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2.冷血(噂)王子様との御対面

「……」



 微睡みの中で、何やら騒がしい声がして、私はうつらうつらとしながら目を開けた。

 ……その視界の先にいたのは。



「ニャッ……!?(え……!?)」




 そこにいたのは、至近距離で私を見つめる、切れ長の深い緑の瞳に白銀の髪を持つ男性……そう、間違いなくこの国の王子様である第一王子の“エヴァン”王子のお顔が間近にあった……!





「ニャッ、ニャーーー!!(ちょっと、何触ってるのよーーー!!)」

「わわ……ほら! この猫だって嫌だと言っているじゃないか!」

「あら、猫の話している声が聞こえでもするのかしら?」





 そんなオフィーリア様の言葉に、エヴァン王子は頭を抱えた。

(……何、なに、何が起こってるの……!?)




 未だ分かっていないこの状況に、オフィーリア様はとんでもない爆弾発言を投げてよこした。




「その子は私からのプレゼント。

 貴方最近、よく眠れていないんでしょう? その子でもお世話をして、癒されたらどう?」



 そう言って私を見て、オフィーリア様はニヤッと笑ったのを私は見逃さなかった。

(……ん!? プレゼント!? 私が!?)




 ……それに、さっきから声が出せない。

 何がどうなっているの……?



 私は嫌な予感がして、自分の手を見ようとして……固まった。




「……ニャーーーーーーー!?!?(……何これぇぇぇえええ!?!?)」

「うわっ」




 驚いたエヴァン王子の手が反射的に離れ、私は床にダイブ……するかと思ったら、フワリと着地。

 その行動と自分の体に起きたある“変化”を実感して、私はまたもや悲鳴をあげた。




「ニャーーーーーー!!!(猫になってるーーーーーー!!!)」






 そう、私……リリアン・マレットはなんと、目覚めたら猫の姿になっていた。




 ……それは言うまでもなく、十中八九、悪戯好きの魔女様の仕業である。




(ど、どどどどうして私が猫に……!?)




 そんな私をよそに、二人は会話を続ける。




「ふざけるな! ここは動物を飼ったりする場所ではないんだぞ!」

「あら、逆に良いじゃない。 動物の一匹や二匹飼っていないから、貴方は“一匹狼”だの“冷血非情の王子様”だの言われるのよ? 悔しくないの?」

「……チッ、言いたい奴には言わせておけば良い」

「そのせいで、あの子……リリアンちゃんがお嫁に来ないんだとしても?」

(えっ……!)





 そこでその話題を出しますか!?

 私は驚きと焦りで、オフィーリア様を見る。

 するとオフィーリア様はこちらを見てにっこりと笑うと、そっと王子様を見るよう目で促した。

 私は怖かったけど、言われた通りエヴァン王子を見上げてみれば……。



(……え)





 悲しそうな顔をしていた。

 ……でもそれは、ほんの一瞬で。



「……お前に何が分かる」




 そう殺気を放ちながら捨て台詞のように吐いたエヴァン王子を見て、私はその迫力にビクッと震える。

 それを見たオフィーリア様は怯むどころか、ふふふと笑った。



「怖いわね。 そんな顔をしていたら皆逃げ出してしまうわ。

 ほらスマイルスマイル」

「何がスマイルだ! ……」



 エヴァン王子は肘掛をバンッと叩きながらそう言って、今度は私をじっと見つめてきた。

(……う)



 私はどきりと心臓が跳ね上がった。

 ……端正な顔立ちに、白銀の髪の間から覗く深い緑色の瞳に見つめられ、心臓がドキドキしてしまうのは不可抗力で。

 そうして不意にエヴァン王子の腕が伸びてくる。


 驚きで固まってしまう私を、ヒョイっと持ち上げ……その綺麗な瞳と真正面から交錯する。



(……ひぃぃぃぃいいい)




 声にならない悲鳴が漏れそうになるのを慌ててこらえ、私は固まってしまう。

 ……だ、だだ男性に触られているぅぅぅ !!



