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5.一国の王子

「それにしても不思議だな」



 エヴァン王子は私が食べているのを見てふとそう口にした。



「猫なのに、餌を食べないなんて」

「そうですねぇ」



 私はそんなエヴァン王子とジーンさんの言葉に一瞬ドキッとしたが、その話を分からない風に平然と食べ進める。

 私が今食べているのは、千切ってもらったパンとスープ。

 どうやら、オフィーリア様が“三毛猫の飼い方”というきっと自作だろう本を作って、餌は人間と同じものを食ベさせれば良いとかそういうことを書いたものを渡してきたらしい。



「……やはりオフィーリア様が連れて来るものは、一風変わったものが多いな」

「全くです」

「にゃー(同感です)」



 私はそう短く言って食べ進める。



(こうしてみると、ナイフとフォークも使わずにとてもはしたなく感じてしまうけど……楽は楽よね)



 なんて考えながら食べていると、「お食事中失礼致します」と誰かの声が聞こえた。

 私も顔を上げて見てみれば、少し歳をとった執事さんらしき人だった。




「なんだ」



 短くエヴァン王子がそう問えば、「こちらが今朝届きました」と言ってエヴァン王子に渡した手紙。

 その封蝋は、私がよく見知っているもの……私の家の家紋で。



(……わぁぁぁ!?)





 私は危うく食べ物が気管に入るところだった。

 ケホッ、ケホッと急に咳をしだした私に、王子が「だ、大丈夫か?」とおろおろしてパラパラと何処から出したのか、オフィーリア様からもらった本をめくり始めた。

 そんなエヴァン王子の行動にジーンさんは呆れたように「少しむせただけですよ」と言うと、エヴァン王子は「そ、そうか」と言って再度、私に「大丈夫か?」と言いながら遠慮がちに頭を撫でた。



 私は「にゃ、ニャー(だ、大丈夫です)」と言って見せると、ようやく安心したようにして手紙の封を開いた。

 そしてその手紙を読み終えると、はぁーっと長くため息をついた。




「手紙にはなんと?」



 そう口を開いたジーンさんに、エヴァン王子は口を開いた。




「……フラれた」



 その言葉に、私のことだ、と思ってあからさまに残念そうに項垂れるエヴァン王子に申し訳なく思ってしまう。



(……私はここにいるけどね)




 手紙には何と書かれているのか。

 気になって見ようとしたら、ジーンさんが先にその手紙を読み上げてくれた。



「“リリアンのことですが、後一ヶ月だけお時間を下さい”……これは先延ばしされて、自然消滅パターンですね」

「……そうはっきり言ってくれるな」




 そのあまりの落ち込みように、私は本格的に申し訳なく思えてきてしまう。



(……エヴァン王子は、真摯に私と向き合おうとしてくれたのに、それを私は見向きもせずに逃げようとしていたんだ……)




「……エヴァン様、どうなさるのですか」



 ジーンさんがそう尋ねると、エヴァン王子は「そうだな」と短く言って、ふっと笑った。



「後一ヶ月だけ待って見よう。 それで駄目なら、適当に花嫁を探すか、一生独身を貫くでも良い」

「……本当貴方は、一途と言うか諦めが悪いと言うか……」

「何か言ったか?」



 ジーンさんは、「いえ、何でもありません」と呆れたように言った。



(一途? 諦めが悪い?)




 ……どういうことだろうか。

 私の他に、花嫁はいらないと、そういうことなのだろうか。

(……そんなに私って、エヴァン王子にとって特別なの?)



 自分で考えていやいやいや、と私は否定した。

 あり得ないでしょう、と。

 茶色の髪にオレンジ色の瞳のせいで散々いじめられ、男性嫌いになって数々の縁談を断ってきた私と、一国の王子様とでは釣り合わないではないか。



(……それともエヴァン王子はそんな私を面白がって縁談を持ってきた男性と同じなのかな)



 そう考えてズキンと胸が痛んだ。

(……何故今頃、胸が痛くなるの……?)




 そんなことを考えている間に、エヴァン王子とジーンさんの話は進んでいたらしい。

 ジーンさんは何処か怒ったような口調で言った。




「適当に花嫁を探すなんて酷いですよ! それに独身でも良いって……」

「別に良いだろう? ……どうせ俺といたところで、その人も子供も、幸せになれるわけがないんだ」



(幸せになれるわけがない? どういうこと……?)



 エヴァン王子の言葉に、ジーンさんも一瞬閉口した後、小さく呟いた。




「……幸せになれる道を、貴方が切り開けば良いのです。 私共もそのために一丸となって今頑張っているのですから。

 ……それに貴方が一番、この国の王に相応しい方なのです」

「……」



 その言葉に、エヴァン王子は何も言わなかった。

 流れる沈黙が、とても重くて、私も食べるのをやめて何も言わないエヴァン王子を見つめる。



 王子は私の視線に気付き、少し微笑んで見せてからジーンさんを窘めた。




「……その話は、ここでするべきではない」

「……申し訳ございません。 出過ぎた真似を」

「……いや、別に」




 そう言ってエヴァン王子はまた食べ始めたが、依然空気は重いままだった。








 ☆






 エヴァン王子はその日も忙しそうで、何もすることがなかった私は、朝エヴァン王子とジーンさんが話していた内容について考えていたら、気がつけばあっという間に夜になっていた。

 そうして夜、エヴァン王子は帰ってきて昨日と同じく(着替えは勿論見ていない)ベッドに横になると、「おやすみ」とそう言ってすぐに寝息を立てて寝始めた。



(……やっぱり、朝あの話をしてからエヴァン王子の顔色、あまり良くなかった)



 ……何かこの王家には、秘密があるということだろうか。

 私が関与して良い問題ではないが、エヴァン王子の顔色が変わるほどの問題とは何なのだろうか。

 私は気になってエヴァン王子の顔を見ていたら……。



「……!?」





(……なに、これ……!)




 私の体の中が急に熱くなりだす。

 体の異変にいち早く気付き、私はそっとベッドから飛び出すと、一目散にバルコニーに向かって駆け出した。




 そうしてバルコニーを出た瞬間、私の目線が高くなるのを感じて恐る恐る体をみれば。




「……やっぱり」




 体が、元の姿……“人間”の姿に戻っていたのである。

(……でも、どうして?)



 確かオフィーリア様は、強く望まない限り人間には戻れない、そう言っていたはず。

 なのにどうして……。




「ごめんなさい、伝え忘れていたわ〜」

「!? ……び、びっくりした、オフィーリア様か……」




 オフィーリア様は「うふふ」と笑って箒に乗って宙に浮いていた。

 そしてひらり、と降り立ってバルコニーの手すりに座ると、「少しだけ、お話しましょう?」とにっこりと笑って言ったのだった。


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