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ワケあり三毛猫の恋愛奮闘記。

エピローグです!

「……ふぅ」




 一息息を吐くと、活気溢れる室内とは打って変わって、少しひんやりとした風が頬を撫でる。





 今は王家主催の夜会中であり、私はそこに“リリアン・マレット”、マレット侯爵家の令嬢として呼ばれ、今に至る。

 そして……。




「!」




 不意に、肩に温かい温もりを感じる。

 私はそれに驚いて振り返れば、そこにいたのは。



「あ……、エヴァン王子」



 エヴァン王子は、私を見て破顔すると私の腰をぐっと抱き寄せ、耳元で囁かれた。



「俺の愛しい“婚約者様”はここにいたのか」

「〜〜〜!」




 そう、私は正式な婚約者になった。

 エヴァン王子は今すぐにでも結婚したいと言ってくれているが、私の準備が追いつかなかったからである。

 そして今日は、王子の婚約者でありお妃になる私の、お披露目パーティーという名の夜会だった。


 そんな私の婚約者様は、翡翠色の瞳を心配そうに揺らしながら、私の顔をそっと撫でる。




「こんなところにいては風邪を引いてしまうぞ。 ……まあ確かに、ここでなければ静かに過ごすことも出来ないだろうが」

「そ、そうですね。 確かに、皆さんの圧は凄いです」




 私はそう言って苦笑いした。

 そう、皆どうやって王子と出会ったのか、どうして婚約者になれたのか……など、まあ興味津々なのである。


 当然、幼い頃に出会ったとか、猫の姿でお側にいたなんて言えるわけがなく。

 私はそれらを何とか“御縁があって”の一言で返していた。

(……まあ、まだ私が侯爵令嬢なだけマシ、といったところね……)




 そんな私の遠い目に気付いた王子が、申し訳なさそうに言った。



「……君には、迷惑ばかりかけてしまってすまない」

「お、王子が謝ることではありません!

 ……それに、私だって逆の立場だったら、次のお妃様がどんな方だとか気になることもあったでしょうし、それに……」

「?」



 チラッと王子を見る。 そして首を傾げた王子を見て、俯きながら答えた。



「……こうしてエヴァン王子と正式に、婚約者としてお側に居られることが、とても嬉しいのです」



 本当に小さな声で言ったつもりだった。

 けれど、王子にはしっかりと聞こえたらしい。 王子は目を丸くした後、不意に私の顎に手をかけ、クイっと上を向かされたかと思えば、ほんの掠める程度のキスをされる。



「!?」



 バッと、私は口を押さえて怒った。



「え、エヴァン王子!! 夜会の最中です!!」

「はは、すまない。 リリアンが可愛くてつい」

「んなっ……!」



 カァッと顔に熱が集中するのを感じ、私は慌てて顔をそらし、手で頬を押さえた。 それを見て王子はクスクスと笑う。



「大丈夫だ、ここは会場からは死角となっていて見えないから」

「っ」



 まさかそこまで策士だったとは。

 そんな王子に目を向けた私に、王子は綺麗に微笑んでくるから言葉に詰まる。

 そして王子はふと、上を向いて「今日は月が綺麗に見えるな」と呟いた。

 私もその視線の先を辿ると、綺麗な月がぽっかりと浮かんでいた。




「今夜は満月なんですね」

「あぁ、綺麗だな」




 王子に視線を向ければ、王子の白銀色の結った長い髪が、月の光に反射してキラキラと輝いている。 それに、翡翠色の瞳も輝いて見えた。



(……綺麗)



 私がそう心の中で呟けば、王子が月に目を向けながら口を開いた。




「……リリアン。 君に一つ、聞きたいことがある」

「? はい、何でしょう?」



 私が首を傾げれば、王子は月にそっと手を伸ばして言った。



「……俺は、もうすぐこの国の王として、民を守っていく立場になる。

 そして、この国を導いていかなければならない。

 ……君だったら、どんな国を築いていくのが良いと思うか?」

「……私は、」



 エヴァン王子の質問に、私も王子が伸ばした手に重ねるように手を伸ばして口を開く。



「エヴァン王子が考えて、これから築こうとしている国が、一番良いと思います。

 ……エヴァン王子がどんな国を作ろうとしているかは分かりませんが、猫の姿から王子を見てきて、エヴァン王子は、この国の頂に立つべき方だと、そう強く思いました」



 猫の姿になって初めて知ることが出来た。

 王子が“冷血非情”だなんて嘘で、ただそれは、王子が自分の感情を封じ込めるために演じていた仮面であること。

 そして本当の王子は、とても温かくて形振り構わず人を助けてしまうような、優しくて素敵な方だということ。




「……猫の姿でなかったら気が付けなかったことを、私は沢山見てきました。

 ……だからこうして、私には勿体無いくらい素敵な、エヴァン王子が理想としている国が、私は一番良いと、そう思います」

「! リリアン……」




 王子が、月に伸ばしていた私の手を取る。

 そして、ぐっと引き寄せると、私を強く抱きしめた。

 驚く私に、王子は「有難う」と呟く。

 私はそれに答えるようにギュッと抱きしめ返すと、突然声をかけられる。



「貴方達、いつまでそうしているつもり?」


「「!!」」




 その声に驚いて少し王子から距離をとり振り返ってみれば、そこには豪華なドレスを着たオフィーリア様だった。



「お、オフィーリア様もいらしていたのですか!?」

「あら、当たり前じゃない。 私は貴方達のキューピッドなのよ?」

「自分で言うか」



 エヴァン王子の言葉にカラカラと笑い、オフィーリア様は言った。



「まあ、それは冗談で、祝福に来たのよ。

 めでたく私の可愛い二人の婚約発表だもの。

 ちゃんと私の友人から直々にご招待も受けているわ」

「? 友人……?」




 私の言葉に、オフィーリア様は「その話は長くなるからまた今度ね」と苦笑し、王子に向けて言う。




「で、いつまでリリアンちゃんを独り占めしているつもり?

