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1、長く一緒に生活してれば種族が違っても家族となります

(*'▽')ノ 本日より、こちらもまったり投稿していきます。よろしくお願いします!

 世界には、赤・青・緑・黄・黒・の五つの大陸が存在し、その中には闘人とうじんと呼ばれる種族がいる。普通の人間とは違い剣を素手で折れるほど強靭な肉体と力を持つ彼等は、それぞれの大陸の色を頭につけた部族を名乗っていた。その一つ、赤の大陸にあるバンズ森の奥に、赤の闘人と呼ばれる者達の村が存在していた。


 丸太の柵に囲われた村は、左右には高見台があり、簡素な皮の防具を身につけた男達が弓と槍を手に周囲を見張っていた。門の奥には木と藁で作られた家々が密集し、赤く染められた屋根が色鮮やかに映えている。


 家の外では、皮をなめすおじいさんがいれば、薪の中で湯を沸かすおばさんや、大きな器の中で粉を捏ねるお姉さんもいる。昼の太陽の下では、大人達の視線に守られる中、ニ、三歳の子供達が裸足で追いかけっこをしており、漂い始めた美味しそうなパンの匂いに顔を綻ばせていた。


 春の日差しが背中を温めてくれる。村の近くの森の中で、私はのんびりとキノコを取っていた。赤の闘人として生まれたのに筋肉とは無縁の身体は、十三歳になっても同い年の子供より二回りくらい小さいが、こうした細かな作業には向いているようだ。ゆったりと瞬いて、木の根元に生えたキノコを摘み取っては、腰袋に放り込んでいく。


「……このくらいで、いい?」


「キュッ!」


 ぽやっとした呟きに、右肩の上にくっついていたワイルド・モモンガのラックが返事を返す。麻布袋の中を覗き込めば、その中にはキノコと木の実と薬草の葉っぱが一杯詰め込まれていた。……うん。これだけあれば、調合し放題。今度は、フィア印の傷笑い薬を作ってみようか。悪戯しつつ傷も治せるお得感が、売り。


 新薬を想像したら、口元が緩んだ。


「手伝ってくれて、ありがとう」


「キュフッ」


 もふりとした灰色の頭を人差し指で撫でると、ラックが誇らしげに鳴いた。ワイルド・モモンガは人の言葉が理解できるほど知能が高い生き物だ。この村にしか存在しない稀少生物で、はるか昔から赤の闘人のよき友人とされてきた。生まれた時から傍にいるから、私にとってラックは弟みたいなものだろう。

 

 意気揚々とした気持ちで袋を縛りあげて来た道を戻り始める。……早く新薬を作りたい。


 緑の匂いが濃い森林は赤の闘人にとっては庭だ。しかし奥に行けばいくほどに危険な獣も潜んでいるため、力の弱い子供は気をつけなければならない。……一仕事終えたら、お昼寝しよう。これからの予定を決めて気分良く森の中から引き返していく。


 草が生えていない道は真っ直ぐに村に続いているので安全だ。何度も人が行き来するうちにそこだけ草が生えなくなったのだろう。石や土が皮サンダルを蹴り返してくる。


 村の前までくると、見張りをしている上半身裸の厳つい男達に声をかけられた。


「ティアちゃん、今日の収穫はどうだった?」


「いいものはあったかい?」


「うん、沢山取れた。おじさん達が好きなカエキノコも取れたから、後で少しあげる。おばさんに渡しておけばいい?」


「ありがとよ! あれは酒の肴に合うんだよな」


「いいねぇ。今夜は一緒に一杯どうだ?」


「おう、そうするか。上手い酒を持ってくぜ。 ──ティアちゃん、この間はうちの母ちゃんに手荒れを治す薬をくれたんだってな。よくなったって喜んでたよ。お礼にさっきパンを焼いて持って行ったからよ、食ってくれな」


「おばさんのパン……っ。とても嬉しい。見張り、頑張って」


 ふかふかのパンを想像して幸せになると、興奮で頬を熱くしながらいつもより心なしか素早く手を振って村の内側に入った。家に向かう足が自然と早くなるのは、パンに浮かれているからだろう。ラックが私の肩から頭へ小さな手と足を使ってカシカシと上り、桃色の前髪の間から逆さに顔をのぞかせる。黒くつぶらな目が期待に輝いている。


「わかってる、ラックにもあげる。一緒に頑張ってくれたから、ご褒美も一緒にもらうべき」


「キュウッ」


 私はお姉さんだから、弟分に意地悪はしない。お互いに頷き合うと家に着いた。ドアを開くと立ち話をしていたのか、なぜか深刻そうな顔をしたお父さんとお母さんが私を振り返った。いつもと違う空気を感じる。……どうしたんだろう?


「ただいま? ヤノおばさんからパンをもらったって聞いた。食べていい?」


「それは父ちゃんが後で切ってやるよ。フィアのおかげで食卓が潤ったな。父ちゃんもさっき狩りでヤブ猪を獲ってきたから、今日の夕食は豪華だぞぉ」


「わぁっ、お父さん、すごい!」


 思わず両手をぱちんっと合わせた。ヤブ猪は凶暴なのに逃げ足も速いから闘人でも捕まえるのが大変な動物だ。滅多に食べれないが、そのお肉はとても柔らかくてジューシーだ。ただ普通に焼くと臭みがあるので、臭い消しにはさっき取ったカエキノコを乗せるといい。その肝は薬としても使えるので、私にとっては二重の意味で嬉しい。


「そうだろう? 父ちゃん家族のために頑張っちゃったよ。肝は綺麗に洗って分けておいたからな」


「喜んでるんじゃないよ、あんた。パンやヤブ猪のことより、この子に伝えなきゃいけないことがあるだろう?」


 娘の称賛に鼻を高くしたお父さんをお母さんが嗜める。ふくよかな胸の前で腕を組んで、切れ長の目を細めた姿は怒られる前兆だ。


「おおっ、そうだった。フィアにな、ものすご~く大事な話があるから、父ちゃんと母ちゃんと一緒にこれから村長の家に行こうな」


「村長さんの家? 私なにも悪いことはしてない、はず」


「おいおい、心当たりがあるのか? まぁ、安心しろ、別に叱る為に呼ばれたわけじゃないからな」


 お父さんの言葉に私はラックを頭に乗せたまま、首を傾げたのだった。





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