「……やっぱり、この猫は俺の所には来たくないようだ。 持って帰れ」

(……へ?)




 そう言ってエヴァン王子は私を抱き直すと、椅子から立ち上がる。

(……いやいやいや! 抱き直さんで良いからぁぁ!?)

 そんなエヴァン王子の言葉と、私の心の声が聞こえたのか。

 オフィーリア様はくすくすと笑いながら、肩頬に手を当てて言った。




「あら、どうしましょう。 その子、飼い主がいないのよ。 珍しい東の方の国で飼われている“三毛猫”という種類らしいのだけど……私の家でも飼えそうにないから……そうね、高値で売ってしまおうかしら」

「は!?/ニャ!?(何ですと!?)」



 エヴァン王子と私の、驚きの声が重なる。

 オフィーリア様は「というわけで返して頂戴」と手をエヴァン王子に差し出す。




(……いやいやいや! 売られる!? しかも高値って……! この猫の姿で!? 私は本当は人間なのよ!?

 ……オフィーリア様は何を考えていらっしゃるのよ!?)




 オフィーリア様が何を企んでいらっしゃるのか。 分からないが、売られるのだけは言語道断。

 ……こうなったら、私はエヴァン王子に飼われるしか選択肢はない。

 最初はオフィーリア様に連れ帰ってもらおう、そう思っていたが、このまま渡されてどうなるか分からない。




 こうして思考転換した私は、今度は上目遣いにエヴァン王子をじっと見る。




 その視線に気づいたエヴァン王子は私の瞳を見てうっと声を唸らせ……やがて長ーくため息をついて言った。




「……分かった。 飼う。 飼えば良いんだろう」



 投げやりにそう言ったエヴァン王子はそう言って「ただし!」と大きな声をあげた。




「本当に一ヶ月だけだぞ! それ以上は待てないからな! さっさと飼い主を探せ!!」

(……一ヶ月? 何? 何を言ってるの?)



 エヴァン王子の言葉に?マークでいっぱいになるが、二人の会話はまだ続く。



「まあ、酷いわ。 私は貴方がもうすぐ誕生日だというから、こうして喜ぶかと思ってお祝いとして献上してあげたのに。

 ……それに貴方、可愛いものとこの色、好きでしょう?」

「!?」

「?」

(……可愛いものと、この色が好き……?)




 この三毛猫という姿をまだ鏡で見ていないから分からないが、可愛いものはともかく(いや、冷血王子様なのに可愛いもの好きだとは驚いたけど)、色が好きって何……?



 私は疑問に思ってエヴァン王子を伺い見れば。




「……!」

(エヴァン王子、お顔が真っ赤だわ)



 その瞳には恥ずかしさからかうっすらと涙が滲んでいて、私は驚く間も無く、エヴァン王子は今度こそ本気で大きな声を出した。




「余計なことを言うな! 早く行け!」

「歳上の魔女に向かって、何て口の利き方なの!

 ……まあ良いわ、今日は許してあげる」



 オフィーリア様はカラカラと笑うと、私の方を見てパチンッと片目を瞑った。

 その瞬間、スッと頭の中にオフィーリア様の声が響く。



(“後で説明しに来るわ?”……いや、今説明してよ!!)





 そんな私の叫びは届かず、「ニャーニャー」と鳴く声だけが私の口から出る。

 それを見たエヴァン王子が慌てたような顔をしているが、今はそれどころではない。

 今すぐにこのわけが分からない事態の説明をして欲しいのに。




 オフィーリア様は「それではね」と次の瞬間、何事もなかったのように霞となって消えたのである。







「にゃーーーーー!?(だから状況を説明してーーーーー!?)」






 誰もいないだだっ広い王室の中に、私の悲鳴……正しくは猫である私の鳴き声がこだましたのである。






 ……こうして私(猫)と、冷け……ゔっ、ゔん、エヴァン王子との生活(攻防戦)がスタートしたのだった。




 果たして私の、運命やいかに……。

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