 仲良くするのは良いことだとは思うけれど、貴方方のご家族が探しているわ」

「! そ、それは大変!」



 行きましょう! と王子に言えば、王子は少し嫌そうにする。

 そんな王子の表情を見てオフィーリア様と二人苦笑いすれば、オフィーリア様が王子に向かって言う。




「早く行かないと、マレット侯爵に“リリアンは渡さない!”って怒られるわよ?」



 その一言に、王子が焦ったような表情をする。



「!? それは大変だ、早急に行かなければ」

「え、えぇ!?」




 あまりの変わりように、私は驚いてしまう。 オフィーリア様はそれを見て再度カラカラと笑い、「ほら、早くリリアンちゃんも行ってらっしゃいな」と背中を押される。

 私は王子の手にそっと手を乗せてから、思い立ってオフィーリア様の方を振り返る。




「あ、オフィーリア様!」

「? ん?」





 私は首を傾げたオフィーリア様に向かって淑女の礼をとると言った。






「有難うございました」






 今までのことも全部含めて、心を込めてそう一言口にすれば、隣にいた王子も頭を下げて「有難うございました」と口にした。



 オフィーリア様はその意味を捉えたのか、少しだけ照れ臭そうに笑って「大丈夫だから、早く行きなさい」と私達に向かって言う。



「リリアン、行こう」

「はい!」



 私は王子の言葉に元気よくそう返せば、王子は嬉しそうに微笑みを浮かべ、私達は光り輝く会場へと足を踏み入れる……―――







「リリアン」



 隣を歩いていた王子が、私の名を呼ぶ。

 その声に私は顔を王子に向け、「はい」と答えれば、王子はふっと微笑んで、まるで慈しむかのように私を見て言った。




「……君にも、感謝している。

 幼い頃からずっと、記憶をなくしても、リリアンは“リリー”の姿でも、逃げずに側にいてくれた。

 ……有難う」

「……!」




 そう言って王子は、私の手を軽く持ち上げて口づけを落とす。

 そして今度は私が、王子に向かって口を開いた。



「……それは私のセリフです。

 エヴァン王子がいてくれなければ……イヴお兄ちゃんがいてくれなければ、私はここにこうして立っていることもなかったでしょう。だから、有難うございます。

 ……そして、これからもどうか、お側に居させて下さい」

「! ……はは、リリアンには敵わないな」

「え?」




 エヴァン王子の言葉に驚けば、王子はふっと微笑みを浮かべながら言った。



「それこそ、こちらのセリフだ。

 ……ずっと、俺の側にいてほしい」

「……! はい!」





 私はその言葉に大きく頷いてみせる。





 そして王子と二人、顔を見合わせて笑い合ったのだった。








 ―――……最初は、正面から向き合おうとはせず、逃げようとしてしまった。



 男性が苦手だからと、それだけの理由で。



 でも、オフィーリア様が私を三毛猫の姿にしてくれたから、エヴァン王子に向き合うことが出来た。



 そして、エヴァン王子は私と誓った幼い頃の約束を、ずっとずっと覚えてくれていた。



(……いつも貰っているのは、私の方)



 だから今度こそ、王子と正面から向き合う。

 今度はちゃんと、人間の姿……“リリアン”として。



 そして、王子に少しずつでも、この気持ちを返していけたらと思う。





「……エヴァン王子」

「ん?」




 私の呼びかけに、王子がこちらを振り向く。

 そんな王子に向かって、私は笑顔で言ってみせた。







「大好きです」





 そう猫の姿では言えなかったことを、今ならちゃんと、王子に向かってはっきりと言うことができる。




 そんな私の言葉に、王子は驚いたような顔をした後、少し照れ臭そうに、でも力強く頷いて口を開いた。






「俺も。 君を愛している」








 彼はそう言って、私に向かって、幼い頃から変わらない、温かな微笑みを浮かべてくれたのだった。






『ワケあり三毛猫の恋愛奮闘記。』 END

『ワケあり三毛猫の恋愛奮闘記。』、これにて完結です…!

評価やブクマ、温かい感想やレビューまで頂き、とても励みになりました…!有難うございます!この作品のキャラは特に、描いていてとても楽しく、皆様にも楽しんで読んで頂けたら良いなと思って書いておりました。いかがだったでしょうか?

また、処罰に関しましてちょいざまぁを予定しておりましたが、私的に胸糞展開になってしまう…!と感じ、このような展開にさせて頂きました。

これにて本編は完結致しましたが、もう少しリリアンとエヴァン王子のイチャイチャシーンを書きたい←と思い、後1話だけ番外編(甘さ多め)として載せる予定でおります。

又、次連載も現在ストック中ですので、また何処かでお読み頂けたら幸いです。

長くなりましたが、最後までお読みくださり本当に有難うございました…!

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