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28.真実

 暫く私達はそうして抱きしめ合っていると、不意に周囲が明るくなる。




「「!」」




 私達はその光の方を見れば、そこに現れたのはオフィーリア様だった。

 そして私達を見ると、軽く頭を抑えて口を開いた。



「……あら、私が忙しく動き回ってるっていうのに、貴方達はイチャイチャしてたのね」

「……分かっているなら邪魔をするな」

「ちょ、エヴァン王子……」



 オフィーリア様に一瞬にして不機嫌さ全開で答える王子に、私は慌てて止めようとしたら、オフィーリア様は私を見て「まあ、リリアンちゃんが元気そうで良かったわ」とにっこりと笑って言った。




「そういえばリリアンちゃん、体の調子はどう? もうその様子だと、記憶、全部思い出したのでしょう?」

「! ……はい」




 私が小さく頷けば、オフィーリア様はきらっと目を輝かせて言った。



「あら! ならエヴァン王子のことも思い出したのね! 後でお話しましょう!!」

「は、はい」



 半ばオフィーリア様の言葉に押されるまま頷くと、王子は私を庇うようにして言った。



「その話なら先に俺と話してからだ」



 そう王子がオフィーリア様に言い、オフィーリア様は「まあ! なんて上から目線なの!」と抗議の言葉を口にするが、エヴァン王子はそれを軽くあしらうと、軽く咳払いをした後オフィーリア様に問う。



「……それより、リネットの始末はどうなったか、教えてくれないか」

「!」



 私が眠っている間に、リネット女王の処罰は決まっていたのか。

 私は驚いてオフィーリア様を見れば、オフィーリア様は私とエヴァン王子を交互に見て柔らかい声で話した。



「大丈夫よ、比較的平和的解決方法にしておいたから。 ……一応、リリアンちゃんとエヴァン王子が姿を消したあの後の話を簡単に説明するわ」





 そう言ってオフィーリア様は口を開いた。






 ☆





(オフィーリア視点)


 リネット女王、それからリリアンちゃん、エヴァン王子のやりとりを傍観していた裁判の場は、何事だ、とざわざわとした空気に包まれた。



  (……これは後々残しておくと問題になりそうだわ)



 そう考え、私はパチンと指を鳴らし……辺りが黄色い光に包まれる。




 それと同時に、皆のざわついた空気がピタリと収まった。



(……ふぅ、これで私が、リリアンちゃんに魔法をかけてエヴァン王子の元にいさせたことは、明るみに出なくて済みそう)




