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3.三毛猫になったワケ

「……」

(う……)



 この状況は何か。

 何故か私は今、絶賛エヴァン王子のお膝の上に座らされて睨めっこ、じゃない、見つめ合いが続いている。



 ……この瞳に見つめられると、どうも落ち着かない。

 怖い、とかとは違って、ただ何というか、他者を惹きつける“何か”を感じる。

(……それは彼が、“王子様”だからなんだろうか)



 そうしてにらめっこ状態で何故か私は膝の上に座らされている。

 触ろうともしないし、何もせずに、だ。

 逃げようとも思ったのだが、何もされないんじゃ何もしなくても良いと思った。

(……だって何か何もしたくないんだもの)


 眠くて堪らない。

(……そっか、私今猫の姿だからか)




 昔文献で読んだことがある。

 猫は一日に17時間も眠っていて、夜行性であると。

 だからなのか、瞼が異常に重い……。

 ところがその眠気は、次の瞬間一瞬にして覚めることになる。




「ん? これは……」

「んにゃ!?(キャ!?)」



 エヴァン王子の手が私の首元を触る。

 くすぐったい、というより気持ち良いとさえ感じてしまってギュッと目を瞑れば、エヴァン王子はそれ以上首には触れず、首についていた“何か”を見て言った。




「……“リリー”? お前、リリーっていうのか?」

「ニャ?(え?)」



 何のことだ、そう思って首を傾げれば、「なんだ、違うのか?」と驚いたように言った。




「……ってことは、またあのオフィーリア様の仕業か」




 そう言ってチッと舌打ちをし、私はその迫力にビクッとなる。 そんな私の震えを感じ取ったのか、「す、すまない」と私の頭を大きな手が撫でた。




「!」




 驚いて避けようとしてしまったが、私はハッと息を止める。

 ……それは、怖い顔をしていたエヴァン王子の顔が、嘘のように柔らかい表情をしていたから。

 ……あれだけ怖かった男性が、こんな顔をするんだ……。



 それに、頭を撫でられて心地よい。

 私は気が付けばゴロゴロと喉を鳴らしていた。




「? 何だ、気持ち良いのか」



 エヴァン王子は何処か嬉しそうに声を弾ませてそう言った。

 その時、コンコンとノックをする音が聞こえる。




「……誰だ」




 その瞬間、スッと空気が氷点下に一気に下がったのを感じた。

(……えっ)



 そのエヴァン王子の変わりように私が驚いていると、ガチャ、とドアが開いて現れたのは従者のような人だった。



「……何だ、ジーンか。 驚かせるな」

「申し訳ございません。 ……ではありません!! いつまで猫と戯れていらっしゃるのです!

 さあ、仕事に参りますよ!!」

「……チッ」

(……ジーンっていうのね)




 エヴァン王子は舌打ちをしながらも、渋々私をゆっくりとおろし、再度ぎこちない手つきで私の頭を撫でると、フッと微笑んで「行ってくる」と言った。




「!」




 私はその行動と表情に驚いて固まり、そんな私をよそに二人はバタンとドアを閉めて出て行った。




(〜〜〜何、あの表情……!)





 ……あの人は一体、何者なんだろう。

 そんなことを考えてしまうほど、私はボーッとエヴァン王子のあの表情が頭から離れなかった。





 ☆






「……きて、起きて、リリアン」

「ん……」



 私はふと顔を上げれば、もう窓の外は暗かった。

(あれ、もう夜?)




 いつの間に眠ってしまったのだろうか。 辺りを見回せば……。




「……っあ! オフィーリア様!!」

「やっと起きた」




 オフィーリア様は頰に手を当てて、ふふっと笑った。




「笑い事ではないです! 一体どういう状況なんですか!? 説明してください!!」

「まあまあ、そんな怒らないで」




 私がシャーっと爪を立てて怒れば、オフィーリア様はまた笑う。




「今はお話できるようにしているけど、それは私と話す時だけね。 魔法を使ってるから」

 まあ、その猫の魔法をかけたのも私だけど、と聞き捨てならないセリフを笑って言われ、私は怒る。



「どうして猫になって王子様に飼われているんですか!? 私、エヴァン王子との結婚の申し込みをどうにかしたくて、オフィーリア様に相談したのに!」



 私の言葉に、オフィーリア様は「そうね」と頷いた後、ニコッと笑ってとんでもない発言をする。




「でもそれだとつまらないでしょう?」

「……はい!?」

「だって“会ったこともない方と結婚なんてしたくない”……そう貴女は言ったわよね?」

「……言いましたけど……」



 私は頷くと、オフィーリア様はパンっと手を叩いた。



「それで思いついたのよ。 なら、貴女がエヴァン王子のことをもっとよく知ったら、どうなるのかなーって」

「……え!?」



 まさかそんな理由で!? 私が猫に!?

 私があんぐりと口を開ければ、「面白い顔ね」と失礼なことを言ってカラカラと笑うオフィーリア様。



「それで、猫にしたわけはまあ、貴女の髪と瞳の色が特徴的だから、それに合わせたわけよ。 そうしたら丁度、その姿……“三毛猫”っていう種類がいるって分かったから、丁度良い! ってなってね」

「……何が丁度良いんですか! いつもオフィーリア様は勝手に物事を進めすぎです!!

 せめて許可を取ってください!」

「あら、私がそんな提案をして果たして貴女、許可したかしら?」

「勿論しません」




 私がそう間髪入れず断言したら、「でしょう?」とオフィーリア様はふふっと笑う。



「まあまあ、後のことは私に任せなさいな。

 もうご家族には許可を頂いているしね。

 “一ヶ月だけ、リリアンのお時間をください”ってね」

「よくそれでOKがでましたね……」

「あら、魔女のオフィーリアって言えば、皆何も言わないわよ」




 魔女のオフィーリア。 この国唯一のとんでも魔法使いの彼女がいるから、この国は安寧を保たれてることもあって、皆からは神のように崇められている絶対的存在。

 王家にとってもオフィーリア様は大切な存在でもあるから、エヴァン王子だってオフィーリア様の前ではあまり強く出られなかったわけで。




「……そういえば、エヴァン王子ってオフィーリア様と仲がとても良さそうでしたが、どんなご関係があるんですか?」




 そんなふと疑問に思ったことを口にすれば、オフィーリア様は少し驚いた後、嬉しそうに声を上げた。



「あら! 嫉妬してるの!? 気になるの!?」

「ち、ちちちち違いますよ!! 何言ってるんですか!! ただ仲が良さそうだなーと思ったくらいで……!」




 その時、廊下から足音が聞こえてきた。





「……彼がもうすぐ帰ってくるわね」





 そうオフィーリア様は呟いたかと思えば、私の目の前に小さな紙を差し出してきた。

 その紙は私の目の前で小さな粒状の光になったかと思えば、私の口に思いっきり飛んできて……思わずごくんっと飲み込む。




「!?」




 驚く私に、「これで粗方貴女の身に何が起きているかわかると思うわ」と言って、にこりと笑うと、また霞のようになって次の瞬間、消えていたのだ。




「……にゃー(……嵐のようだわ)」






 私の呟きは、猫語になって空気に溶けた。

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