姿であれば用意した食事だけではとても足りないけれど、小さな姿のラックは少ない食事で事足りるので旅にも優しい相棒である。


 お互い満腹になったら火の始末をして、魚の残飯を土に埋めておく。こうしておけば土の栄養になるだろう。そこから生えた草や花を虫が食べ、その虫を魚が捕食して、その魚を私とラックが美味しくいただく。そう考えると、自然の偉大さを感じられる、かもしれない。


 瓢箪ひょうたんから水を飲んで、お腹が落ち着くまで休憩したら、また出発だ。ポンチョの裾をぱっぱっと払って草木がはげた道に戻る。自分の体力のなさは知っているから、ちょくちょく休憩しながら一本道を再び歩く。石の時計をたまに見ながら、てくてくと進む。日が暮れる前には寝床を決めないと。


 そうして、木陰で休み休み進んだフィアは陽が暮れ始める頃に、脇道に入るとじっくりと周辺の木々を観察していた。その中でもいい感じの太いハガネの木を発見する。普通の木と比べると鋼のように硬く、熊の爪跡がなかなかつかない頑丈さがあることが名前の由来となっているらしい。


 灰色がかった幹は普通のオノでは刃が立たないので、特殊な道具を使う。武器や防具の加工にも使われると聞いた。赤の闘人の村では生活用品となる器やテーブルに使用されていた。頑丈なので、振りまわしても壊れにくいから。


 フィアは肩に乗っているラックを手の平に移すと、その木に近づける。


「どう思う? 上に枝別れした幹も十分な太さがある。この辺では一番いい木」


「キュフッ」


 ラックがぶわりと身体を広げて木に飛び移ると、あっという間に上まで登っていく。そうして確認が終わったのか、上から飛んで私の頭に着地した。モモンガなだけあって上手。


 野生の審美眼を持つラックの目にもこの木は合格だったようだ。今夜はここで初めての野宿!


 完全に日が暮れる前に目の届く範囲に獣の足跡やマーキングの後がないかを念入りに調べる。小動物ならいいけど、獰猛な野生動物に眠っている時にこられると大変だ。私の桃色の髪は夜でも目立つので、美味しそうだと勘違いされそう。


 ……辛い薬草を身体にかけておけば安全? 間違って食べられそうになっても、ぺって吐き出されて生還出来るかもしれない。少し悩んだものの、自分も辛くなることに気づく。目がぁっ、鼻がぁってなる気がする。止めよう。


 周囲の確認が終わったら、日が暮れ切る前に昼と同じ方法で火を起こす。少し寒くなってきた。フードをかぶっておく。緑の匂いも微かに強まったように感じた。夕飯にはまだ早いから焚き火の前に腰を落ち着けて、荷物を下ろす。息をつくと、身体がどっと重くなった感じがした。ラックも私の隣にちょこんと座るような態勢を取る。


「お疲れ様」


「キュッ」


 灰色の頭から背中にかけて撫でてあげると、ラックは気持ちよさそうに鳴く。背中も軽く揉んであげてから、自分の太ももに手を伸ばす。明日も頑張れ、私の足。しばらくぼんやりしながらマッサージしていると眠くなってきてしまった。ちょっとだけ横になる。少しだけ、少しだけ……。




 顔をぺしぺしされて、はっと目が覚めたら、目の先にラックがいてちょっとびっくりする。私の顔にしがみついて一生懸命起こしてくれていたようだ。ちょっとだけだったつもりなのにすっかり眠りこんでしまったようで、火がすっかり消えかけている。私は慌ててジンブリの葉を突っ込む。一瞬でぼわっと火の勢いが戻った。危なかった。


「助かった。ありがとう、ラック」


「キュフンッ」


「すっかり暗い。石の時間は……うん、十時くらい。夜ごはんを食べよう」


 私はバックをあさると、燻製にしたヤブ猪の肉を取り出す。お父さんが獲って来てくれたものだ。これを薄く切って昼間取ったオテンキキノコを包み、さらにそれをハガネの木の葉っぱで包んで火の傍に置く。ハガネの葉は大きく熱に強いので丸焦げにはならないのだ。


 燻製のいい匂いがしてくるまで待ったら、【ヤブ猪のキノコ包み】の出来上がりだ。食事の祈りを捧げたら、ハガネの葉を剥いで一口かじる。キノコの汁気と肉の味が合わさり旨みがほわぁっと溢れる。口の中が……至福!


 私が二個、ラックが三個食べて完食した。これで明日も頑張れる。火の始末をすれば後は明日に備えて眠るだけだ。


「お願いしてもいい?」


「キュッキュッ」


 私のお願いにラックがカッと光って巨大化した。そうして、私が背中にしがみつけば、するすると木を登ってくれる。幹から太い枝の先まで進むと、もわっと葉っぱが密集した場所にたどり着く。


 私は慎重に太い枝に足を下ろして、前足を広げて仁王立ちするラックのふわふわな白いお腹に入れてもらう。ラックが斜め上に続く葉っぱによりかかって体を丸める。


 寒くないし、この場では一番安全。安心したら眠気が戻ってきた。私はラックにおやすみと言えたかどうかもわからないまま、すとんと落ちるような眠りについた。






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