 皆に今起きたことの“忘却魔法”が成功したことを確認した私は、改めてリネットを見下ろした。

 そしてリネットは、私を見ると苦々しげに呟いた。



「……何故私には忘却魔法をかけなかった」

「あら、何のことかしら? ふふっ」



 私がわざと笑って見せれば、リネットはチッと舌打ちをして綺麗な顔を歪ませた。

 私はそのリネットに向かって「さて」と口を開く。



「裁判を開始しましょう」



 私の言葉に場が静まり返る。



「まず貴女の罪について、もう一度確認するわ。

 まず一つ目は、20年前……エヴァン王子の母親であり、アダム王の正妻でいらっしゃったエリン様を殺害した罪。 死因は不明」



 チラッとリネットを見て、黙り込んで私の話に耳を傾けていることを確認し、私は続ける。



「二つ目は、エヴァン王子が12歳の時、彼に毒を盛り、殺害未遂を起こした。

 それも、やったのは貴女ね?」

「……」



 リネットは黙りを貫いている。 私はそれを一瞥して、再度口を開いた。



「そして三つ目は、アダム王……貴女が王座に座るために、彼を殺した、或いは行方をくらまさせた。 そうね?」

「……っ」



 それまで黙っていたリネットがこちらを向いて何かを言いかけ……、口を一瞬閉じたかと思ったら、ふっと鼻で笑った。



「……そうね、全て私がしたことだわ。

 皆……皆憎かった! だってそうでしょ? アダムだってエリンだって私に優しくしてくれた。

 だけど、二人の絆は私なんかとは比べ物にならないほど、陛下と彼女の仲は親しかった。

 ……私が、どれだけ愛しても、アダムには伝わらなかった……」




 傍聴人達は息を飲む。

 ……それは、あれだけいつも強いリネット女王が、涙を流していたから。



「……彼の心が、少しでも私に向けられればと思った。

 だけど、彼の心にはいつもエリンがいて。

 ……辛かった、苦しかった。

 メイナードを産んでも、可愛がるのはエヴァンばかり。 ……それが一番、耐えられなかった。 だから、私は黒魔法に手を染めた。

 全ては、メイナードを王にするために」

「それは違うよ、母さん」

「!」



 それまで黙っていたメイナード王子が、今度は進み出て真っ直ぐにリネットに近付く。

 私はハッとしてそれを制したけど、メイナード王子は大丈夫、と頷いて少し離れたところで立ち止まった。

 そして、片膝をついてリネットと視線を合わせた。





「……母さんは知らないかもしれないけど、父さんは僕にも、エヴァン兄さんと変わらず会いに来てくれていたよ。

 母さんが公務で忙しいからって、忙しい合間を縫ってエヴァン兄さんを連れて一瞬でも会いに来てくれることもあったし、兄さんと一緒だと、楽しいだろうからって。

 兄さんも優しくしてくれたし、僕は幸せだったよ。

 ……それに、父さんはいつも会いに来るたびに言っていた。 “リネットとメイナードには辛い思いをさせてばかりですまない”って」

「……!」




 リネットは目を見開く。

 私もそれを聞いて安心した。

(……この家族は、ただ、不器用なだけだったんだわ)




 ……深い愛情を持つばかりに、すれ違って、それが憎悪となってリネットは、事件を起こしてしまった……。




 リネットの目から涙が零れ落ちる。

 メイナードは「だから、」と口にする。




「僕もアダム王もエリン様も、母さんが本当は優しくて、温かくて、頑張り屋なことも知っている。 エリン様が病気がちで、アダム王が心配してつきっきりになっていたから、エリン様の分の公務もしなければならなくて、毎日忙しかった。 それでも弱音を吐くことはなくて、溜め込んでしまった。

 母さんは寂しかったんだよね?

 ……僕がもう少し、そういうことに気が回っていれば良かった。 母さんがいなくて寂しかったのは、僕だけじゃないんだってこと、しっかり皆で話し合っていれば良かったんだ。

 ……ね、そうでしょう? お父様、それにエリン様」



「!?」





 その言葉とメイナード王子が向けた視線の先を見て、リネットも傍聴人も驚き騒めく。

 ……その方向には、亡くなったとされていたアダム王とエリン様がいたから。




 どういうことだ、と傍聴席側が騒めく。 私はそれを制し、しっかりと周りに聞こえるようにリネットに語りかける。




「……先程お話した罪……王とエリン様を殺した罪は未遂ね。 未遂、というよりは殺せなかった、という方が正しいかしら?」

「……っ」




 リネットの顔が少し歪み、視線をそらす。

  それを肯定ととらえ、私は話を進める。



「この二人は、貴女の黒魔法で時を止めて、秘密の場所に隠されていた。

 ……大変だったのよ、見つけるの。 王家の重要機密なんて魔法を使って探れるものではないし。 こちらも不可侵はあるからとても大変だったわ」

「……じゃあ何故、見つけ出してこの場に連れてきたの?

 私を始末してからでも良かったじゃない」



 その言葉に、私は怒る。



「あら、私がそんな嫌な奴だとでも思って?

 貴女の罪を少しでも軽くしようと思ったのよ。

 ……まあ、私の慈悲の心を動かしたのは、私の大切な子達……二人の存在なのだけれど」



 貴女もその目で見たでしょう、そう言えば、ハッとしたような顔をし……俯いた。





(……そうよ、もしこれが私一人だったら、自らの手を汚すことだって考えてたのよ)






 ……だけど、それこそ心が温かくて純粋な二人……リリアンちゃんとエヴァン王子だったら、きっとそれを望まないと思ったから……―――







「……二人に、感謝することね」




 私はそう言うと、パチンッと指を鳴らす。

 驚いて私を呼び止める王に、私はふふっと笑ってみせる。




「私の出番はこれで終わり。

 できるだけのことはやったのだから、後はあなた方にお任せ致します。

 ……処罰に私が関わるとしたら、またその時に呼んで下さいな」





 そう言って私はパチンと指を鳴らすと、その場を後にしたのだった。







 ☆





(リリアン視点)



「……! それでは、エヴァン王子のご家族は皆、無事だったってことですか!?」



 私が開口一番そういえば、オフィーリア様とエヴァンお兄様は顔を見合わせ、笑みを浮かべて頷く。

 私はその二人の表情を見て、安堵と色々な感情が混じって涙が零れ落ちる。



「良かった、王子は、やっぱり、一人じゃなかった……」

「……リリアン」



 エヴァン王子が私の頰に伝った涙をそっと拭ってくれる。 私もその手を上から包み込んでそっとエヴァン王子に言った。



「本当に、良かった……」

「……あぁ」




 エヴァン王子の緑色の瞳にも、うっすらと涙が滲む。

 後ろにいたオフィーリア様も、温かい表情を浮かべていたけど、エヴァン王子に向かってそういえばと口を開く。





「まだリネットの罪が決まっていないようだけど、貴方はどうするつもりなの?」





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