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19.嵐の前の静けさ

 エヴァン王子は私を下ろすと、ドサっとベッドに横たわった。



「……はぁ、全く、オフィーリア様はすぐに俺をからかおうとするんだから困ったもんだ。 すぐに子供扱いしてくる」

「にゃ、にゃー(た、大変ですね)」



 オフィーリア様はとんでも魔女様だから、私に対してもそうだからなぁ、と苦笑いする。

 王子は「あ、そうだ」とゆっくりと体を起こすと、私に微笑んだ。



「今日は付き合ってくれてありがとうな。 昨日も遅い時間にオフィーリア様の元へ行って疲れていると思ったんだが、どうしても二人で出かけたくて。 ……はは、こうして言えば本当にデートみたいだな」

「にゃ!?(デート!?)」



 お、おおお王子が認めるとは思わなかった……!

(た、確かに私も、デート見たいって少し……ほんの少し、浮かれてたところもあったけど……!)

 少しだけ慌てる私を見て、クスクスと王子は笑うと、今度は胸ポケットから何かを取り出した。



 それは、小さな箱で。



「これを、リリーに渡そうと思って買ったんだ」




 そう言って私の首に腕を回してつけてくれる。

 さらさらとした漆黒から白銀色に戻った髪が、私の目の前で揺れる。

 ……後、王子の良い匂いがする。

(……いやいやいや私変態じゃないんだから)



 そんな私をよそに、王子は私の首を見て、「うん、似合ってる」と微笑んだ。

 甘い微笑みに、私はうっとなったが、それより何をつけてくれたのだろうか。

 私は王子の部屋にある大きな鏡の前に行くと……。




「!!」



 そこに映ったのは、白銀の円形の型に緑色の石……エメラルドが埋め込まれている、ペンダントだった。




「にゃ、にゃー!(え、えー!)」

「……気に入ったか?」




 私は驚いてしまう。 リリアンの物だけでなく、私……猫の“リリー”にも、こんなに素敵なものを買ってくれたのだ。

(それにこれ、まるで王子の髪と瞳と同じ……)

 私はエヴァン王子を見つめれば、「気に入らないか?」と再度不安そうに言う王子に、私は「にゃ!(違う!)」と首を振って反論する。

 それを見た王子は不安げだった顔が嘘のように笑顔になって……。



「よかった」



 と一言そう言って笑った。



「……昨日リリアンからのプレゼントを届けてくれただけでなく、今日一日、一緒にいてくれたからな。

 本当に、今日は楽しい誕生日だった」



 有難う、もう一度エヴァン王子はそう言って笑うと、私の頭を一撫でしてからその姿が銀色の光を纏う。

 驚く私に、王子はため息をつきながら言った。



「まだ色々とやることがあるから片付けてくる。 ……気が遠くなりそうだ」



 肩をすくめて見せる王子に、私は「にゃー!(頑張って!)」と言ってみせれば、王子は苦笑いをして手を振る。

 その姿を見送ってから、私は再度鏡に視線を移した。



(王子と同じ、髪と瞳の色)




 私は首についているペンダントを見て、とても温かい気持ちになる。

(王子は、それを意識して買ってくれたのだとしたら……嬉しいな)

 エヴァン王子に、少しは近付けているの思っても良いのかな。

 ……例えそれが、猫だとしても。




(……猫の姿の私でも、王子の側で、王子のお役に立てているのなら……嬉しい)





 私は王子が帰ってくるまでそのペンダントを、鏡ごしに見つめていたのだった。







 ☆







 翌日。

 エヴァン王子の部屋にある人が尋ねてきた。



「エヴァン兄さん?」

「あぁ、メイナードか。 すまない、今行く」



 それは、第二王子であるメイナード王子だった。

 エヴァン王子は寝室で着替えていたから、私はそれを見ないようにしながら隣の部屋から入ってきたメイナード王子の元へ行くと、エヴァン王子が寝室から声をかけてきた。




「あぁ、メイナード。 その三毛猫がリリーだ」

 そう私を紹介する王子の言葉を聞いて、私は一瞬ドキッとする。

(そっか……! 私、メイナード王子とこの前会ったばかりだけど、エヴァン王子はそのことを知らないんだった!)



 私は慌ててメイナード王子を見れば、ふふっとメイナード王子は笑って片目を瞑ると、私の頭を撫でながら言った。



「初めまして、リリー。 エヴァンお兄様から噂は予々聞いているよ。

 僕はこの国の第二王子のメイナードだよ。 宜しくね」

「にゃ、にゃー(よ、宜しくお願いします)」

(メイナード王子、話を合わせてくれた……)



 や、優しい、と感動していると、着替えを終えたエヴァン王子が後ろから歩いてきて言った。



「メイナード、待たせたな」

「いや、大丈夫だよ。 二人で仕事だなんて、久しぶりだよね」

(そうなんだ)



 私は二人を見上げれば、ふとメイナード王子は私をじっと見たかと思えば、エヴァン王子を見て笑う。




「あれ、兄さん、リリーちゃんにペンダント買ってあげたの? よく見たら、兄さんと同じ色だし……もしかして、これは俺のっていう……ふごっ」




 そう言ったメイナード王子の口をエヴァン王子は手で塞ぐと、「さ、時間がないから行くぞ」と言ってその場を後にする。




「にゃ、にゃー!(い、いってらっしゃい!)」

 と私が慌てて言えば、苦笑いをしたエヴァン王子が「行ってくる」と言い、バタンとドアが閉まる。




 そのドアの向こうで、二人の何かやりとりをする声が聞こえ、私は思わずクスリと笑ってしまう。

(……エヴァン王子とメイナード王子を見ていると、やっぱり兄弟だなって感じるわ)






 仲が良くて羨ましい。

 私は心の中でそう思うのだった。






 ☆







 夜。 王子は遅い時間に帰ってきた。

 お酒の匂いはしないから、どうやら夜遅くまで仕事をしていたらしい。

 私を見ると、温かい微笑みを浮かべて「リリー、ただいま」と私の頭を撫でた。



 ……でもいつもより、王子の顔が浮かない顔をしていることに気づいて、スリッと顔を手に寄せれば、少し驚いたような顔をした後、喉を撫でられ、気持ちが良くて自然と喉がゴロゴロとなる。

 暫くそうして戯れていたが、ふと王子の手が止まって私をじっと見つめた。




「……リリー、この先、もし俺が……」

「……?」




 王子はそこで言葉を切って……やがて「いや、なんでもない」とふいっと私から顔を逸らすと、顔を見られないようにして上着を脱ぐ。

 私はそんな王子から視線を逸らしながらも、さっき王子が言おうとしていたことを考える。




(……王子、何を言おうとしていたんだろう?)






 途中で言うのをやめたということは、そんなに重要なことではなかったのだろうか。

 ……でもその割に、王子の表情が暗いように見えたのは……。




(……気のせい、なのかな……)





 あれこれ考えてみたが、一向に答えは出なくて。

 結局王子はその後、何も言わないまま夜は更けて行ったのだった。








 ―――……この時、エヴァン王子が言おうとしていたこと……王子自身が危惧していた大事件が後に起きるなんて、私は知る由もなかった。

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